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第七十二章 その三 北米大陸東岸戦線

 ナスカート・ラシッドが総司令官を務めるパルチザンの一大艦隊は確実に地球帝国の首府があるアイデアルに近づいていた。帝国軍は各地から転戦して来た部隊が集結し、大陸東岸の主要な湾や入り江を封鎖していた。港の奥には戦車が居並び、先端部には対艦ミサイルのランチャーを搭載したトレーラーが陣取っている。ナスカート達の艦隊の上陸作戦は困難を窮めると思われた。


「帝国軍は、南アメリカ州が陥落した時から、艦隊戦を想定した布陣を研究していました。それもフローダ半島を起点とする作戦です」

 ナスカートが乗艦する空母のブリッジで、各艦の艦長と副長クラスが集合して作戦会議を開いている。今3Dの地図を使って説明しているのは、ザンバースの秘書だったマリリア・モダラーである。彼女がそもそも最前線に行きたいと申し出たのは、帝国の中枢部への独自のルートを知っていたからだった。

「だから、フローダ半島上陸作戦をやめて海路のみにするように提案したのか?」

 ナスカートがフッと笑ってマリリアを見る。マリリアは頷いて、

「それもありますが、もう一点は速度。そして更に言えば、フローダ半島の先に特別なルートがあるからです」

「特別なルート?」

 マリリアのすぐ隣で聞いていたレーアが鸚鵡返しに尋ねた。マリリアはレーアを見てから一同を見渡し、

「ここからはまさに帝国の中枢へと繋がる場所になりますから、どの港湾も防衛網が厚くなっているはずです」

 ナスカートの隣に座っているカラスムス・リリアスが手を上げて、

「という事は、上陸はどんどん難しくなってくって事じゃないのか?」

 マリリアはリリアスを見て微笑み、

「普通はそうですね。しかし、帝国軍が鉄壁の布陣を張るのはアイデアルより南側だけです」

 ナスカートとリリアスは思わず顔を見合わせた。

「艦隊を二手に分けて一方に帝国軍の注意を引きつけ、もう一方が大西洋を大きく迂回してアイデアルの北に出れば、上陸は容易になります」

 マリリアは3Dの地図を移動させてアイデアル北部の沿岸を移し出した。

「北からの攻撃がないと判断している帝国の中枢に向かうには、北からのルートしかありません」

 マリリアはナスカートをジッと見つめて言った。ナスカートはマリリアの視線に顔を赤らめ、やや俯き加減になった。レーアはそれに気づき、呆れ顔になり、

(ナスカートったら、何考えてるのよ? それともそんなに純情なの?)

 口先だけのスケベか、と結論づけた。一同の視線もナスカートに向けられた。ナスカートはリリアスに突かれてハッとなって顔を上げ、

「だが、帝国には衛星兵器がある。北から進軍しても、アイデアルまで行けるか?」

 ナスカートはマリリアに徹底的に反論しようと思った。マリリアの提案が本物であれば、どこまでも論破できないと思ったのだ。

「大丈夫です。上陸後はレーアを旗印にして進軍すれば、決して衛星兵器は使われません」

 マリリアの言葉に今度は視線がレーアに集まった。レーアはドキッとしたが、

「元よりそのつもりよ。私が役に立てるとしたら、それくらいなんだから」

「ありがとう、レーア」

 マリリアとレーアが手を取り合って微笑むのを見て、

(この二人、いつの間にこれほど仲良くなったんだ?)

 ナスカートは目を見開いて驚いてしまった。

「南の艦隊が囮だと気づかれれば、迂回している部隊が本隊だとわかってしまう。その場合はどうする?」

 それでもナスカートはマリリアに質問を続けた。マリリアはナスカートを見て、

「北に回り込むのは少数にするしかありません。別動隊だと思われないくらいの数に絞った方がいいです。そして、レーアは上陸が成功するまで、南の艦隊にいると思わせる必要があります」

「なるほど……」

 ナスカートは感心してしまった。

(マリリアにこれほどの戦略の才能があるとはな)

 彼は降参した。そして、

「わかった、その作戦で行こう。細かい部隊分けや進行はこちらで決めていいか?」

 するとマリリアは微笑んで、

「はい。私の提案を受け入れてくれてありがとうございます」

 礼を言われるとは思っていなかったナスカートはまた赤面した。

「それから、南の艦隊にレーアがいると思わせるために私がレーアのふりをするのを許可してください」

 マリリアがそう言い添えたので、ナスカートとレーアは同時に驚き、

「ええ!?」

とマリリアを見てしまった。


 ヨーロッパ州の州都であったパリスにある帝国軍司令部の地下の監禁室にドラコス・アフタルはいた。彼は一緒に囚われの身となったカミリア・ストナーとは扱いが違い、捕虜というより服役者のような状態である。ほとんど明かりのない牢獄紛いの部屋だ。

「出ろ」

 三日ぶりくらいで、アフタルはエメラズ・ゲーマインハフトのところに連行された。地下室を出て、久しぶりに仰いだ日の光に目を細め、アフタルは司令部の廊下を歩かされた。

「随分とやつれたねえ、アフタル。ご機嫌如何かな?」

 司令室の司令官席に悠然と座ったゲーマインハフトがニヤけた顔で尋ねる。アフタルはふらつく身体を支えながら、

「いい訳がないだろう。今日は何の用だ?」

 鋭い視線をゲーマインハフトに向けた。ゲーマインハフトはフッと笑い、

「あんた達の仲間が大艦隊を率いて、帝国の首府があるアイデアルに迫っているんだよ」

 その話にアフタルは目を見開いた。

(メキガテル・ドラコンが行方不明と聞いた時には、もうダメかと思ったが、そこまで持ち直したのか?)

 ゲーマインハフトはアフタルが希望の光を目に宿したのを察知したかのように、

「だからさ、私としても、援軍を投入しない訳にはいかなくてね」

 狡猾な顔になり、アフタルを睨む。アフタルの額に汗が伝った。

(こいつ、何を企んでいる?)

 ゲーマインハフトはアフタルの反応を愉快そうに見ながら、

「あんたとカミリアに活躍してもらおうと思ってさ」

「何!?」

 アフタルは眉をひそめ、ゲーマインハフトが何をしようとしているのか考えた。ゲーマインハフトは椅子から立ち上がり、

「北米大陸に我が軍の艦隊を送る事にした。ついてはその艦隊の提督をあんたに、そして参謀をカミリアに任せようと思うんだよ」

 その顔は真実を語っているようには見えなかった。アフタルは、

「断わると言ったら?」

「カミリアの奇麗な顔が焼けただれるだけさ」

 大した事ではないという顔で、ゲーマインハフトはほくそ笑んだ。アフタルは歯軋りした。

「そしてカミリアには、拒否すればあんたのあそこが千切れるって言った。そうしたら、いい返事をもらえたよ」

 嬉しそうに残酷な仕打ちを語るゲーマインハフトを見て、アフタルは吐き気を催したが、逆らえば本当にカミリアの顔を焼きそうな性格だと知っているので、答えは決まっていた。

「わかった」

 そう言う以外、彼には思いつける言葉はなかった。

「ご協力感謝致します、知事閣下」

 ゲーマインハフトはニヤリとして深々とお辞儀をし、部下に押さえつけられたアフタルの顔を右手で撫でると、司令室を出て行った。


 マリリアはレーアと同じ服装をし、髪形も変えた。すると遠目にはどちらもレーアに見えるほどよく似て来た。身長差も靴を合わせるとそれほどない。並べばマリリアの方が大きいのがわかるが、別々に見て違いがわかる事はないと思われた。

「近くで見ると、胸が貧相なのが本物だってすぐにわかるんだよな」

 ナスカートがニヤリとして余計な事を言った。リリアスは思わず額に手を当ててしまった。

「うるさい!」

 またしてもレーアの急所蹴りを食らったナスカートは声も出ないほど苦しみ悶えていた。それを見たマリリアは唖然としてしまったが、レーアは彼女を引っ張って、ブリッジを出て行ってしまった。

「学習能力ないのか、お前?」

 うずくまっているナスカートにリリアスが呆れ気味に尋ねた。ナスカートは涙目でリリアスを見ただけで、何も言えなかった。

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