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第六十一章 その二 裏切り

 南米基地は一見鉄壁の守りに見えるが、それはあくまで戦闘機や戦車などの兵器に対してだけである。金属探知レーダーがいくら隙間なく索敵していても、武器を身に着けず、体温を探知されない工夫が施された特殊なスーツを着込んだ人間を見つけ出す事は難しい。誰も、丸腰で基地に乗り込んで来る者がいるとは想定していないからだ。それでも侵入者を探知できたのは、相手が呼吸をするからだった。呼気が熱探知レーダーに引っかかり、居場所がわかったのである。しかし、相手は帝国情報部選りすぐりの工作員だ。発見した時にはすでにそこには痕跡しか残っていなかった。

「何としても探し出せ!」

 基地の警備を任されているパルチザン隊の隊長が命令する。

「奴らの狙いは間違いなく総隊長だ。何としても阻止しろ」

 隊長は一人一人に言い聞かせるように言い、自分も三つに分かれた隊の一つに加わり、サーチライトが照らす基地の外の探索を開始した。


 ミケラコス財団の支配者であるアジバム・ドッテルが仕掛けた大帝府壊滅作戦のせいで、廃虚と化してしまった帝国首府アイデアル。そのため、街にはほとんど明かりが灯っておらず、漆黒の闇がそこにはあった。

「工作員が全員、連中の基地侵入に成功しました」

 地下に潜行したままの大帝府の大帝室で、ミッテルム・ラードがザンバースに報告した。

「マリリアはどうしますか? 作戦を遂行していないようですが?」

 ミッテルムは薄笑いを浮かべて尋ねる。ザンバースはミッテルムを見上げて、

「今はメキガテル暗殺に特化させろ。マリリアなど生きていようが死んでいようが、現段階では支障はない」

「は!」

 ミッテルムは敬礼して応じ、大帝室を出ようとした。

「ミッテルム」

 ザンバースが席を立ち上がって呼び止めた。ミッテルムはクルリと振り返り、

「何でしょうか?」

 ザンバースは彼に歩み寄ると、

「メキガテル暗殺に成功したら、すぐに部隊を撤収させろ。余計な事はするな」

 ミッテルムはザンバースの鋭い目に思わず後退りした。

「わ、わかりました」

 彼は額から汗を噴き出し、大帝室を逃げるように出た。

(レーアお嬢様を救出しようと思っていたが、それを見抜かれたのか、大帝は……)

 ミッテルムは額の汗をハンカチで拭い、廊下を足早に歩いた。確かにレーアを連れ出すとなると、只逃げるより難しくなる。しかし、ミッテルムは、レーアを盾にすればうまくいくと考えていたのだ。

(それも見抜かれたのか?)

 彼はザンバースがレーアを切り捨てようとしてるのか、守ろうとしているのかわからなくなった。


 メキガテルはレーア達に地下壕へ避難するように話したところだった。

「メック、貴方も避難すべきよ。貴方はみんなの心の支えよ。貴方をうしなったりしたら……」

 レーアは目を潤ませてメキガテルに訴えた。ステファミーもアーミーも同じ気持ちだ。

「俺は君が言うほどの人間じゃないけど、少なくともここをまとめている立場ではある。その俺が侵入者から逃れるために地下に避難したら、それこそ同志達は失望する。結束は弱まる。帝国にチャンスを与える事にもなる。そんな事はできない。だから、俺はここに残る」

 メキガテルはレーア、ステファミー、アーミー、そして司令室にいる全員を見渡しながら告げた。

「じゃあ、私も避難しない。ここに残るわ」

 レーアはメキガテルを見つめて言った。

「私も」

 ステファミーが続く。アーミーはザラリンド・カメリスをチラッと見てから、

「私も。だって、まだ衛星兵器のトレースの解析が終わってないもん」

 メキガテルはレーア達を見て肩を竦め、

「わかったよ。残りたい者は残れ。但し、全員自己責任で頼むぞ」

と言うと、シートに腰を下ろした。結局、司令室にいた人間は誰一人として避難する事なく仕事を再開した。


 ミケラコス財団ビルの地下にある情報集積センターの作戦会議室で、ドッテルは各施設軍の参謀を集め、今後の戦略を話し合っていた。

「第一撃は成功した。しかし、相手はあのザンバース・ダスガーバンだ。このまま我々の快進撃が続くとは思えん」

 ドッテルが言うと、空軍担当の参謀が、

「帝国軍はまだその戦力の百分の一を失っただけです。北米大陸だけでも二百万の兵がおり、制空権は未だにあちらにあります」

 ドッテルは空軍担当参謀を見て、

「どう対処するつもりだ?」

と尋ねた。空軍担当参謀はドッテルを見て、

「我が無敵空軍には限界がありません。昼夜の別なく攻撃を仕掛けさせれば、どれほどの大軍でも壊滅するでしょう」

 ドッテルはその言葉を聞いてニヤリとした。

「我が軍も同様です。無敵艦隊で北米大陸東岸を制圧し、制海権を奪取できると考えております」

 海軍担当参謀が言った。するとドッテルは眉をひそめ、

「だが、アフリカ州のエッドスがまだ腹を決めていないうちは、首都攻略は早計だ。背後から攻撃される恐れがある」

「エッドスは必ずこちらにつきます。間違いありません」

 陸軍担当参謀が自信に満ち溢れた顔で言い切った。ドッテルは彼を見て、

「何故そう言い切れる?」

 陸軍担当参謀はニヤリとして、

「そう仕向けるからです。エッドスは無類の女好き。奴の好みは調べ尽くしてあります」

 ドッテルは自分の事を言われたのかと思い、一瞬顔を強張らせたが、

「なるほどな」

 ドッテルは席を立った。

「エッドスが動いた時が作戦決行の時だ。頼んだぞ」

 彼は三人の参謀の顔を見渡しながら言った。


 太陽が東から昇ろうとしている頃、噂になっていたエッドスは秘書との楽しみを切り上げ、司令室にいた。彼はまだどちらにつくか悩んでいた。

(ザンバースは気に食わない奴だが、ドッテルの力はまだ奴には及んでいない。総力戦になれば、勝機はないだろう。だが……)

 エッドスが決断しかねている理由の一つにレーアの存在があった。

(ザンバースの娘はそのどちらにも属していない。一度はこちらに接触して来た反乱軍も、その後は何も動きを見せていない)

 彼はメキガテル率いるパルチザンの力も無視できないと考えていた。

(ザンバースは南米基地を攻撃しろと言って来た。俺がドッテルについたとしても、反乱軍がこちらを攻撃する事はないという事か?)

 ヨーロッパは衛星兵器の攻撃で一気に帝国優勢になった。その衛星兵器の存在もエッドスには気がかりである。

(それに……)

 エッドスはベッドで秘書が語った話を思い出した。

『私の姉はミケラコス財団にいます。その姉からの情報ですと、ミケラコス財団の戦力は完全に無人化されているそうです』

 もし、秘書の話が真実であれば、ドッテル軍の強さは計り知れない。

(戦闘兵器の無人化がなされていれば、制限なく戦えるという事だ)

 エッドスは立ち上がった。

「全軍に指令」

 彼はザンバースを見限る事を決意した。


 南米基地の敷地内に潜入した工作員達は警備のパルチザン達とあちこちで戦闘を繰り広げて人数を減らしつつあったが、その中の二班十名が建物内に侵入していた。そしてその情報は司令室にいるメキガテルにも伝わっていた。

「メック……」

 レーアが不安そうに彼を見上がる。メキガテルは腕組みをし、基地内部の見取り図が映し出されたスクリーンを見上げたままだ。

(暗殺のプロを送り込んで来たのか、ザンバース。それほど俺が怖いのか? 邪魔なのか?)

 メキガテルはフッと笑った。

「メック?」

 それに気づいたレーアが心配して再び声をかけた。メキガテルはレーアを見下ろし、

「大丈夫だ、レーア。俺は冷静だし、正常だよ」

「あ、うん……」

 メキガテルに真正面から微笑まれて、レーアは顔が火照るのを感じ、俯いた。

「ここだと戦えないな。第三倉庫に誘導しろ。俺もそこに行く」

 彼は通信士にそう告げ、レーアから離れる。

「メック、何言ってるのよ!? 危険だわ」

 レーアは涙声でメキガテルの背中に叫んだ。するとメキガテルは振り向いてニヤリとし、

「こう見えて、俺は強いんだぜ」

 その言葉にドキッとして固まってしまったレーアとステファミーを残し、メキガテルは五人の兵士と共に司令室を出て行った。


 監禁室のマリリア・モダラーは全く情報を得ないままでいたので、何が起こっているのかわからなかった。窓から外を見ると、建物の明かりはほとんど消えていて、敷地内を照らすサーチライトが巡っているのが見えるだけだ。

(中に入られたの?)

 彼女は鼓動が高鳴るのを感じた。死が近づいているような気がしたのだ。

(メック……)

 マリリアは殺されるのは怖くなかったが、死ぬ前にもう一度メキガテルに会いたいと思ってしまった。まさか狙われているのが自分ではなく、そのメキガテルだとは思わずに。

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