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第六十一章 その一 帝国情報部暗躍

 地球周回をすでに何回したかわからないほど、カラスムス・リリアスのシャトルは飛行を続けている。燃料を必要としてる訳ではないので、飛行が長期にわたるのは支障はないが、乗員のストレスはかさむばかりだった。

「南米基地から暗号通信で送られて来た帝国の衛星の軌道解析結果です」

 通信士がリリアスに文書を転送した携帯端末を手渡す。リリアスはそれを読んで、

「相変わらずメックは無理難題を言って来るな」

と苦笑いした。タイタスとイスターがそれを覗き込む。

「確かに衛星の軌道に規則性はあるようですけど、それを狙撃しろって、無茶過ぎないですか?」

 イスターが言った。するとリリアスは、

「どちらにしても、それが可能なのは俺達だけだ。地上からの攻撃では例え何万発ミサイルを撃っても当たりはしない」

「それはそうですが……」

 イスターが更に何か言おうとすると、

「やらないでウダウダ言うなよ、イスター。やってみなきゃわからないだろ?」

 タイタスが割って入った。リリアスはニヤリとして、

「そうだな。しかし、そこにも書いてある通り、チャンスは一度きりだ。失敗したら、敵に軌道を変更されて、もう二度と狙撃はできないし、こっちも狙われる事になる」

 タイタスはそれを聞いて息を呑み、イスターを見た。

「できる事はしよう。我々が地上に安全に降りるためにも、狙撃は成功させなければならない」

 誰よりも疲労が蓄積しているアイシドス・エスタンが一同を見渡して言った。

「はい」

 リリアス達はエスタンを見て大きく頷く。

「衛星兵器が次に狙うのは恐らく南米基地だろう。ザンバースにとって一番邪魔な存在はメックだからな」

 リリアスが言うと、イスターが、

「でも南米基地にはレーアがいます。彼女を巻き込むような攻撃をするでしょうか?」

 タイタスは不安そうにリリアスを見る。リリアスは腕組みをして、

「それはそうなんだが、南米基地がないとなると、次はどこだという事になるが……」

 南米基地以外に帝国が潰そうとする場所。

「ミケラコス財団ビル!」

 イスターとタイタスが異口同音に叫んだ。エスタンも頷きながら、

「思わぬ痛手を負わせたドッテル軍への反撃を衛星兵器でするかも知れないな」

 イスターとタイタス、その他の搭乗員がリリアスを見た。エスタンもリリアスを促すように見る。

「よし、敵の狙いをミケラコス財団ビルに絞り、軌道を計算、こちらからの狙撃ポイントを割り出してくれ」

 リリアスはコンピュータ係に命じた。

「了解」

 コンピュータ係はキーボードを叩き始めた。


 カレン・ミストランはドッテルに引き裂かれた服をかき集め、剥き出しになった胸を隠し、ボロボロになったストッキングを投げ捨て、たくし上げられたスカートの裾を下ろした。

「ケダモノ!」

 カレンは涙に濡れた目でズボンを履き直しているドッテルを睨んだ。

「そんな事を言いながら、最後はしっかり感じていたのはどうしてかな、カレン?」

 ドッテルはニヤリとして彼女を見下ろす。カレンは赤面して顔を背けた。

「口ではどれほど強がりを言っても、もうお前は私なしでは生きて行けない身体なんだよ」

 ドッテルはカレンに顔を近づけ、彼女の顎を掴んだ。カレンはドッテルに唾を吐きかけたが、ドッテルは微動だにせず、

「それが今のお前の精一杯の抵抗か? 感じれば頼まなくても股を開くお前の?」

 ドッテルの指に力が入り、カレンの顎に爪がグイッと食い込む。

「うぐ……」

 痛みで顔を歪ませ、身をよじって離れようとするカレンだが、ドッテルはそれを許さなかった。

「私はお前を傷つけたくないんだ、カレン。大人しくしろ」

 ドッテルはカレンの顎から手を放すと立ち上がり、顔をハンカチで拭い、それを彼女に投げつけた。

「ううう……」

 カレンは悔しさのあまり床に伏して泣き出した。涙がポロポロと白い絨毯に落ちて染みを広げる。

「もうすぐお前は地球の最高権力者の妻になるのだ、カレン。心配する必要はないよ」

 ドッテルはそう言うと、私室を出てセンターに行ってしまった。

「アジバム……!」

 カレンは怒りに震え、ドッテルが出て行ったドアを睨みつけた。


 エッドスはキングサイズのベッドで秘書と全裸で微睡まどろんでいた。

「ありがとう」

 エッドスは半ば強引に彼女を組み伏せ、事に至ったので、キスをしてそう言った。

「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」

 しかし秘書はかねてからエッドスに抱かれたかったので、別に嫌な気持ちになってはいなかった。

「できましたら、時折お慰めしたいのですが……?」

 彼女は恥ずかしそうにそう言った。エッドスは目を見開いて驚いたが、

「わかった。また頼む」

「はい」

 秘書はエッドスの厚い胸板に寄り添い、嬉しそうに応じた。

(その願いが叶うかどうかは、これからの運次第だな)

 エッドスは秘書を軽く抱き寄せ、苦笑いした。

(良い運を呼び込むには、どちらの権力者に従うべきなのか?)

 彼はザンバースにつくか、ドッテルにつくか、まだ悩んでいた。


 夕闇が広がり始め、あちこちにサーチライトが点き出した南米基地の周囲に黒い影がいくつかうごめいていた。帝国情報部長官であるミッテルム・ラードの命を受け、パルチザン隊の総隊長で連邦派の中心でもあるメキガテル・ドラコンを暗殺するための部隊である。彼らは五人一組で五班に分かれ、基地にジワジワと接近していた。彼らが距離を詰め始めたのは、マリリア・モダラーの動きが止まったからである。最悪の場合、マリリアも消すように言い付かっているのだ。彼らは何も武器を身に着けていない。暗殺のプロは素手でも十分人を殺せる。何よりも怪しまれないためには、武器を携帯しない事である。基地のセキュリティに引っかかっても、言い逃れをできるからだ。五つの班はそれぞれのルートを取り決め、班長の指示に従って基地のすぐそばまで近づいた。


 マリリアはナタルコン・グーダン元南米州知事が急に監禁室に来なくなったので、

(メキガテルがグーダンを殺したのかしら?)

と考えていた。

(まあ、いいわ。あの男にあれ以上抱かれるくらいなら、殺された方がマシ)

 そう思うくらい、グーダンはしつこかったのだ。そしてそれ以上に、マリリアはメキガテルに尻の軽い女と思われるのが堪え難かった。

(年下の坊やに惹かれるなんて、私もいよいよダメかな?)

 自嘲気味に笑った時、基地の警報が鳴り出した。

「まさか?」

 マリリアはギクッとした。

(ミッテルムが見切りをつけて私を消すの?)

 彼女はそう思ってしまった。


 不審者侵入の警報が鳴り、南米基地は緊迫した。

「人数と場所を特定しろ」

 メキガテルは司令室に飛び込むと同時に命令した。

「何があったの?」

 レーアとステファミーとアーミーが司令室に戻って来た。彼女達はシャワーに行く途中だった。

「侵入者だ。今人数と場所の特定をさせている」

 メキガテルがいつになく真剣な表情で告げた。

(ああ……)

 場違いとは思いながらも、レーアとステファミーはウットリしてしまう。

(このタイミングで現れたのは、マリリアを消しに来たのか、それとも?)

 メキガテルは眉をひそめ、考え込む。

(ここにはレーアがいるから、衛星兵器では狙えないという事か?)

 そう思うと、急に安心してしまった。

「俺か? 俺が狙いか?」

 メキガテルがそう呟き、笑い始めたので、レーアとステファミーは呆気にとられた。

「どうしたのかしら、メキガテルさん?」

 アーミーが一人、首を傾げた。


 帝国軍司令長官代理であるタイト・ライカスは、ザンバースに呼び出され、嫌な汗を背中に伝わせながら、大帝室に入った。

「座れ、ライカス」

 ライカスは微かに笑って見えるザンバースの顔が悪魔に見えた。

「は……」

 辿辿たどたどしい歩みでソファに近づき、腰を下ろす。するとザンバースもその向かいに座った。ライカスは思わず唾を飲み込んでしまった。

「エッドスは恐らく裏切る。それに備え、空軍と海軍の展開を急がせろ」

 ザンバースの言葉にライカスは間抜けな顔をしてしまった。

「どうした、ライカス? 聞こえなかったのか?」

 ザンバースはニヤリとして尋ねた。ライカスはハッと我に返り、

「いえ、聞こえております。すぐに空軍と海軍を展開させます」

 ザンバースはライカスの慌てぶりを愉快そうに見ていたが、

「ドッテルの空軍に基地を潰された事を叱責されると思ったのか?」

「あ、はい……」

 ライカスは何もかも見抜かれているので、更に恐ろしくなった。

「あれは捨て駒だ。初陣くらい飾らせてやってもいいだろう?」

 ザンバースの言葉にライカスは戦慄した。

(この方は本当に恐ろしい方だ……)

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