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第六十九章 その二 カミリアの決意

 吹雪の中、銃殺されたヨーロッパ解放戦線の幹部達の遺体を置き去りにし、ゲーマインハフト軍は南下を開始した。ゲーマインハフトの大きな装甲車に囚われの身となったカミリア・ストナーとドラコス・アフタルであったが、カミリアは暖房の効いた部屋に入れられ、アフタルは窓すらない冷え切った留置室に閉じ込められた。

「お待たせしたね、お嬢さん。早速愉しませてもらおうか」

 ゲーマインハフトは下卑た笑みを浮かべてカミリアがいる部屋の入って来た。彼は見張りの兵士を追い払い、ドアを閉じてロックした。

「何?」

 カミリアは気の強さでは誰にも負けない自信があったが、震えを止めるのに必死だった。

(愉しませるというのは、そういう事か……)

 カミリアはゲーマインハフトの噂を聞いている。その物腰は女性的だが、本当の顔はケダモノのような性欲の権化なのだと。

「惚けるんじゃないよ、カミリア・ストナー。お前だって、男を知らない訳じゃないだろう? 密室に男女がいて、愉しむと言ったら決まってるじゃないか?」

 ゲーマインハフトはまだニヤニヤしている。カミリアはわざと溜息を吐いて視線を落とし、

「そうだな。白々しかったな」

「わかればよろしい。早く服を脱げ」

 ゲーマインハフトは勝ち誇ったように命じた。カミリアは彼を見て、

「その前にシャワーを浴びさせて。極寒の地にいたけど、緊張で汗まみれなの」

「私は一向に構わないよ、カミリア。そのままでいいから、早く服を脱ぎな」

 ゲーマインハフトはカミリアが時間稼ぎをしようとしていると思い、目を細めて言う。

(やはりそう来たか。外道め……)

 カミリアは作り笑いをして、

「そう。わかった。ちょっと待ってて」

 彼女は幾度か連邦時代に警備隊と小競り合いをして拘束され、取り調べを受けた事がある。服を脱がされ、身体中を隈なく調べられたのだ。警備隊法では、服を脱がせての身体検査は固く禁じられていたが、カミリア達は敵視されていたので、法令は関係なかった。その時立ち合ったのは女性の隊員だった。それでもカミリアは恥ずかしさのあまり顏を上げられなかった。そして、思わぬところまで調べられ、屈辱のあまり泣いた。その日から彼女は警備隊のトップであるザンバース・ダスガーバンを憎むようになったのだ。

「どうした、カミリア? ボタンの外し方を忘れたのなら、私が外してやるぞ?」

 ゲーマインハフトがいつまでも服を脱ごうとしないカミリアに言う。彼女はハッとしてゲーマインハフトを見た。

「ごめんなさい、すぐ脱ぐわ」

 カミリアは震える手でコートのボタンを外し、脱いだ。そして次にその下に着ていた軍服のボタンを外す。

「今度躊躇ったら、容赦なくお前の部下を射殺させるよ。いいね?」

 ゲーマインハフトは部屋の傍らにある簡易ベッドに腰を下ろし、カミリアが服を脱ぐのを眺めた。カミリアは軍服を脱ぎ、その下に着ている黒いシャツを脱いだ。

「ほう。着痩せするんだね、カミリア。立派な乳房だ」

 ゲーマインハフトが賛辞した。確かにカミリアの胸は大きかった。それを覆っているブラジャーがはち切れそうだ。人前に曝すつもりはない下着なので、ベージュの地味なものだったが、ゲーマインハフトはカミリアに期待していたギャップを別の意味で感じ、ご満悦だった。

(こいつ、経験豊富だと思ったが、そうでもないみたいだね。それはそれで愉しめる)

 彼の右の口角が吊り上がった。

「さあ、それも脱ぐんだ。私はお前の下着姿を見たい訳じゃない」

 カミリアはそれには応えず、ボトムスを脱ぐ。申し訳程度に肌を包んでいるパンティが丸見えになり、カミリアは俯いた。

「私の希望としてはブラを先に脱いで欲しかったのだが、まあ、いいだろう。さあ、全部脱げ」

 ゲーマインハフトはニヤついた顔を封印し、険しい表情でカミリアを睨みつける。カミリアは目をギュッと瞑り、ブラのホックを外した。押さえつけられていた双丘が弾けるように揺れ、露になった。先を促すゲーマインハフトの視線を感じ、カミリアは目を瞑ったままでパンティを下ろした。

「しゃがめ」

 ゲーマインハフトの声がやけに近くで聞こえ、グイと肩を押されて膝を着かされたので、カミリアは目を開いた。するといつの間にか彼はカミリアのすぐそばに来ており、下半身を露にしていた。カミリアは驚きのあまり声も出ない。もう少しで顔に当たりそうな距離にそれがあったからだ。

「さあ、愉しませろ」

 見上げるとまたゲーマインハフトの下卑た笑みを浮かべた顔が見えた。


 帝都アイデアルにある大帝府の大帝室に呼びつけられたタイト・ライカス補佐官兼帝国軍司令長官は、震えていた。椅子に座ったまま自分を睨んでいるザンバースの顔は、今まで見た事がないほど怒りに満ちていたのだ。

「誰が軍をアイデアルに集結させろと命じた?」

 ザンバースはそれでも静かに問い掛けた。だが、ライカスにはその方が恐怖だった。

「私は大帝のお命が心配なのです。ご命令に背いた事は大変申し訳ないと思いますが、こればかりは譲れません」

 ライカスは身体が震えるのを堪えながら言った。しかしザンバースは表情を変えずに、

「お前に私の命を心配してもらう必要はない。今はカリブ海制圧が最優先だ」

 ライカスは息を呑んだ。

(殺されるのか、私は……?)

 幾筋もの汗が額を伝わるのを感じながら、ライカスはザンバースの次の言葉を待った。

「すぐに全軍をカリブ海制圧に向かわせろ」

「は、はい……」

 ライカスは確かめるように息をし、応じた。

「リトアム・マーグソンは確かに最警戒が必要な存在だ。しかし、奴一人に翻弄されて反乱軍の進攻を見逃す事はできない」

 ザンバースは立ち上がった。ライカスは思わず唾を飲み込み、自分に近づいて来るザンバースを目で追う。

「ライカス、私はこの計画を実行に移した時から、自分の命を捨てる覚悟はできているのだ。ダスガーバン家の者としてな」

 ザンバースの謎めいた言葉にライカスはキョトンとしてしまった。

(命を捨てる覚悟?)

 彼にはザンバースの真意が理解できなかった。


 南米基地のレーア達は、アイデアルに集結しつつあった帝国軍本隊がフローダ半島に向かい始めたのをケスミー財団の監視衛星からの画像で知った。

「遂にカリブ海に本格展開するのか」

 ナスカートは車椅子の肘掛けをギュッと握りしめて呟く。

「何だったのでしょうね、さっきの進軍は?」

 コンピュータを操作しながらザラリンド・カメリスが言った。

「帝国軍も一枚岩ではないという事なのかも知れないね」

 アイシドス・エスタンが答えた。レーアは彼を見て、

「どういう事ですか?」

 エスタンはレーアを見て、

「最初にアイデアルに進軍したのは、我々の予測通り、リトアム・マーグソン師が動いたせいだろう。そして、その動きを止めて、フローダ半島に展開させたのはそれとは別の意志だと思われる」

 ナスカートは頷きながら、

「確かに最初の進軍と次の方向転換は相反する意志ですね。別の人間が指示したという事か」

 レーアはナスカートの言葉を聞きながらも、ザンバースの考えがわからずに混乱していた。

(どっちがパパの意志なの?)

 彼女は不安におののいていた。


 カミリアはゲーマインハフトにけがされて彼が退室した後、屈辱に塗れて涙を流していた。

(奴は最後まで上を脱がなかった。私が何か企んでいると感じていたのか……)

 彼女はゲーマインハフトが服を全部脱げば、彼を殺す機会があると思い、されるがままにした。しかし、狡猾なゲーマインハフトは上は着衣のままで事を続けた。彼は上着の下に拳銃を携帯したままだったのだ。カミリアはまさに穢され損だった。

(奴だけは必ずこの手で殺す……)

 カミリアは歯軋りをしてベッドを何度も叩き、怒りを露にした。

(そして、騙されて命を落とした仲間のためにも、絶対に奴は許さない!)

 カミリアはベッドの宮の上にあった置き時計を掴むと壁に投げつけた。装甲車の壁は鉄板入りなので、時計はバラバラに砕け、床に散らばった。彼女はベッドから飛び起きると、部屋の奥に設えられたシャワールームに飛び込み、全身を洗った。ゲーマインハフトにされた全ての事を消し去ろうとするかのように。

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