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第六十三章 その二 燃える大地

 北アメリカ大陸の東岸にある地球帝国首府アイデアル。その近くでゲリラ戦を展開していたパルチザン達は、元地球連邦政府ビルである大帝府が地下からせり上がってくるのを見て唖然としていた。

「やっぱり、帝国の本部は無傷だったんだ……」

 男のパルチザンの一人が呟いた。彼らは戦力の結集を呼びかけているパルチザン隊の総隊長であるメキガテル・ドラコンの指示に従い、アイデアルから撤収し、西岸の主要基地であるサラミスを中心にした部隊との合流をするために動き出した。

「本当に勝てるのかな、俺ら?」

 別の男のパルチザンがボソッと言った。そのそばにいた仲間には彼の言葉は聞こえていたが、誰も応える者はいなかった。


 完全に元の高さに戻った大帝府の大帝室では、大帝のザンバースと情報部長官のミッテルムが机を挟んで話していた。

「ゲーマインハフトが必要以上に西進しています。これ以上進んでしまうと、東アジアを攻撃される可能性が……」

 ミッテルムが通信端末で地図を示し、ザンバースに説明している。

「ゲーマインハフトはそこまで愚かな男ではない。抜かりはないだろう」

 ザンバースは端末のモニターに映る東アジアの地図をチラッと見ただけでそう応じた。

「今帝国でまともに機能している軍はゲーマインハフトの軍のみだ。奴にはもっと活躍してもらわねばならん」

「はあ……」

 ミッテルムはゲーマインハフトがヨーロッパも手中に収めようとしているのを派遣した情報部員から伝え聞いているので、彼の強過ぎる野心を警戒していた。

(奴が力を持ち過ぎれば、大帝をおびやかす可能性もある……)

 ミッテルムは決してザンバースの命を心配しているのではない。もしザンバースがゲーマインハフトに倒されるような事があれば、自分はどう動くべきなのかを考えているだけだ。

「私はゲーマインハフトに大いに期待している。それ故、力を貸そうと思っている」

 ザンバースはまるでミッテルムの不安を見抜いたかのようにニヤリとした。ミッテルムの背中に冷たい汗が伝わる。

「お前はアイデアルから姿を消した反乱軍の連中がどこに行ったのか探れ」

「は!」

 ミッテルムはビクッとして敬礼した。

「それから、南米で消息を絶った連中の件はどう始末をつけるつもりだ?」

 ザンバースの顔が険しくなった。ミッテルムはザンバースに南米基地襲撃の失態をまだ報告していない。それなのにザンバースはそれを知っていた。ミッテルムは膝が震え出したのを必死に抑え、

「そ、それは……」

 何か答えないとまずいと思うのであるが、口の中が緊張で乾き切ってしまい、言葉が出ない。

「ミッテルム、私の事を心配してくれるのは嬉しいが、それ以上にお前の尻に火が点きかけているのを忘れるな」

 ザンバースは目を細めてミッテルムを見上げた。ミッテルムは呼吸ができなくなるほど驚愕していた。

「下がっていい」

 ザンバースはそれだけ言うと椅子を回転させてミッテルムに背を向けた。

「は、はい……」

 ミッテルムは腰が抜けそうになるのを堪え、大帝室を出て行った。

「力を集めようとしているようだが、そうはさせない」

 ザンバースはインターフォンのボタンを押し、

「ラルカスに繋げ」

と命じた。


 レーアはマリリアと取調室で面会していた。メキガテルは反対したのだが、彼女は一人でマリリアと話がしたいと言った。最後はメキガテルが折れた。メキガテルはレーアの申し出を飲む代わりに彼女に護衛としてついて行った。但し、レーアが入室を断わったが。

 マリリアはレーアが一人で入って来たので、メキガテルに何かあったのかと思ってしまった。

「今日はお一人ですか、お嬢様?」

 マリリアはザンバースの秘書をしていた時と同じ口調でレーアに尋ねた。本当はメキガテルの事を尋ねたいのだが、それはさすがにできなかったのだ。レーアは微笑んで向かいの椅子に座り、

「ええ。メックはドアの外で待たせてあるの。今日は貴女と二人きりで話がしたかったから」

 メキガテルがドアの向こうにいるのを知り、マリリアはホッとした。

(生きていてくれたのね……)

 レーアがいなければ泣き出しそうだった。

(私はメキガテル・ドラコンに女として惹かれている……)

 マリリアはそれをはっきり自覚した。

「何がお知りになりたいのでしょうか?」

 マリリアは辛うじて仮面を被り直し、レーアを見る。レーアもマリリアを真顔で見て、

「父の事です。父は何のために帝国を復活させ、戦争を始めたのですか?」

 マリリアは無表情にレーアを見ていたが、

「戦争を仕掛けたのは、反乱軍の方です。大帝はそれに対して戦っているだけです」

 レーアはギクッとした。多くの国民もそう考えているのかも知れないと思ったからだ。

「大帝はエスタルト・ダスガーバン総裁が建国した地球連邦では限界があるとお感じになったのです」

 マリリアはレーアをさげすむような目で見て続けた。

「貴女自身はどう思っているのですか? 父の考えは正しいと思っていますか?」

 レーアはマリリアに顔を近づけて

「最初はそう思いました。でも今は違います」

 マリリアは背もたれに寄りかかるようにしてレーアから離れた。

「では、本当に投降してください。私は貴女をこれ以上監禁したくないんです」

 レーアは立ち上がってマリリアに更に顔を近づけた。

(私は……)

 人質となっているのかも定かではないマルサス・アドムの事にこだわる事に意味があるのか? もしかするとすでにマルサスは殺されているかも知れない。マリリアは揺れ動く自分の心情を計りかねていた。そして一つの結論に達した。

(もうマルサスの事はどうでもいい。でも、この女に同調するのは我慢できない)

 マリリアは目を潤ませて自分を見ているレーアを睨んだ。

「え?」 

 レーアはマリリアの目に怒りを感じて思わず後退あとずさり、椅子に戻ってしまった。

「私は始めから本当に投降しています。ここに監禁しているのはあなた方が私を信用していないからではないですか?」

 あくまで無表情にマリリアは反論した。レーアは驚きのあまり二の句が継げない。

「レーア、気がすんだか?」

 ドアを開いてメキガテルが声をかけた。マリリアは彼の登場にドキッとし、レーアはピクンとした。

「はい……」

 レーアは打ちのめされ、フラッと椅子から立ち上がってメキガテルに近づいた。今にも倒れそうなレーアをメキガテルが支えるのを見て、マリリアは理解した。

(私はレーアに嫉妬しているんだ……)

 マリリアは心の中で自分自身を罵った。

(今はそんなくだらない感情で身の処し方を決めていいの……?)

 そうは思っても、譲れないものがある。

「マリリア、いつか本当の事を話す気になったら、声をかけてくれ」

 メキガテルはレーアを先に行かせてからそう言うと、ドアを閉じた。マリリアはその途端に右目から一粒涙を零してしまった。


 ゲーマインハフト軍はアフリカ大陸に迫っていた。そこへザンバースからの電文が届いた。

「大いに期待する、か。何だろうね、このタイミングは?」

 ゲーマインハフトは謀略家である。ザンバースの言葉の裏の意味を読もうとした。

「そんな事を考えても始まらないか」

 彼はニヤリとし、

「とにかく今はエッドスのバカを潰す事だけを考えようか」

 ゲーマインハフト軍は陸海の双方からアフリカ大陸を目指した。


 地球への降下態勢を整えつつあるカラスムス・リリアスのシャトルは、次第に高度を下げていた。

「どうした?」

 通信士とコンピュータ係がせわしなく動き出したので、リリアスが尋ねた。

「はい、また衛星兵器が起動しているんです」

 コンピュータ係がリリアスに応じる。リリアスはギョッとして、

「俺達を狙っているのか?」

「いえ、そうではないようなのですが、暗号通信で衛星兵器に命令が届いたのは間違いないです」

 通信士が機器を操作しながら答えた。リリアスは眉間に皺を寄せて、

「今度はどこを狙うつもりだ?」

 タイタスやイスター、そしてアイシドス・エスタンも緊張の面持ちで通信士達を見ていた。


 帝国のレーザー兵器であるキラーサテライトはその照準をある場所に絞り始めていた。

(大帝はゲーマインハフトに貸しを作るつもりなのか?)

 キラーサテライトの責任者のヨルム・ケストンはザンバースからの直接命令を受け、戸惑っていた。

(今叩くべきは裏切り者のタムラカス・エッドスだと思うが……)

 しかし一介の科学者であるケストンにそれを口にする事は許されない。

「よし、目標設定終了。発射カウントダウン開始」

 ケストンは迷いを払って命令した。


 リリアスのシャトルからもたらされた衛星兵器再稼働の情報で、南米基地は大混乱していた。

「次はどこだ?」

 ザラリンド・カメリスがコンピュータを必死に操作している。アーミーがその横で心配そうにカメリスを見つめている。

「アフリカか?」

 メキガテルはスクリーンを見上げて呟いた。ミケラコス財団の支配者であるアジバム・ドッテルが死んだ今、その支援を受けてザンバースに反逆したアフリカ州帝国軍司令官のエッドスが一番の標的と思われたのだ。

「違います、メキガテルさん!」

 計算を終了したカメリスが大声で叫んだ。司令室の一同が一斉にカメリスを見る。

「オセアニアです!」

 カメリスの叫びは悲鳴に近かった。

「何だって!?」

 メキガテルもレーアも完全に意表を突かれた思いだった。


 遥か上空から一筋の光が地上を目指し、わずかコンマ数秒で到達した。そこはカメリスが予測した通り、オセアニア州の州都だったキャンベルであった。パルチザン達が集結し、これから東アジアに向かうところだった。彼らは巨大なレーザーの洗礼を受け、焼き尽くされた。そこには以前レーア達の活躍で捕縛された元オセアニア州帝国軍司令官メムール・ラルゴーが監禁されている建物もあった。それが全て一瞬のうちに消滅したのである。


「まず第一歩だ」

 オセアニアの反乱軍壊滅の知らせを受け、ザンバースは言った。

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