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第五十九章 その二 無敵艦隊

 地球帝国大帝であるザンバース・ダスガーバンが、科学局局長のエッケリート・ラルカスに命じて造らせた新兵器が、ヨーロッパ解放戦線の前線基地を焼き尽くした。巨大な爆雲が空を埋め尽くすのを見た解放軍のリーダーのカミリア・ストナーと元西アジア州知事のドラコス・アフタルは酷く狼狽えてしまった。

「あれは何?」

 カミリアは誰にともなく質問した。

「地球衛星軌道を周回中のカラスムス・リリアスのシャトルより入電です! 帝国が打ち上げたロケットから射出された衛星が発射したレーザーのようです」

 通信士が答えた。カミリアは眉を吊り上げて通信士に歩み寄り、

「レーザー? 衛星からのレーザー程度で、あれほどの出力を出せるものなの?」

「わかりません」

 通信士は困ったような顔をしてカミリアを見上げている。カミリアはアフタルを見た。

「空から我々撃つつもりであるなら、ここも安全ではないという事だ。大至急地下壕に避難した方がいいだろう」

 アフタルは辛うじてそれだけ言うと、眩暈を起こしたようによろけた。

「ここまで積み上げて来たものが、一瞬で吹き飛ばされた……」

 彼には前線基地の全滅が衝撃だったのだ。あと一息でヨーロッパへの足がかりができるところだったから。

「とにかく、全部隊に通達。すぐに付近の地下壕へ避難。以後の活動は地下に限定する。急いで!」

 カミリアは通信士をいくつかのブロックに分け、一斉通信をさせた。

「何て事なの……」

 彼女は南米基地のメキガテルに連絡をとり、戦線の鼓舞のため、レーアと共に来て欲しいと伝えた。しかし、今や状況は一変した。

(レーアとメックを呼んだところで、どうにもならない)

 カミリアはドンと会議用のテーブルを叩いて歯軋りした。


 北アメリカ大陸の東岸にある帝国大帝府の科学局では、ラルカスがキラーサテライトの次の目標であるヨーロッパ解放戦線の本部の捜索をさせていた。キラーサテライトは、元々監視衛星であったものを改良を加えて軍事衛星にしたものである。高出力のレーザー発射を可能にしたのは、太陽光であった。キラーサテライトにはたくさんの太陽電池が搭載されており、最大出力で発射すれば、小さな町一つは消滅させられるレーザーの放射が可能である。

「急ぐのだ。我ら科学局が如何に優れたセクションであるか他の連中に知らしめるため、必ずこの作戦を成功させるぞ」

 ラルカスは武器開発課のヨルム・ケストンを従え、フロアのスタッフ達に檄を飛ばした。

「はい」

 スタッフ全員が真剣な眼差しで返事をする。彼らは知っているのだ。リタルエス・ダットスやマルサス・アドムのその後を。失敗は許されない。それを骨身に染みて感じているのである。


 キラーサテライトの試射を一番間近で見たリリアス達は、戦況が激変したのを感じていた。

「月基地が潰れて、メック達が善戦した上、カミリア達が盛り返したというのに!」

 リリアスは悔しそうにモニターに映る巨大な爆雲を見た。

「ヨーロッパだけではなく、地球中のパルチザンが動きを封じられたって事だよな」

 タイタス・ガットが呟いた。友人のイスター・レンドは頷き、

「そうだな。さっきヨーロッパにいたからって、安心できない。何しろ敵は遥か上空だ。一瞬で自分達の頭上に到達するってわかったら、怖くて外に出られないよ」

「外に出られないだけじゃない。基地ごと吹き飛ばされる可能性があるんだ。またパルチザンは以前と同じように地下に潜伏するしかない」

 リリアスは吐き捨てるように言った。

「俺達で何とかできないんですか、リリアスさん?」

 タイタスが尋ねる。するとリリアスは、

「敵の衛星は目にも留まらぬ速さで移動しているんだ。どうする事もできないよ」

「そうですか……」

 タイタスはがっかりした顔でイスターを見た。元月支部知事のアイシドス・エスタンも沈痛そうな面持ちで腕組みをし、黙ったままである。

(ようやく地球帰還の目処が立ちそうだったが、これまでか……)

 自分が戻れないのは覚悟ているが、他の者達は何としても帰還させたい。エスタンはキャノピーから見える地球を見つめて思った。


 キラーサテライトがヨーロッパ解放戦線の前線基地を一瞬にして焼き尽くしたのを知ったレーアとメキガテルは、出発準備を中止し、司令室に戻った。

「何が起こったんだ? すぐに調べろ」

 メキガテルは的確にスタッフに指示を出した。

「リリアス達の報告では、帝国のロケットが射出した衛星の攻撃らしいです」

 通信士が告げ、プリントした紙を渡した。

「衛星の攻撃だと?」

 メキガテルはギョッとした顔でそれを見た。

「レーザーの可能性があるのか……」

 メキガテルはそれを握り潰すと、司令室を飛び出した。

「待って、メック!」

 レーアが彼を追った。

「衛星の攻撃なら、ケスミー財団の監視衛星が何か捉えているかも知れません」

 ザラリンド・カメリスが機器類を操作し、監視衛星にアクセスを開始した。

「レーザーを発射したのなら、軌道が解析できるはずです」

 真剣な表情でキーボードを叩くカメリスをアーミーが尊敬の眼差しで見つめている。

「アーミーさんとステファミーさんは解析結果をプリントアウトし、トレースしてください」

「はい!」

 ステファミーの声がかき消されてしまうほど、アーミーの返事は大きかった。


 司令室を飛び出したメキガテルが向かったのは、マリリア・モダラーがいる監禁室だった。

(マリリアなら何か知っているはずだ)

 何か知っていても教えるはずはないと思ったメキガテルだったが、何もしないではいられなかった。

(前線基地には何百人もの仲間がいたんだ。彼らの死を無駄にはできない)

 メキガテルは自分の未熟さを罵っていた。

(何故気づかなかったんだ? 奴なら考えそうな事じゃないか)

 大股で歩くメキガテルを追って、レーアが走って来た。

「待って、メック。マリリアさんに会いに行くんでしょ?」

 レーアは息を弾ませて尋ねた。メキガテルは立ち止まって振り返り、

「ああ。彼女なら何か知っているはず。直接的にではなくても、誰が関わっているかくらいはわかるはずだ」

「そうね」

 レーアは呼吸を整えながら頷く。そこへノコノコとナタルコン・グーダンが現れた。

「どうしたんだね、メック? 基地内部がやけに騒々しいようだが?」

 グーダンは薄ら笑いを浮かべて訊いた。しかしメキガテルは、

「ご自分の部屋にいてください」

「あ、いや、何が起こっているか教えてくれ……」

 グーダンはメキガテルが怒っているのに気づき、レーアにもわかるほど狼狽え始めた。

「何度も言わせないでもらいたい、グーダンさん。ご自分の部屋にいてください」

 メキガテルの有無を言わせない口調に気圧けおされたグーダンは、

「わ、わかった……」

とだけ言うと、すごすごと自分の部屋へと歩き始めた。メキガテルはグーダンが廊下の角を曲がってしばらくしてから、再び歩き出した。

「私も同席していいですか?」

「ああ、いいよ。俺がマリリアの色仕掛けに落とされないように見張っていてくれ」

 メキガテルはレーアを見てニヤリとした。

「まあ……」

 レーアは顔を赤くしてしまった。


 アイデアルのミケラコス財団ビルの地下にある情報集積センターで指揮を執り続けているアジバム・ドッテルは、帝国の衛星兵器の存在を知らされた。

「その程度ではどうという事はない。只、急ぐ必要が出て来たな」

 彼は目の前マイクを掴むと、

「大西洋無敵艦隊に通達。作戦時間を繰り上げる。二時間後、アイデアル砲撃作戦を開始する」

「了解」

 ドッテルはフッと笑ってマイクを戻した。

(アイデアル砲撃作戦?)

 ドッテルの後ろでそれを聞いていたカレン・ミストランは、身震いした。

(まさか、全面戦争を仕掛けるつもりなの?)

 ドッテルはアイデアルを灰燼かいじんに帰してでもザンバースに勝つつもりなのだ。

「衛星の攻撃はレーザー。ならば我らの勝ちだ。我が無敵艦隊のな」

 ドッテルの顔はもはや人間のものではなくなっている。カレンはそう思った。

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