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第七十五章 その一 荒れ狂う悪魔

 レーア達が乗るホバーバギー部隊は、レーアの檄の中、脱落するバギーを一台も出す事なく、進軍を続けていた。

(まさに勝利の女神だな、レーアさんは)

 護衛役でついて来たはずのカラスムス・リリアスだったが、自分がレーアに守られているような気がして来た。その後方から続いているバギーの助手席にいるタイタス・ガットは、サーチライトで夜の闇に浮かび上がっているレーアが本当の女神に見えていた。

(やっぱり、レーアと共に生き延びたい)

 それは祈りにも似た本音であった。

「攻撃が当たっていないわよ! ちゃんと狙いなさいよ!」

 レーアは段々言う事が大胆になって来ていた。当たらないと思えて来たのではなく、完全に敵を心理的に呑んでしまったと思えたのだ。

(ザンバースの娘効果が健在なのか、何か企んでいる連中がいるのかわからないけど、とにかくこのまま進むのみね)

 レーアは右肩に担いだバズーカ砲を下ろした。

(怖いのは窮鼠猫を噛むね。追い込み過ぎると、何をして来るかわからないし、自棄を起こされて被害が拡大するのは避けないと)

 レーアは挑発をするのをやめてシートに座った。

「敵は戦意を喪失しかかっていると思います。威嚇射撃だけで速度を上げて突破しましょう。ここの守りはそれほど厚くないはずです」

 レーアはリリアスを見て言った。リリアスは頷いて、

「そのようですね。部隊としては大きいナスカート達の方が本隊だと判断したのかも知れません」

「マリリアさんは大丈夫かしら?」

 レーアは腕組みをして不安そうに呟いた。

「マリリアはナスカートが守っていますよ。あいつ、戦場で女性はこれ以上死なせないって言ってましたから」

 リリアスの言葉にレーアは今は亡き親友のクラリア・ケスミーを思い出していた。

(ナスカートはクラリアの事を思っているのね。私も同じ。マリリアさんはこの作戦の提案者であり、アイデアルへの特別なルートを知っている人。何としても辿り着いてもらいたい)

 レーアの部隊は後退していく帝国軍の部隊を蹴散らすように進み、南下を続けた。


 ナスカートは、リリアスの言う通り、マリリアを身体を張って守っていた。彼は対戦車砲に砲弾を装填して撃ち続けていた。

「私に何かお手伝いする事は……?」

 マリリアがシートに身を竦めたままで尋ねた。するとナスカートは砲弾を更に装填しながら、

「何もない」

 冷たく言い返した。マリリアは目を見開いて驚き、

「私だって、命を捨てる覚悟でここまで来たんです! 何かお手伝いさせてください!」

 危険を顧みずに顔を上げて叫んだ。ナスカートは仰天してマリリアの顔を押し下げ、

「危ないって!」

「危ないのも承知しています!」

 マリリアはやっと仲間になれたと思い始めていた。だからこそ、同じように戦いたいと感じているのにナスカートの言葉があまりにも冷たいので、悲しくなって涙ぐんだ。

「だったら、あんたがなすべき事は、俺達をアイデアルまで導く事だ」

 ナスカートはシートに腰を下ろして告げた。美人のマリリアが目を潤ませて自分をジッと見ているのを知り、ナスカートはニヤけそうになったが、何とか堪え、

「それから、軽々しく命を捨てる覚悟とか言うな。俺達は全員でアイデアルに行くんだ。そして、全員で帝国を打倒し、連邦を復興させるんだ」

 マリリアは涙を零してナスカートに抱きついた。

「ありがとうございます、総司令」

「わわ!」

 ナスカートはびっくりして顔を真っ赤にした。マリリアはナスカートから離れ、

「私、なかなかメックの死を受け入れられなくて……」

「あんた、メックの事を……」

 パルチザン隊の総隊長であるメキガテル・ドラコンが行方不明になってすでに半月以上経つ。その間、ナスカートは周囲に、総隊長を引き継ぐように言われた事が何度かあったが、レーアの気持ちを考えて辞退して来た。

(妬けるぜ、メック、独り占めかよ)

 ナスカートは思わず苦笑いした。マリリアは赤面して、

「レーアとメックが相思相愛だって知りながら、私は彼の事を諦め切れずにいました。でも、メックがあんな事になって……」

 そう言って目を伏せて涙を堪えるマリリアを見て、

(ごめん、レーア、俺、マリリアに惚れそうだ)

 どうしようもないナスカートであった。

「総司令、レーアさんの部隊が敵の包囲網を突破したそうです」

 通信士が伝えた。デレッとしかけていたナスカートは真顔になり、

「よおし、こっちも負けてられねえぞ! 一点突破だ!」

と命じ、また立ち上がって対戦車砲を構えた。


 帝国軍司令長官でもあるタイト・ライカスは大帝府の自室で、パルチザン隊の進撃を止められなかったという報告を受けていた。

(レーアお嬢様の存在は、末端に行くほど大きい。そして、末端に行くほど、帝国への忠誠心は薄い。まずい事にならなければいいが……)

 カリブ海の帝国軍がパルチザンの勢いを見て次々に投降した事をライカスは思い出していた。

(あの時と同じ事が起これば、大変な事になる。どうしたものか……)

 ライカスは帝国軍の崩壊を恐れていた。その時、彼の机のインターフォンが鳴った。ライカスはギクッとしてボタンを押した。

「はい」

「私だ」

 予想通り、相手はザンバースであった。

「な、何でしょうか?」

 ライカスは震える声で尋ねた。するとザンバースの声は、

「醜態だな、ライカス。何故敵を殲滅できないのだ?」

 冷たく抑揚がない。ライカスは悲鳴を上げてしまいそうだった。

「そ、それは……」

 ライカスが返答に困っていると、

「もういい。ここから先は私が直接指示を出す。お前は休んでいろ」

 一番聞きたくない事を言われてしまった。

「た、大帝、それはどういう……」

 ライカスは焦って言ったが、すでにザンバースは通話を斬ってしまっていた。ライカスは血の気が引いていくのを感じた。

(私は終わりなのか?)


 その頃、大西洋を横断し終えたマルサス・アドムの乗る護衛艦は地中海に入り、エメラズ・ゲーマインハフトがいると思われる港を目指していた。

「アドム指揮官、妙な事がわかりました」

 護衛艦の艦長がマルサスがいる船室にやって来た。

「どういう事です?」

 マルサスは残った左目を細めて艦長を見た。

「気になったので、偵察機を先発させたのですが、港にゲーマインハフト司令官の姿がないらしいのです」

「何ですって?」

 マルサスはゲーマインハフトに一杯食わされたと直感した。

(やはり何かを企んでいたのか? どうすれば……)

 マルサスは腕組みをして考え込んだが、

「とにかく、港まで向かってください。それ以降については、大帝に指示を仰ぎます」

「はい」

 艦長は敬礼して部屋を出て行った。マルサスはすぐに通信機を取り出し、ザンバースに連絡を取った。それは盗聴できない特別なものであった。

「どうした、アドム?」

 ザンバースはすぐに応答した。マルサスはゲーマインハフトが姿を消したらしい事を告げた。

「そうか。奴が何を企んでいるのかわかった。すぐに戻ってくれ。奴はもうヨーロッパにはいない」

「は?」

 マルサスにはザンバースの言っている事の意味がわからなかった。


 レーア達に続いて、ようやく敵陣を突破したナスカート達は、再び北上を開始した。その時だった。

「上空から強力な光が……」

 コンピュータ係が叫んだ。

「何だと?」

 ナスカートが驚いて上を見た。マリリアは顔を引きつらせて夜空を仰ぎ見た。遥か上空から光の筋が地上に向かって降りて来た。それはナスカート達の前方に突き刺さり、辺りを照らし出した。と同時に業火が巻き起こり、爆発が起こった。

「何だ、何が起こった?」

 ナスカートがレーダー係に問い質した。すると、

「陣形を崩された敵の部隊に衛星兵器の攻撃が当たったようです」

「何だって!?」

 ナスカートは思わずマリリアを顔を見合わせてしまった。

「俺達を狙って、的が外れたのか?」

 彼の背中を冷たい汗が流れ落ちた。

「どうやら、ここだけではないようです。もっと西や北、そしてフローダ半島でも衛星兵器の攻撃があったらしいです」

 通信士が報告した。ナスカートはもう一度夜空を見上げた。

「ザンバースめ、レーアがいても関係ないのかよ……」

 その言葉を耳にして、マリリアは、

(大帝はそういう方だわ。この作戦、無駄だったというの?)

 彼女もまた嫌な汗を流していた。


 衛星兵器の乱射はレーア達も同様に把握していた。彼女達の目の前でも、レーザーの光で逃亡していた帝国軍が焼き尽くされた。

(外したの? それとも……)

 レーアはナスカート達とは違う事を感じ、戦慄していた。

(パパ……)

 そして彼女は帝都アイデアルがある方角を見つめた。

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