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第六十三章 その三 毒薬作戦

 オセアニア州の州都であったキャンベルにあるパルチザン隊の支部は、元は帝国軍オセアニア州司令本部だった。そしてその前は地球連邦オセアニア州知事官邸であった。そこを中心に半径約五十メートル四方が帝国の衛星兵器のレーザーで焼き尽くされていた。建物のあった場所はその基礎がわずかにわかるだけで、そこにいた人達の痕跡は何も残っていなかった。

「オセアニアの反乱軍は消滅した。心置きなく進攻しろ、ゲーマインハフト」

 ザンバースは大帝室から見える大西洋を眺め、ニヤリとした。


 ゲーマインハフトはオセアニア州のパルチザンが全滅したのを知らされ、複雑な表情だった。

(しくじれば同じ目に遭うと言いたいのか、ザンバースめ)

 ゲーマインハフトは奸智かんちけた人物である。ザンバースに全面的に従っているフリをしているだけで、彼を信用している訳ではない。

(空から狙われているのは、何も反乱軍だけとは限らないからね)

 ゲーマインハフトは、自分に野心がある事をザンバースが見抜いているのではないかといぶかった。

「取り敢えず、背後から急襲される心配がなくなったのをよしとするしかないね」

 彼は苦笑いして、前を見据えた。

(エッドスの首でも差し出せば、しばらくは大丈夫だろうさ)

 ゲーマインハフトは通信マイクを掴むと、

「ヨーロッパの反乱軍は構わず、アフリカの逆賊を掃討するよ」

と命じた。


 レーア達は司令室で沈黙したままだった。ケスミー財団の監視衛星から送られて来たキャンベルの映像が想像を絶していたからだ。

「……」 

 メキガテル・ドラコンは歯軋りし、拳を震わせている。

「手の内を読まれていた……。くそ!」

 彼は怒りのあまり、壁を殴った。

「メック……」

 オセアニアの惨状に涙を流していたレーアは、メキガテルがいつになく苛立っているのを見て心配になって声をかけた。

「大丈夫だ。血迷ったりしてないよ」

 不安そうで悲しそうなレーアの顔を見て、メキガテルは自分の気持ちを抑えた。

(俺が荒れていてはまとまるものもまとまらない)

 メキガテルはレーアの肩にそっと右手をかけ、ポンと叩いた。

「無理しないで、メック」

 レーアはそのメキガテルの右手に自分の右手を重ねた。

「わかってる」

 メキガテルはレーアに微笑み、ザラリンド・カメリスに近づいた。

「あの衛星兵器がキャンベルを攻撃した時と、ミケラコス財団ビルを攻撃した時の出力の差はわかりますか?」

 メキガテルの問いにカメリスは素早く反応し、コンピュータを操作した。

「我が財団の監視衛星が捉えた熱量と現場の画像、そして被害範囲、並びに被害深度を計測する限りでは、ミケラコス財団ビルを攻撃した時とキャンベルを攻撃した時とでは、十倍以上の開きがあると思われます」

 カメリスはモニターにたくさんの円グラフや棒グラフを表示しながら説明した。メキガテルばかりでなく、レーア、ステファミー、アーミーもこぞってモニターを覗き込んだ。

「ミケラコス財団ビルを攻撃した時は、その前に付近の変電所を攻撃していますから、連射に対応するために出力をセーブしたのでしょう」

 カメリスは自分の周囲に人が集まっているのに気づいてギョッとしながらも、メキガテルに答えた。

「だとすれば、すぐには次を打てない可能性がありますね?」

 メキガテルはカメリスを見て更に尋ねる。カメリスは頷いて、

「はい。それに衛星兵器にはレーザーを何回も放射するだけのエネルギー源があるようには見受けられません。もしかすると、あれで最後の可能性も考えられます」

「なるほど……。しかし、だとすれば、オセアニアではなく、アフリカを叩いたと思うのですが?」

 メキガテルはあごに右手を当てながら言った。カメリスは首を傾げて、

「ええ。差し迫る危機としては、オセアニアよりアフリカですよね。その点は私には何とも判断がつきません」

 メキガテルはカメリスの肩に手を置いて、

「引き続き、その辺りを調べてもらえますか?」

「わかりました」

 メキガテルはレーアを見ると、司令室の出入り口を見て、そのまま出て行った。レーアは一瞬キョトンとしたが、すぐにメキガテルを追いかけた。

「どうしたの、メック?」

 大股で廊下を歩くメキガテルを小走りでレーアが追いかける。

「情報が漏洩ろうえいしている可能性がある」

「え?」

 レーアはギクッとして後ろを見た。メキガテルはレーアの肩を抱いて前を向かせ、

「後ろを見るな。敵に気づかれたと知られたくない」

「あ、うん……」

 レーアはメキガテルに肩を抱かれて顔が真っ赤になっていた。

「こちらが裏をかいたつもりでいたのに帝国に先回りされた事が何度かあった。俺は自分の未熟さ故だと思っていたが、どうやらそうじゃないような気がして来た」

 レーアはメキガテルのプライベートルームに通された。そこには机と簡易ベッドがあるだけで、生活感がまるでない。

「むさ苦しいところだが、盗聴されたくないんで、我慢してくれ」

 メキガテルはレーアに椅子を出し、自分はベッドに腰かけた。低いベッドに座ったメキガテルがレーアより視線が低くなっている。

「ザンバースは自分の支援者であったはずのミケラコス財団を潰した。これは何を意味するかわかるか?」

 メキガテルは腕組みしてレーアを見上げる。レーアはギクッとして、

「ごめんなさい、全然わからない……」

と言って俯いた。メキガテルは苦笑いして、

「ああ、訊き方が悪かったな。自分のスポンサーを殺してしまったら、今後何かと支障があると考えられないか?」

「あ、ああ、そうね」

 レーアは顔を上げてメキガテルを見た。

「ザンバースのやろうとしている事がよくわからない。しかし、奴は何かの信念に基づいて動いている気がする。だからこそ、ミケラコスに見切りをつけた」

「ええ……」

 レーアにもザンバースの意図はわからない。

(パパは何をしようとしているのかしら?)

 メキガテルは続ける。

「奴がそこまで考えて動いているのだとしたら、俺達は負ける。奴に手の内を覗かれたまま戦うのだから」

「ええ……」

 レーアは只頷くだけである。

「だから、誤情報を流す事にした」

 メキガテルの思わぬ案にレーアは目を見開いた。

「誰が帝国のスパイなのかわからない以上、この話は誰にもしないでくれ」

「う、うん……」

 レーアは悲しくて涙が出そうになっていた。


 そしてそれから三日後、帝国科学局毒薬課のカラカス・サンドラはザンバースの命令通り、人間だけを死に至らしめる毒薬を開発した。

「よく間に合わせてくれた。早速行動に移れ」

 局長のエッケリート・ラルカスと共に大帝室に報告に赴いた時、ザンバースは開口一番そう言った。

「しかし大帝、テストをしてみませんとどこまで威力があるのか……」

 異を唱えようとしたサンドラを押し退け、

「了解しました。どちらに行けばよろしいですか?」

 ラルカスが尋ねた。ザンバースは椅子から立ち上がり、

「アマズーネ地方区のネメスに投入しろ」

「え?」

 ラルカスは思わずポカンとしてしまった。サンドラも同じだ。

(アマズーネ地方区と言えば、大帝の令嬢がいるところ……)

 ラルカスはサンドラと顔を見合わせた。

「どうした? 他の場所の方がいいか?」

 ザンバースはその事をまるで気にしていないかのように訊き返す。

「いえ、そのような事はありません。すぐにアマズーネ地方区に向かいます」

 ラルカスとサンドラは敬礼して応じた。


 帝国軍の攻撃が行われなくなったのを逃さず、カラスムス・リリアス達が搭乗しているシャトルは南米基地に無事着陸した。ナスカートの載せられたブースは基地の中にある医療施設に移され、治療が開始された。

「思ったよりナスカートの経過が良好で安心したよ。よく戻ってくれた、カラス」

 滑走路で出迎えたメキガテルがリリアスをねぎらった。

「お前こそ、連戦で疲れてるんじゃないのか、メック?」

 リリアスは握手をしながら言った。そしてメックの後ろから近づいて来るレーア達を見て、

「ああ、そうか、ここには癒しの女神達がいたっけな。シャトルの生活は男ばかりで、むさ苦しかったぜ」

「何言ってやがる」

 メキガテルは軽くリリアスの腹を小突こづいた。

「実はな……」

 メキガテルは声を低くし、リリアスにスパイの存在の可能性を伝えた。

「そうか」

 リリアスは小さく頷き、

「ザンバースの秘書だった女が情報を漏洩させている可能性はないよな?」

「マリリアは何も持っていない。恐らく敵はパルチザンの中に潜入している」

 メキガテルは如何いかにも雑談をしているように笑顔を浮かべながら言う。

「いつから?」

「多分、最初からだ」

 メキガテルの返事にリリアスを目を見開いた。

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