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第六十二章 その三 帝国の逆襲

 アイデアルの中心部にあったミケラコス財団ビルは帝国の衛星兵器であるキラーサテライトによって焼き尽くされ、そのほとんどが原形を留めないほどに破壊されてしまった。まだ夜が明け始めた時間帯であったので、周囲には人はおらず、財団ビルの各階は無人で、唯一人がたくさんいたのが、アジバム・ドッテル達がいた情報集積センターの司令室だった。そのため、建物自体には甚大な被害があったが、死亡者は百人を超えていなかった。只、その百人に満たない人間達がいた事で、地球の歴史が大きく動く事になる。


「ミケラコス財団ビルは衛星兵器の第二撃で破壊されました。帝国は第一撃で財団ビルの電源を潰し、第二撃でビルそのものを潰したのです」

 南米基地の司令室でザラリンド・カメリスがパソコンを操作しながら説明した。

「リリアスさん達のシャトルは避難した方がいいでしょう。衛星兵器のレーザーは地上しか狙えないとは限らないですから」

 カメリスは言葉を選びながら言った。

「了解だ。リリアス達には移動を指示してくれ。そうなるとここも安心できないな」

 通信機からメキガテル・ドラコンの声が聞こえる。

「はい。衛星兵器は我々の予想以上にピンポイントで目標を攻撃できるようです。しかも出力を抑えれば、変電所を撹乱する事もできるようですから、ここの電源も安全ではありません」

 カメリスはキーボードを叩きながら続けた。

「了解。そっちは頼みます、カメリスさん」

 メキガテルの声にカメリスは、

「わかりました。ケスミー財団の監視衛星で詳細を探ります」

と応じた。


 キラーサテライトの開発者であるエッケリート・ラルカスは、パルチザン達のシャトルがキラーサテライトをレーザーで攻撃した事実を知り、すぐにそれをザンバースに報告した。

「気にする必要はない。連中がキラーサテライトを狙撃したのは、恐らく計算した上でだろう。一撃で仕留められなかった以上、次は無理であり、悪くすれば自分達が標的になると考える」

 ザンバースはテレビ電話のモニターで緊張した顔をしているラルカスに言った。

「そうかも知れませんが、念には念を入れた方が良いかと……」

 ラルカスは失敗者がどんな末路を辿ったのかよく知っている。それ故、慎重なのだ。

「ならばそのシャトルを撃ち落とせばいい。だが、思わぬ反撃を食らってこちらに甚大な被害をもたらすような事にはならんようにな」

 ザンバースはそう言って通話を切ってしまった。

「……」

 ラルカスはそれをどう判断すればいいのかわからず、しばらく何も映らないモニターを見つめていた。


 アフリカ州で反旗を翻したタムラカス・エッドスはミケラコス財団ビルが焼失したのを知り色を失った。

「何だと……」

 ドッテルが死んだだけならまだエッドスには戦いようがあった。しかし、ミケラコス財団がビルごと消滅し、そこで制御されていた無人の空軍と海軍、陸軍が全機能を停止し、またたく間に帝国軍に殲滅されたのは彼にとっては想定外だったのだ。

(ドッテルが自慢してた軍隊は頭を潰されれば一メートルすら動く事ができない鉄くずだったのか……)

 エッドスはドッテルから無人軍隊の話を聞かされていなかった。知っていれば、反旗を翻さなかったはずだ。

(何でも損得で物事を考える連中は、戦争までそう考える。これだから素人は!)

 エッドスはやり場のない怒りを目の前の机に叩きつけた。それでも彼は、ミケラコス財団の工作員とも知らずに身体を重ねた秘書の事を思い出した。

(彼女の姉が財団にいたのだったな)

 肉親の死を知り、悲しみに打ちひしがれていると考えた彼は、秘書がいる隣の部屋に行った。するとそこはもぬけからだった。荷物は全て持ち出されており、残っていたのはエッドスが彼女に渡した指輪だった。

「戦争が終わったら結婚しよう」

 エッドスは本気で彼女を愛し始めていたのだ。

「あの牝狐め!」

 エッドスは指輪が残されていた事で全てを悟った。彼は指輪を手に取ると、グシャッと握り潰し、床に叩きつけて踏みつけた。

「ミケラコス財団の工作員だというのか……」

 信じたくなかったが、それ以外に考えられない。でなければ、ここで泣き伏しているはずなのだ。

(俺は何と愚かだったのだ……)

 彼は眩暈を起こしながら、司令室へと戻って行った。


 南米基地の第三倉庫では、レーアが獅子奮迅の大活躍をしていた。敵はもちろんの事、彼女に加勢しようとしたメキガテルと兵士一人も唖然とするほど、レーアの戦いは凄かった。

「うりゃあ!」

 一度味を占めたのか、レーアは工作員達の股間を狙ってキックを放っている。どれほど痛いのか想像もつかないレーアは、容赦なくそこを蹴飛ばしていた。

(レーア……)

 メキガテルは自分の股間が蹴られた訳ではないのに何となく内股になってしまう。

「ちょっと、少しは援護してよ、メック!」

 レーアはメキガテル達がぼんやりしているのを見てムッとした。

「あ、悪い」

 巻き添えを食いたくはない。メキガテルと兵士は顔を見合わせ、苦笑いし、レーアの援護に向かった。


 ザンバースは帝国科学局のカラカス・サンドラを大帝室に呼びつけていた。カラカスは局長のラルカスを飛び越えて自分が呼ばれたので、酷く緊張していた。

「生態系に影響を与えない特殊な毒薬の研究は進んでいるか?」

 ザンバースは椅子に座ったままで目を細めて尋ねる。カラカスは更に緊張の度合いを高め、

「はい、順調に進んでおります。あと一週間で完成致します」

「一週間か。かかり過ぎだな。三日で完成させろ」

 ザンバースは目を見開き、カラカスをねめつけた。カラカスはビクッとして後退あとずさりそうになったが、

「了解致しました! あと三日で完成させます!」

と敬礼して応じた。

「よし、下がっていい」

 ザンバースの言葉にカラカスは敬礼を解き、

「失礼致します」

と言うと、まさしく逃げるように退室した。脇に控えていた補佐官のタイト・ライカスが、

「大帝、一体何をお考えなのですか?」

 ザンバースはチラッとライカスを見て、

「生態系に影響を与えない毒薬。すなわち、人間だけを殺せる毒薬だ」

 ライカスは仰天した。ザンバースはチラッとライカスを見上げて、

「どうした、ライカス?」

 ライカスはザンバースの呼びかけにビクッとした。

「あ、いえ……」

 ライカスは手が震えているのに気づいた。

「私が怖いか、ライカス?」

 ザンバースはニヤリとした。ライカスは慌てて手を後ろに回し、

「いえ、そのような事は決して……。只あまりにもその……」

 言い繕おうとしたが、言葉が出て来ない。背中に冷たい汗が流れるのがよくわかる。

「私が何をしようとしているのかわかるか?」

 動揺しているライカスの状態など無視するかのようにザンバースは問いかける。

「は?」

 ライカスは間抜けな顔でザンバースを見た。ザンバースはフッと笑って、

「まあいい。軍の指揮の戻れ」

「あ、はい。失礼致します」

 ライカスは敬礼して退室した。ザンバースは椅子に身を沈めて、

「最後の仕上げに取りかかるか」

と呟いた。


 レーア達は遂に侵入して来た工作員全員を捕縛する事に成功した。

「良かったあ、メック」

 レーアが泣きながら抱きついて来たので、メキガテルはすっかり気が動転してしまった。

「あ、いや、とにかくありがとう、レーア」

 メキガテルはレーアの胸の膨らみを感じて顔を赤らめていた。

「うん」

 レーアは涙でグチャグチャの顔を上げ、メキガテルを見た。

「レーア、メックさん、こっちから丸見えなんですけど?」

 二人の「熱々ぶり」に溜まりかねたステファミーが通信機越しに意見した。

「あ、え、ああ!」

 互いが今の状況にハッとし、慌てて離れた。

「ご、ごめんなさい、メック」

 レーアは耳まで赤くなって詫びた。メキガテルは頭を掻きながら、

「いや、俺こそすまなかった」

 メキガテルはレーアには笑顔を見せていたが、

(ミケラコス財団が消えてしまった今、帝国は完全にこちらに集中できるという事だよな)

 新たな危機が目の前に迫るのを感じ、メキガテルは眉間に皺を寄せた。

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