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第六十六章 その一 メキガテルの決断

 ヨーロッパに派遣した部隊の大半を失ってしまったタイト・ライカスは、ザンバースに大帝室に来るように言われた時、死を覚悟した。

「どうした、ライカス? 顔色が悪いぞ」

 震えるのを必死に我慢していたライカスにザンバースはニヤリとして尋ねた。

「……」

 口の中が砂漠のように乾燥し切っているライカスは声が出ない。

「ヨーロッパに派遣した部隊は残念だったな」

 ザンバースは怒っている様子もなく、ライカスは唖然としてしまった。

「あ、はい、申し訳ありませんでした!」

 ライカスは直立不動になってやっとそれだけ言った。

(ここで射殺されるのか、それとも銃殺刑か……?)

 じっとりとした嫌な汗が背中を流れ落ちる。しかしザンバースは、

「試験的に最新鋭の戦闘機と戦車を投入してみたが、やはり戦い慣れした連中には通用しなかったようだな。あまり気に病むな」

と労いの言葉をかけてくれた。ライカスはますます震えが止まらなくなりそうだった。

「予想通り、メキガテルは援軍を出さなかった。となれば、次の一手は決まったようなものだ」

 ザンバースはライカスを見上げた。ライカスはギクッとしてしまう。

「奴は間違いなく北米大陸に仕掛けて来る」

 ザンバースはまたニヤリとした。ライカスは思わず唾を飲み込んで、

「北米大陸に、ですか?」

「奴は、私が今まで一度もヨーロッパに援軍を送らなかった事に気づいたのだ。だから今回突然北極海経由で部隊を派遣した事に違和感を覚えた。これは罠だと直感したのだろう」

 ザンバースの言葉にライカスはポカンとしてしまった。

「そして、私の狙いが南米基地にあると読み、先手を打ってこちらに仕掛けて来る可能性が大きいのだ」

 ザンバースがそこまで説明知ると、ようやくライカスにも合点がいった。

(メキガテル・ドラコンと言う男も鋭いが、それの更に先を読んでいる大帝はもっと鋭い……)

 ザンバースは立ち上がって、

「グランドキャニオン基地を奪い返され、ドッテルの軍が動いて、部隊の大半を大陸東部に振り向けなければならなくなったせいで、各地に散っていた急進派や反乱軍の連中が集まりつつあると言う情報も得ている。決戦の日は近い」

 ライカスはザンバースが机を回り込んでソファに座るのを目で追い、自分も向かいに腰を下ろした。

「陸海空からメキガテルが仕掛けて来る。北米大陸の反乱軍と急進派の動きはミッテルムが探っている。お前は軍本部の全兵力を動員して、メキガテル率いる反乱軍を一人たりともアイデアルに入れるな」

 ザンバースの目が急に鋭くなってライカスを睨みつけた。ライカスは心臓が破れるのではないかと言うくらい鼓動が速くなるのを感じながら、

「了解しました!」

 立ち上がって敬礼した。

「頼むぞ」

 ザンバースも立ち上がった。

「は!」

 ライカスは敬礼し直し、部屋を出て行った。ザンバースはそれを見届けてから机の上のインターフォンを押し、

「科学局に繋げ」

と言った。


 カミリア・ストナーを中心としたヨーロッパ解放戦線は帝国軍本隊を完全に圧倒し、そのほとんどを敗走させ、部分的勝利を収めていた。

「第一段階は何とか成功しましたね」

 カミリアはテントで組まれた仮陣営の中でドラコス・アフタルと話していた。

「そうだね。次はあの狡猾なゲーマインハフトだ。こちらが本命と考えた方がいいな」

 アフタルは腕組みをして、天井から吊り下げられたスクリーンに映るゲーマインハフト軍の進軍状況を見上げた。距離にして約五十キロメートル。もうすぐ先発部隊の攻撃が始まるはずだ。

「あいつだけは他の誰にも仕留めてもらいたくない。私自身の手で叩きのめしたいです」

 カミリアはいつになく興奮していた。

「カミリア君、指揮官はあくまで冷静でなければいけないよ」

 アフタルは仲間の事を思っていきどおるカミリアの気持ちはわかったが、感情で戦争をしてはいけないのは誰よりもわかっているのだ。

「はい」

 カミリアは小さく頷いて応じたが、それでも怒りは収まっていない。

(ゲーマインハフトは、味方さえも犠牲する。あの男だけは絶対に許せない)

 カミリアはゲーマインハフトが自分の身体を狙っているとは夢にも思わず、彼との直接対決を願っていた。


 そのゲーマインハフトは、あまりにも呆気ない帝国軍本隊の敗走に怒りを通り越して呆れていた。

「タイト・ライカスは切れ者だけど、戦争は素人だ。結果はわかり切っていたよ」

 ゲーマインハフトはそれがザンバースにわからなかったとは思っていない。

(こんな事になるのは、ザンバースも読んでいたはず。何故だ?)

 ゲーマインハフトにはザンバースの考えがわからない。

(次は何を企んでいるんだい、ザンバース?)

 ゲーマインハフトは苛立たしそうに手にしていたワイングラスを床に叩きつけた。グラスは粉微塵に割れ、辺りに飛び散った。


 メキガテルは、北アメリカ大陸に進撃する部隊のメンバーをカラスムス・リリアスの部隊とタイタス・ガット、イスター・レンドのみとした。レーアとステファミーとアーミーは、タイタスとイスターが参加すると知って顔色を変えて驚いた。

「あんた達、足手まといになるわよ。やめときなさいよ」

 ステファミーが辛辣な事を言った。タイタスはムッとしたが、

「そんな事ないさ。俺もイスターも、お前らが思っているより成長してるんだぜ」

「そうかしら?」

 ステファミーはあまり信用していない。するとイスターが、

「俺達にできる事はしたい。それだけだよ」

「でも、死んじゃうかも知れないんだよ?」

 アーミーが涙ぐんで誰もが口にしたくなかった事を言った。タイタスとイスターはギクッとしたが、

「みんなには黙っていたけど、俺もイスターもリリアスさんのシャトルに乗っていた時、もう二度と地球には戻れないって思った」

 タイタスが真面目な顔をして話しているので、レーアとステファミーは顔を見合わせてしまった。

「そうだな」

 イスターがそれに応じて頷く。

「あの時死んでいてもおかしくなかった命だから、今更惜しんだりしないって訳じゃないけど、あの時助かった命だから、今度も死なずにやり遂げられるって思えるんだ」

 イスターの言葉にステファミーとアーミーはジーンとしてしまったようだ。

「イスター、ちょっとだけカッコいい」

 ステファミーが目を潤ませて言ったので、イスターは赤面して、

「ちょっとだけって、酷いな」

と言い返した。タイタスが日頃からかわれている仕返しなのか、

「こいつ、お前の事、ずっと好きだったみたいだぜ、ステフ」

 思わぬ暴露にイスターの顔は真っ赤になった。

「バカ、いきなり何言い出すんだよ!?」

「いつも俺をからかってるからさ」

 タイタスはニヤリとして言った。

「ありがとう、イスター。戦争が終わったら、食事にでも行こうね」

 ステファミーも悪い気はしていないようで、微笑んで応じた。

「あらら、アーミーに続いて、ステフまで……。じゃあ、後はタイタスだね」

 タイタスの気持ちをまるで気づいていない罪な女であるレーアがそう言うと、ステファミーとアーミーは苦笑いし、イスターは項垂れるタイタスを励ました。

「え? どうしたの?」

 レーアはキョトンとしていた。

「もう、レーアったら、鈍感なんだから!」

 呆れたステファミーが理由を説明しようとした時、

「レーア、ちょっといいか?」

 メキガテルが声をかけて来た。

「あ、はい」

 レーアはステファミーに「ごめん」と小声で言い、メキガテルの方へ小走りで近づく。

「はあ……」

 それを見て、タイタスはますます落ち込んでしまった。


「何ですか?」

 メキガテルが司令室からレーアを連れ出したので、レーアは不思議そうな顔で尋ねた。また早合点して恥を掻きたくないので、妙な期待はしない事にしたのだ。

「レーアは付き合っている男はいるのか?」

 メキガテルは珍しくレーアと目を合わせずに訊いて来た。レーアは首を傾げながら、

「いえ、いませんけど。それが何か?」

 するとメキガテルは急にレーアの方を見て彼女の両肩をグッと掴み、

「なら、俺と付き合ってくれ。そしてゆくゆくは結婚して欲しい」

「ええ!?」

 いきなりの告白にレーアは仰天してしまった。しかもその上プロポーズまでされるという念の入りようだ。メキガテルはレーアから手を放し、

「いや、唐突にこんな事を言ってすまない。今度の戦い、さすがにビビっている。何か心の支えが欲しくてたまらなくなっていた。だから、思い切った」

「あ、はい……」

 レーアは目を潤ませ、メキガテルを見つめている。

「返事は今すぐでなくていい。と言うか、嫌だったら早めに言ってくれ。立ち直るのに時間がいるから」

 メキガテルにしては随分弱気だとレーアは思い、クスッと笑った。

「じゃあ、すぐに返事しますね。こちらこそ、よろしくお願いします」

 レーアは涙を零して言った。

「レーア!」

 メキガテルは思わずレーアを抱きしめた。レーアはびっくりしたが、すぐに彼を抱きしめ返し、見つめ合い、口づけをかわした。

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