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第六十二章 その一 入り乱れる戦場

 遂に地球帝国大帝ザンバース・ダスガーバンに反旗を翻したアフリカ州軍司令官タムラカス・エッドス。その直接的な切っ掛けは姉がミケラコス財団に勤務している彼の秘書の話であったが、その秘書が実はミケラコス財団に送り込まれた工作員である事をエッドスは知らない。

「動き出した以上は勝利する」

 エッドスは各員に檄を飛ばし、司令室で指示を出し続けていた。

「もうすぐゲーマインハフトの軍が展開して来るはずだ。東の監視を怠るな」

 そこへヨーロッパ解放軍のカミリア・ストナーからのメールが届けられた。

「当方に敵意なければ交戦を望まず、か」

 エッドスはニヤリとした。そして通信士を見ると、

「我らの敵はザンバース・ダスガーバン。共に勝利を、と返信しておけ」

「は!」

 通信士は急いでキーボードをタイプした。

(という事は、ゲーマインハフトの軍は連中に任せればいいか?)

 エッドスは通信マイクを掴むと、

「大西洋方面の艦隊に地中海の艦隊を合流させろ。ゲーマインハフトの軍はパルチザン共が食い止めてくれる」

 それを横で聞いていた参謀が、

「連中を信用しない方が良いのでは?」

「信用なんかしてない。連中は振りかかる火の粉を払うだけだ。ゲーマインハフトは西アジアだけじゃなく、ヨーロッパも欲しいんだからな」

 エッドスはフッと笑って参謀を見た。


 エッドスの読み通り、東アジア州軍司令官であるエメラズ・ゲーマインハフトのチベット方面軍はアフリカ方面ではなく、ヨーロッパ方面に展開していた。カミリア率いるヨーロッパ解放軍はこれを各所で迎え討ち、戦線は拡大していた。

「連中が西進して来たのは、アフリカ州軍の反乱を鎮めるためだろうに」

 地下に造られた司令室のスクリーンを睨んで、元西アジア州知事のドラコス・アフタルは歯噛みした。カミリアは腕組みして、

「ゲーマインハフトは万事が謀略の狡猾な人間です。これを機会に一気に攻勢に出るつもりでしょう。東アジアの同志達もほとんど駆逐されてしまいましたから」

「タムラカス・エッドスの反乱が思わぬ展開をもたらしているのか」

 アフタルは刻々と変化して行くスクリーン上の戦況を見つめながら呟いた。


 南米基地の第三倉庫では、まだ戦いが続いていた。帝国情報部が送り込んで来た暗殺のプロ集団はその数を侵入時の約半分に減らしていたが、対するメキガテル・ドラコン達もメキガテルの他は二人になっていた。

「ちょっと手間取りそうだな」

 肩で息をしながら、メキガテルが呟く。

「応援を要請しましょう」

 兵士の一人が言った。

「そうだな」

 メキガテルはそこに突っ込んで来た工作員を投げ飛ばし、腹に正拳を入れて倒した。

「私が行くわ、メック!」

 通信機からレーアの叫び声が聞こえた。

「え? おい、無茶はやめろ、レーア」

 メキガテルは慌てて通信機に叫んだが、

「もう行っちゃいましたよ、レーアは」

 ステファミーの声が答えた。メキガテルは唖然としたが、

「仕方ない」

 彼はレーアが到着する前にケリをつけようと思った。

「聞こえたな?」

 工作員の一つの班のリーダーがニヤリとして班のメンバーを見る。メンバーもニヤリとして頷く。

「我が班はこれよりレーアお嬢様救出作戦を展開する」

 総勢五名がこれから待ち受ける悲劇を想像する事なく、第三倉庫から出て行った。

「む?」

 メキガテルは敵の幾人かが倉庫を出て行ったのに気づいた。

(奴ら、レーアを襲撃するつもりか?)

 メキガテルが追おうとすると別の班が立ち塞がった。

「邪魔するな!」

 メキガテルが殴りかかるが、敵は素早く動き、彼を翻弄した。


 基地内の監禁室にいるマリリア・モダラーはその争いから遠く離れたところにいたが、監視役の女性兵士二人が持ち場を離れたのを見て、

(侵入者に押されているの?)

 自分の命が危ないと感じたマリリアは監視がいなくなったので、脱出を試みる事にした。彼女は部屋の中を見回したが、窓の外に取り付けられた鉄格子を壊せるようなものはない。かと言って、頑丈な扉を壊すのはもっと難しい。

(どうすれば……)

 マリリアはベッドに腰を下ろした。

(メック……)

 そんな時にも、彼女は恋人のマルサス・アドムではなく、メキガテルの事を思い出した。


 夜が白々と明け始めた北アメリカ大陸東岸には、アジバム・ドッテルの私設軍の艦隊が集結しつつあった。また戦火に焼かれる可能性を感じた首府アイデアルに僅かに残った住民達は家を捨て、町を離れて行った。その逃げて行く住民達の頭上をドッテル軍の戦闘機が爆音を轟かせて飛行して行く。住民達はその鼓膜を破りそうな音に反応して空を見上げた。

「大帝、再びドッテルの軍がアイデアルに集まりつつあります」

 大帝室に赴いたタイト・ライカス帝国軍司令長官代理が告げた。しかしザンバースはゆったりと椅子に寛いだままだ。灰皿に置かれた煙草から紫煙が立ち上っている。

「焦るな、ライカス。我々には天のいかずちがある」

 ザンバースは余裕の笑みを浮かべてライカスを見上げた。ライカスはハッとして天井を見上げた。

「キラーサテライト、ですか」

 ザンバースは椅子を軋ませて立ち上がり、

「ドッテルの軍は無人だと判明した。ならば叩くべきは戦闘機や艦船ではなく、それに指示を出している基地そのものだ」

 ザンバースは煙草を手に取り、

「たった一撃で勝敗は決する」

と言うと、ギュウッと灰皿に押し付けた。ライカスは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。


 空軍と海軍を展開させたドッテルは、情報集積センターの司令室でスクリーンに展開される戦況を見てほくそ笑んでいた。

(ザンバースは恐らく衛星兵器でここを狙って来るだろう。そんな事は想定済みだ)

 ドッテルには対衛星兵器の秘策があった。

「頭を潰せば、攻撃は収まると思ったら大間違いだぞ」

 彼はニヤリとして椅子に座り、脚を組んだ。そこへボロボロの服を身にまとったカレン・ミストランが私室から出て来た。司令室の面々はカレンの姿に一瞬唖然としたが、またすぐに業務に戻った。ドッテルはカレンに気づき、

「もうすぐだ。もうすぐ終わるよ、カレン」

 しかし、カレンは真っ赤に泣き腫した目でドッテルを睨んだまま、何も言わなかった。ドッテルはそんなカレンの反応を見て苦笑いし、

「まあ見ていろ。お前がケダモノと呼んだこの私が地球の支配者となるさまをな」

 それでもカレンは何も言わず、ドッテルの頭の上にあるスクリーンを見上げた。


 第三倉庫を飛び出した工作員五人は、基地の廊下を走り、レーアを探していた。

「本当に来るのか?」

 リーダーがそう呟いた時だった。

「たあ!」

 どこからかレーアの掛け声が聞こえたかと思うと、メンバーの一人がドテッと廊下に倒れた。

「何!?」

 残った四人が驚いて振り返ると、天井の一部をずらしてレーアが鉄パイプを持って飛び降りて来た。倒された者は白目を剥いている。レーアはその顔を見て、

「し、死んでないよね?」

 リーダーはレーアの顔を見て目を見開き、

「レーアお嬢様だ! お助けしろ!」

 リーダーの号令で他の三人が一斉にレーアに突進した。

「あんた達に助けてもらういわれはないわ!」

 レーアはブンと鉄パイプを振り回し、接近しようとした工作員を威嚇した。

「お嬢様、大帝のところにお戻りください」

 リーダーが愛想笑いをしてレーアに言う。しかしレーアは、

「嫌よ。私はパパとはもう親子じゃないの。戻るつもりはないわ」

 リーダーは小さく舌打ちした。

「ならば無理にでもお戻りいただきますよ」

 彼はレーアを睨みつけた。三人の工作員がレーアを取り囲むように動いた。

「戻らないって言ってるでしょ!」

 レーアが鉄パイプを前にいる工作員に振り下ろした時、後ろにいた工作員が彼女に掴み掛かった。

「きゃ、何するのよ!?」

 レーアは工作員に羽交い締めにされ、鉄パイプを落としてしまった。

「さあ、もう抵抗はおやめください、お嬢様。我々も手荒な真似はしたくないのです」

 リーダーが鉄パイプを拾ってレーアに近づいた。するとレーアは、

「わかったわよ。もう抵抗しないから、放してよ」

 レーアが観念したと思ったリーダーは羽交い締めを解かせた。

「さあ、参りましょうか、お嬢様」

 リーダーはレーアの肩に手をかけて言った。その時だった。

「ぐおお……」

 レーアの鮮やかな膝蹴りがリーダーの腹に食い込んでいた。

「うりゃ!」

 次に回し蹴りで後ろにいた工作員の股間をクリーンヒットし、前から襲いかかって来た残りの二人をリーダーが落とした鉄パイプで殴り倒した。

「ごめんね、そこは私も蹴りたくなかったんだけど」

 レーアは股間を抑えて悶絶している工作員に謝った。そして通信機を取り出し、

「一隊は片づけたわ。捕縛をお願い」

と言うと、第三倉庫へと走り出した。

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