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第六十二章 その二 振り下ろされた鉄槌

 レーアは工作員の一隊を撃退し、メキガテル・ドラコン達が戦っている第三倉庫に向かっていた。

(メック……)

 レーアははっきり自覚していた。自分がメキガテルに同志以上の思いを抱いている事を。

(メックはこれから先の地球のためにも生き延びなければ行けない人よ。私なんかよりも!)

 レーアは自分の身を捨ててでもメキガテルを助けようとまで思っていた。


 地球を周回し続けているカラスムス・リリアス達のシャトルは、遂に動き出した帝国の衛星兵器の監視をしていた。

「読み通り、アイデアルのミケラコス財団ビルでいいようだな」

 リリアスはコンピュータが計算した結果を見て呟いた。

「そのようです。レーザーの発射準備願います」

 コンピュータ係が告げる。リリアスはそれに応じ、自ら発射役を買って出た。

「誰もが尻込みする事をするのが隊長の役目だからな」 

 彼はイスターやタイタスを見てニヤリとした。

「頼みます、リリアスさん」

 イスターが祈るような目で言う。タイタスは只頷くだけだ。

(失敗は許されない、か。さすがの俺も、ビビりそうだ)

 リリアスはインカムを着け、発射レバーをセットしながら、手が震えているのに気づいた。


 リリアスのシャトルが計算した衛星兵器の目標予測は南米基地にも暗号でもたらされた。

「やはり、ミケラコス財団ビルか」

 ザラリンド・カメリスが言った。アーミーは相変わらずウットリした顔でカメリスを見ている。

(だが、ドッテルは帝国の衛星兵器の事を知っているはず。只手をこまねいているとは思えないが)

 カメリスにはアジバム・ドッテルが何の対策も講じていないとは思えなかった。

(あの用意周到な男が帝国の動きに反応しないはずがない。何かある)

 しかしそれが具体的にどんな事なのかはカメリスにも想像がつかなかった。


 その噂のアジバム・ドッテルは不敵な笑みを浮かべたまま、司令室のスクリーンを見上げていた。

(さあ、ザンバース、撃って来い。こちらは準備完了だぞ)

 そのドッテルを背後から見ているカレン・ミストランはドッテルが何故これほど余裕を見せているのかわからなかった。

(帝国の兵器を防ぐ事ができるの、アジバム?)

 カレンは眉をひそめ、ドッテルの背中を見つめた。


 そして、その衛星兵器「キラーサテライト」の発射準備を進めている開発者のエッケリート・ラルカスは、リリアス達のシャトルを探知していた。

(まさかとは思うが、キラーサテライトを落とそうとしているのか?)

 ふとそう思ったラルカスだが、

「あり得ないな」

と思い直し、フッと笑った。


 また一方、ザンバースは着々と進む発射準備報告を受けていたが、無表情のままだった。それをすぐ脇で見ているタイト・ライカスは震えそうだった。

(大帝は何をお考えなのだ?)

 ザンバースがすでにキラーサテライトに興味を向けていない事を察したライカスは、彼の次の一手を想像していた。

(キラーサテライトがミケラコス財団ビルを壊滅させれば、敵は反乱軍のみになる。その時大帝は……)

 敵の総隊長であるメキガテル・ドラコンがいる南米基地にはレーアがいる。だからそこはミッテルム・ラード麾下きかの工作員が潜入している。

(地球を周回している反乱軍のシャトルには恐らく月支部のアイシドス・エスタンが搭乗している。奴を地上に降ろす訳にはいかないから、それを撃墜するのか?)

 その時、ライカスは重大な事を思い出した。

(エッドスか!?)

 アフリカ州軍司令官であったタムラカス・エッドス。彼はつい先程帝国を裏切り、反乱を起こした。ザンバースはエッドスの反乱を歯牙にもかけない様子だが、いつかは叩かなければならないはずだ。

「ライカス、ラルカスに繋げ」

 ザンバースは静かに命じた。ライカスはハッと我に返り、

「はい!」

と応じるとテレビ電話の受話器を取った。

「目標を伝えろ」

 ライカスはザンバースが口にした目標に戦慄した。

「ドッテルは衛星兵器に気づいてはいても、その用途までは知らない」

 ザンバースはニヤリとしてライカスを見上げた。ライカスは背中に冷たい汗が伝うのを感じた。


 メキガテルは残った兵士二人と八人の工作員と入り乱れて戦っていた。

「メック!」

 そこへレーアが鉄パイプを振り回しながら駆けつけた。

「レーア、下がってろ!」

 息を切らせながらも、メキガテルはレーアに怒鳴る。しかしレーアは止まらない。

「うりゃ!」

 彼女は鉄パイプで工作員の一人に殴りかかった。

「レーアお嬢様だ。お助けしろ!」

 各班のリーダーが部下達に指示する。部下達はメキガテル達との戦闘を中断し、一斉にレーアに向かった。

「え?」

 それに気づき、レーアはギョッとした。

「そんなに殺到しないでよ、私にばっかり!」

 レーアは無茶苦茶に鉄パイプを振り回す。工作員達は倉庫にあったレンチやスパナで鉄パイプを弾きながらレーアに迫る。

「待てこら!」

 メキガテル達もそうはさせないと追いかけた。レーアを取り囲むようにしていた工作員達は、追いかけて来たメキガテル達を迎え討ち、また混戦が始まる。

「えい!」

 レーアが隙を突くようにして鉄パイプで殴りかかるが、工作員はそれをかわし、別方向からレーアに迫る。

「きゃっ!」

 横から掴みかかられ、遂にレーアは鉄パイプを落としてしまった。

「レーア!」

 メキガテルは目の前に迫る工作員を蹴り倒し、レーアに近づこうとする。すると横合いから別の工作員が飛びかかり、メキガテルはそのせいで倒されてしまった。

「メック!」

 レーアは掴みかかった工作員の股間を思い切り蹴り飛ばし、逆にメキガテルを助けに向かった。


 レーア達が混戦状態にあった頃、空の上ではキラーサテライトが照準を合わせていた。それを監視していたリリアス達のシャトルが微調整をして方向を修正する。

「よし」

 リリアスは衛星を確実に捕捉している追尾装置に満足して頷く。その後ろで彼を見守っているエスタンは息を呑んだ。

(間違いないよな)

 リリアスは設定通りのタイミングで発射レバーを引いた。シャトルからレーザーが発射された。


 キラーサテライトは標的を捉え、照準を合わせた。そして輝き始める。そこへリリアスが発射したレーザーが迫る。ところが、そのレーザーはほんの数メートルの差でキラーサテライトを捉え損ね、虚しく彼方に消えた。そして更にその次の瞬間、キラーサテライトがその数百倍もの威力を誇るレーザーを発射した。


「何だと!?」

 リリアスは帝国の衛星がレーザーをかわしたのを知り、仰天していた。イスターもタイタスもエスタンも同じだ。一緒に脱出したエレイム・アラガスの部下達も驚きを隠せなかった。

「どういう事だ、発射のタイミングは間違えていないぞ」

 リリアスは思わずそう叫んでいた。コンピュータ係も、

「はい、その通りです。何もミスはありません」

「じゃあ、どういう事だ!?」

 リリアスは悔しくてインカムを乱暴に外した。


 リリアスの発射のタイミングも、コンピュータの軌道計算も間違っていなかった。間違っていたのは、攻撃目標だったのだ。キラーサテライトから発射された巨大なレーザーはミケラコス財団ビルではなく、そこから数キロメートル離れたところにある変電所を襲っていた。レーザーは変電所の機器を次々に破壊し、更に送電線を伝ってその先に繋がっているミケラコス財団ビルの電気系統までも破壊して行った。


「何だ、どうした?」

 ドッテルは衛星兵器の攻撃目標がビルではないのを知ったが、何故今ビルの電源が落ちたのかわからなかった。

「補助電源を作動させろ。このままでは対衛星の電磁バリアを造れない」

 ドッテルはすぐに命令した。司令室の更に下にある自家発電装置が作動し、電源が回復するまでの時間はわずかに一分。しかし、その一分が致命的だった。


「次が本番だ」

 ザンバースはもう一撃をラルカスに命じた。キラーサテライトは出力を制御する事である程度の連射にも耐えられる。当然次に狙われたのは、ドッテルのいるミケラコス財団ビルであった。


「バカな……」

 それがドッテルのこの世での最後の言葉となった。

「そんな……」

 それがカレンの最後の言葉だった。

 ミケラコス財団ビルはキラーサテライトの第二撃によって焼き尽くされて行った。ドッテルもカレンも、骨すら残さず蒸発した。そしてミケラコス財団ビルもそのほとんどが焼き尽くされ、崩れ去った。


 頭脳を失ったドッテル軍の空軍、海軍、陸軍は機能を停止し、反撃を開始した帝国軍の前に次々に破壊されて行った。こうして、ドッテルの野望はついえ、一つの戦いの終結を告げた。

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