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第六十章 その一 新たなる戦い

 地球帝国の首府アイデアルは、ミケラコス財団のアジバム・ドッテルが指揮する潜水艦によるミサイル攻撃を受け、大帝府を中心に炎上していた。

 帝国軍は陸海空の戦力が反撃を試みたが、潜水艦はミサイル攻撃を終えると素早く潜航してしまったので、ダメージを与える事ができなかった。

 アイデアルの住民の多くはミサイルの爆発による業火で焼かれ、死んで行った。しかし、帝国が始まった時点でその人口は激減していたため、ドッテルが想像しているより人的被害は少なくなった。大帝府周辺には住居はなく、企業の多くも郊外に移転していたからである。その本拠地をアイデアルに残していたのはドッテルが手中にしたミケラコス財団以外に存在していなかった。もちろん、ミケラコス財団はミサイルの攻撃を受ける事はなかったし、類焼する事もなかったが。


「奴がいたビルはどうした?」

 ミケラコス財団ビルの地下にある情報集積センターでドッテルはレーダー係と通信士に尋ねた。

「大帝府があった場所には建物の存在が確認できません」

 レーダー係がコンピュータを操作しながら答える。

「大帝府付近の通信システムも消滅したようです。助けを求める通信も呼びかける通信も存在しません」

 通信士が告げる。ドッテルはその答えを聞き、右の口角を吊り上げて笑った。

「そうか。どうやら我々の勝利のようだな」

 一度はセンターを飛び出したカレン・ミストランだったが、表は火の海で逃げ出す事ができないので戻って来た。そして彼女はあまりに呆気ない勝敗に眉をひそめていた。

(ザンバース・ダスガーバンともあろう者がこの程度で終わるだろうか?)

 彼女はザンバースと直接会話した事はおろか、顔を合わせた事すらないが、その側近であるタイト・ライカスの秘書をしていたため、ザンバースの用意周到さはよく知っている。

(あり得ない。何かある。こんな簡単に決着がつくはずがない)

 カレンはザンバースの反撃を想像し、身震いした。

「残存戦力も叩いておけ。火はどれほど小さくても消してしまうに限る」

 ドッテルは勝利に酔いしれているのか、ニヤリとして命じた。


 その頃、レーアがザンバースと暮らしていた邸は直接の被害こそ免れていたが、付近に火事が起こり、メイドや料理人達が荷物をまとめて避難を始めていた。

(お嬢様、今はどこにおいでなのですか?) 

 レーアを小さい時からずっと見て来たマーガレットは、自分の身の危険よりレーアの心配をしていた。彼女はレーアがいなくなってガランとした彼女の部屋にいた。

「早く避難してください」

 帝国軍の士官クラスの軍人がやって来て声をかけた。ザンバースの指示だ。当然の事ながら、大帝府は無事で、ザンバースも死んではいないのだ。

「はい」

 マーガレットはその声にハッとしてスーツケースを持つと、レーアの部屋を出た。

(どうかご無事で、お嬢様)

 彼女はレーアの無事を祈り、帝国軍の装甲車に乗り込んだ。


 レーアとメキガテルが司令室に戻った時、ヨーロッパ解放軍の基地が帝国の衛星による攻撃で壊滅した事、謎の潜水艦によるミサイル攻撃でアイデアルが火の海になり、大帝府が焼失したらしい事を知らされた。

「そんな……」

 レーアにとってはどちらも衝撃的な情報だった。彼女は危うく倒れそうになったが、

「しっかりしろ、レーア」

 メキガテルが素早く支えてくれた。レーアは泣いていた。

(アイデアルが火の海……)

 敵とは言え、ザンバースは紛れもなく只一人の肉親である。そして、邸にはマーガレットを始め多くの使用人が働いている。レーアはその人達の無事を祈りながらも、その希望があまりにも薄い現実を考え、泣いてしまったのだ。

「カミリア達は無事なのか?」

 メキガテルが通信士に尋ねた。

「はい。基地の人間は前線が殲滅された時にすでに脱出したので、全員無事のようです」

 通信士の回答にメキガテルはホッとした表情になったが、

「アイデアルの大帝府が焼失したらしいというのはどういう事だ? 情報があいまいだぞ」

 通信士はメキガテルの指摘にビクッとしたが、

「アイデアル付近のパルチザン隊の連絡では、大帝府のあった場所に確かに建物は存在していないのですが、瓦礫の量が合わないと伝えて来ました」

「瓦礫の量?」

 メキガテルはレーアを起こしながら通信士に問い直す。通信士は機器を操作しながら、

「大帝府は元の連邦ビルですが、地上五十階建てです。それが全壊したにしては、瓦礫が少な過ぎるようなんです」

「そういう事か……」

 メキガテルは顎に手を当てて思案した。

(瓦礫が少な過ぎる? どういう事なのかしら?)

 レーアもメキガテルの横で考え始めた。

「わかりましたよ」

 その時、ザラリンド・カメリスが言った。一同がカメリスに視線を集中させた。

「大帝府は焼失していませんし、崩壊もしていません」

 カメリスはメキガテルにプリントアウトした衛星動画を手渡した。

「これは?」

 メキガテルはそれを見て目を見開いた。

「正体不明の潜水艦からミサイル攻撃が始まる十分前の大帝府の映像です」

 メキガテルが手にしているプリントは短い時間の動画を印刷したものである。そこには五十階建ての大帝府が地面に沈んで行く映像が映っていた。

「大帝府は地下に潜り、攻撃を免れていたんです」

 カメリスが言うと、レーアはついホッとしそうになったが、

「という事は、帝国大帝府は全くの無傷という事ですか?」

 カメリスはレーアのその問いに厳しい表情で、

「そういう事になりますね。そのシステムはエスタルト総裁が発案してケスミー財団が関連企業に工事させたものです」

 メキガテルはプリントをカメリスに返して、

「だからザンバースは連邦ビルをそのまま大帝府として使っていたのか」

「恐らくそうでしょう」

 カメリスは更にコンピュータを操作する。

「それから、帝国の衛星の周回軌道ですが、ようやく掴めました」

 司令室の天井付近に立体映像の地球が現れた。

「ずっと同じ軌道を回っているのではなく、時折移動しています。これを狙い撃つのは至難の技ですね」

 カメリスはコンピュータを操作し、周回する衛星の動きを示した上、何度か攻撃のグラフィックも見せた。

「軌道は地上のコンピュータで管理し、ランダムに修正しているようです。今までの衛星の軌道を全部トレースしてみました」

 立体映像の地球に衛星の軌跡が書き込まれて行く。それは地球のほぼ全体を覆い隠してしまうものだった。

「これじゃあ狙いようがないって事か?」

 メキガテルは腕組みをして言った。レーアも同じ思いである。

「でも、攻撃の時は速度が落ちるの。そこを叩ければ……」

 トレースの作業をアーミーと手分けしてこなしたステファミーが言う。

「しかし、それも一瞬です。不可能に近いですね」

 カメリスが無念そうに付け足した。一同の視線がメキガテルに集まる。メキガテルはそれに気づき、

「ランダムとは言え、所詮はコンピュータの処理だ。必ず規則性がある。それを調べてもらえませんか、カメリスさん」

と言った。カメリスは驚いたようだったが、

「わかりました。やってみます」

「お願いします」

 メキガテルはカメリスの肩を叩くと、また通信士を見た。

「アイデアルの状況が詳しく知りたい。付近のパルチザンに連絡をとってくれ。大帝府が無事なのなら、ここも決して安全ではない」

「はい」

 メキガテルの言葉は司令室にいた全員を凍りつかせるようなものだったが、通信士は力強く返事をし、機器の操作を開始した。


 一方ドッテルも大帝府が破壊されて焼失したのではない事を知った。

「どういう事だ?」

 彼はレーダー係に怒鳴った。レーダー係は後退りして、

「あのビル全体が地下に潜ったようです」

「何だと!? そんな準備をいつできたというのだ……」

 そう言いながら、ドッテルはある事に気づいた。

(そうか。そういう事か。だから奴は連邦ビルをそのまま流用したのか……)

 ドッテルはザンバースの用意周到さに改めて脅威を感じた。

(勝てるの、この戦い?) 

 カレンは哀れむような目でドッテルを見た。


 様々な人の予測通り、ザンバースはビル全体を地下に移動させ、無事だった。

「反撃を開始しろ、ライカス」

 彼はテレビ電話に映るライカス補佐官に命じた。

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