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第七十章 その一 フローダの戦い

 ユーラシアとアフリカを制圧した帝国軍の司令官であるエメラズ・ゲーマインハフトは部隊をヨーロッパ州の州都であり、帝国軍ヨーロッパ司令部のあったパリスに向かわせていた。その間も彼はヨーロッパ解放戦線のリーダーであったカミリア・ストナーの身体をもてあそんだ。一度ゲーマインハフトに強引にけがされてしまってから、カミリアは自暴自棄のような素振りを見せていた。

(今はこいつの好きにさせてやる。だが、最後は私が勝つ)

 カミリアは双丘を揉みしだかれ、繁みをかき乱されても声一つ上げる事なく堪えていた。ゲーマインハフトはそれをニヤリとして愉しんでいた。

(こいつ、私に落ちたふりをして機会を窺っているのか? さすがだな)

 彼はカミリアの思惑を見破りながらも、悦楽を優先させた。

(いつまで頑張れるか、見物だ)

 ゲーマインハフトはその前にカミリアを完全支配するつもりでいるのだ。

「く……」

 最後の砦に侵入されても、カミリアはジッと堪えていた。ゲーマインハフトの動きが激しさを増した。カミリアのシーツを掴む手に力が入る。ゲーマインハフトはそれに気づき、彼女の手をシーツから引き剥がして指をしゃぶった。カミリアの顔に嫌悪の表情が浮かぶ。

「カミリア、心の中でいくら抵抗していても、お前の身体は私を受け入れているんだよ。いや、むしろ欲していると言った方が正解だね!」

 ゲーマインハフトが口角を吊り上げて叫んだ。だがカミリアはそれには応えず、彼を睨みつけるだけである。

(後もう一押しだ)

 カミリアは精神的にぎりぎりの位置にいる。ゲーマインハフトは彼女が陥落する「呪文」を手に入れていた。

「こんなお前の姿を見たら、愛しいトレッド・リステアはどう思うかな?」

 その言葉はまさしくカミリアにとって呪文であった。

(何故そんな事を……?)

 カミリアは知らないのだ。トレッドの部隊に帝国軍のスパイがいた事を。そのスパイが部隊の状況を逐一報告していたのを。

「さぞ呆れるだろうな。お前は目的のためなら、敵にも股を開く女だと知って」

 ゲーマインハフトの追い討ちの言葉にカミリアは目を見開いた。

(そんな事ない! トレッドならわかってくれる。私は犠牲になった仲間達のために今を堪えているんだから……)

 カミリアはゲーマインハフトの動きに呼応して身体が揺れるのを感じながら、理論武装しようとした。

「奇麗事を並べ立てて自分のしている事を正当化するつもりなのだろうが、無駄だ。お前の身体の反応が真実を物語っている」

 ゲーマインハフトが勝ち誇った顔でカミリアを見下ろす。先程まで堪えていた声が漏れている。感じ始めてしまっている。

(私……)

 カミリアは心身共にゲーマインハフトに蹂躙じゅうりんされていった。


 帝国情報部長官であるミッテルム・ラードは焦っていた。情報部全部隊を動員しても、リトアム・マーグソンの消息が分からないのだ。

(このままではまずい)

 ミッテルムはリトアムが行動に出てからでは自分の地位が吹き飛んでしまうと思っていた。

「フローダ半島の地面を全てひっくり返してでも奴を見つけろ! そうしないと、お前達の命も保証できないぞ!」

 ミッテルムは情報部専用の無線に怒鳴った。しかし部下達は思っているだろう。自分達はマーグソンと出くわしたら命がないかも知れないのだから、どちらでも一緒ではないかと。

(大帝にはゲーマインハフトが反旗を翻したら始末するように言い付かっているから、今すぐ消される事はないとしても、マーグソンを捕らえられないのでは、奴と立場が逆転してしまう)

 ミッテルムはどこまでも保身ばかり考える男であった。


 北米大陸の西部に位置するサラミスにあるパルチザン基地にいた元北アメリカ州知事のリスボー・ケンメルとサラミス基地の司令官であるケイラス・エモルが中心となり、北米中に散らばっていたパルチザンと共和主義者達が各地で集まり、小部隊でフローダ半島を目指していた。その行動は全て帝国に把握されていたが、それすら計算である。彼らは牽制のために動いているのだ。

「メキガテルの消息はまだ不明なのかね?」

 移動中の装甲車の後部シートでケンメルが尋ねた。助手席に座っているケイラスは前を向いたままで、

「未だ生死不明です。見つかった遺体は損傷が激しくて、DNA鑑定もできていませんから」

「そうか……」

 ケンメルは知っている。メキガテル・ドラコンという人物の力量がどれほどのものだったのかを。もし彼が南米基地を押さえてくれなかったら、自分は開戦直後に囚われの身となり、殺されていたはずだと。

「先発部隊が帝国軍と接触し、戦闘状態に入ったようです」

 通信士が報告した。

「もう始まってしまったのか」

 ケイラスは歯軋りした。当初の作戦では、ナスカート率いる南米基地の艦隊が海上から第一撃を仕掛けるはずだったのだ。

(先走った奴がいるのか)

 ケイラスは思わず溜息を吐いてしまった。パルチザンの多くは、連邦時代に警備隊から睨まれ、敵対していた者が多い。だから作戦より感情が優先してしまうのだ。

「南米基地に連絡。一部に支障が出た事を伝え、今後の展開の指示を仰げ」

 ケイラスは通信士に命じた。

「は!」

 通信士は機器を操作し、南米基地と連絡を取った。


 フローダ半島のほぼ全域を巻き込んだ武力衝突は、ケイラス達に伝わった報告以上に拡大していた。もはや作戦遂行は事実上不可能になってしまったのだ。住民達は家を焼け出され、車を破壊され、着の身着のままで安全な場所へと自力で逃げるしかなかった。そして何より、戦域の拡大はそれより早かったため、非戦闘員の犠牲が数多く出てしまった。街は破壊され、道路は寸断された。美しかった海岸も砂浜も炎で赤く染まり、座礁した艦船から流れ出た液体燃料が引火爆発し、惨状を広げていった。

「何て事だ」

 通信士から報告を受けたナスカートは杖で床を叩いて悔しがった。

(俺ではまとめられないのかよ……)

 彼は歯軋りしていた。決してメキガテルをライバルと思った事はないし、彼の方が指揮官として優れていると思っていたし、今でもそう思っている。だが、やるせなかったのだ。

「畜生!」

 ナスカートは杖を叩きつけた。それを見ていたレーアは意を決してナスカートに歩み寄った。

「ナスカート、しっかりしてよ」

 彼女はナスカートの右肩に手をかけた。するとナスカートはその手を振り払った。

「え?」

 レーアはそんな反応が返って来るとは思っていなかったので、唖然としてしまった。

「今はまだ戦闘中だ。慰めの言葉はまだ早いよ、レーア。もう少し待ってくれ」

 ナスカートはよろけながら杖を拾い、立ち上がった。

「ごめん……」

 レーアにはそれしか言えなかった。ナスカートが泣いているのに気づいたからだ。

(メック、早く戻って来て……。このままじゃ、ナスカートが倒れてしまうわ)

 レーアは心の中で強く願った。その時、通信士の声が司令室に響いた。

「リ、リトアム・マーグソンさんから入電です!」

 レーア達の視線が一斉に彼に集まった。ナスカートが近づき、

「内容は?」

 通信士は頷いて画面の文章を読み上げる。

「フローダ半島の武力衝突は帝国情報部の誘導で始まったものだ。作戦が失敗した訳ではない。当初の予定通り、進攻作戦を遂行せよ。君達の希望はまだ消えてはいない。リトアム・マーグソン」

 その電文は司令室の一同を勇気づけた。救国の英雄と呼ばれたリトアム・マーグソンがフローダ半島にいるとわかったからだ。

「詳しい状況はわかりませんが、マーグソンさんを捜索していた情報部の連中がマーグソンさんを探すために荒っぽい行動に出たのをパルチザンの一隊が帝国軍の攻撃と勘違いして銃撃したのが始まりのようです」

 通信士がその後に届いた電文を解析しながら告げた。ナスカートは頷き、

「ケイラス・エモル隊に連絡。作戦はそのまま続行されたし、だ」

「はい!」

 通信士も嬉しそうに応じた。

「君達の希望はまだ消えてはいないって、どういう意味かしら?」

 アーミーが首を傾げて呟いた。隣にいたステファミーが、

「まだ負けたと決まった訳じゃないって事でしょ?」

「そうなのかなあ……」

 アーミーは納得がいかない顔で応じた。

(メック……)

 レーアはまたメキガテルの無事を祈っていた。

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