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第五十九章 その一 天を裂く光

 ミケラコス財団を率いるアジバム・ドッテルが陰で動いているのを察知した帝国情報部のミッテルム・ラードは、更に人員を増員し、ドッテル周辺は言うに及ばず、財団全体に調査を広げていた。

「ドッテルは何を企んでいるのでしょうか?」

 ミッテルムは報告書をザンバースに手渡しながら言った。ザンバースは報告書をチラッと見てから、

「奴を侮るな。あの男は、私の計画に逸早く気づいた男だ。監視を続けるのだ」

「は!」

 ミッテルムはザンバースがいつもとは違って真剣な表情なのが気にかかった。

(やはり大帝は、メキガテル・ドラコンよりドッテルを警戒されているのか?)

 ミッテルム自身も、パルチザン隊の総隊長であるメキガテルより、帝国建国の際に資金面で援助して来ていたドッテルの動向の方が気になってはいた。それを彼は取り越し苦労かも知れないと感じていたのだが、ザンバースが同じ考えだとわかり、意識が変わったのだ。

「引き続き調査を進めます」

 ミッテルムは敬礼し、大帝室を出た。

(ドッテルは、個人的にコンバットファクトリーの株式を所有していたはず。やはりそちらを調べた方がよさそうだな)

 ミッテルムは情報部の自室に戻ると、すぐに各地に派遣している工作員に連絡をとった。


 北米大陸の帝国軍が一斉に東部に移動したため、グランドキャニオン基地の攻略を続けていたサラミス基地のパルチザン達は、あっさりグランドキャニオン基地を奪還できた。

「良かったなあ、激戦にならなくてさ」

 長期戦か苦戦を覚悟していたパルチザンの多くはそう思っていた。しかし、リーダーのケイラス・エモルと元北アメリカ州知事のリスボー・ケンメルは帝国軍の動きに不信を抱いていた。

「何かありそうですね、ケンメルさん」

 ケイラスは喜び合う兵士達に聞こえないようにケンメルに囁いた。ケンメルも眉間に皺を寄せて、

「ああ。あれほどこだわっていたグランドキャニオン基地をこうも簡単に放棄して撤収するなんて、どう考えても不自然だ。何かあると思った方がいい」

 ケイラスはその言葉に頷きながら、笑顔で語り合う仲間を見た。


 ミッテルムがその動向を監視しているドッテルは、財団ビルの地下にある情報集積センターに籠っていた。

(帝国がロケットを打ち上げたのは、空から地上を制するためだろう。私がそれを見抜けないとでも思っているのか、ザンバースは?)

 ドッテルは手許にある資料に目を落とす。

「肝を冷やすのはお前の方だぞ」

 彼はニヤリとして資料をテーブルの上に置いた。それを怯えた様子でカレン・ミストランが見ていた。

(この人は何をしようとしているの?)

 カレンは本気で逃げ出そうと考え始めていた。

(アジバムはミローシャが死んでしまってからおかしくなっている)

 一度は本気でドッテルを愛したカレンだったが、その野望の進捗度の凄まじさに怖くなっているのだ。


 ナタルコン・グーダンは、マリリア・モダラーの肉体に溺れていた。彼はもう丸二日、全く司令室に顔を出さないばかりか、マリリアの監禁室に入り浸っていた。

(このエロオヤジ、ここまで堕ちるとは思わなかったわ)

 マリリアは、ベッドの隣でいびきを掻いているグーダンをさげすむような目で見て思った。

(こちらで仕掛けておいてなんだけど、うんざりするほどしつこいわ)

 彼女はグーダンの底なしの精力に辟易へきえきしていた。足も腰も痛くて仕方がないのだ。

(それにしても、グーダンがこんなにここにいると、あの切れ者のメキガテルが不審に思うんじゃないかしら?)

 マリリアはグーダンを部屋から追い出そうと思ったが、このままにしておけば、またメキガテルに会えるとも思ってしまった。

(私……)

 恋人のマルサス・アドムを救うために偽装投降し、更に抱かれたくもない中年男と身体を重ねているのに、何故かメキガテルの事を思うと顔が火照ってしまう。マリリアは自分の気持ちがわからなくなっていた。

「うるさい!」

 あまりにも無神経なグーダンのいびきがかんさわったマリリアは、ペシンと彼の顔を叩いた。

「ふご?」

 そのせいで、グーダンは目を覚ました。

「何だ、どうした?」

 グーダンは何かが起こったと思ったのか、ブヨブヨの腹を動かして、ベッドから飛び出した。その反動でベッドが大きく揺れ、マリリアは危うく転げ落ちそうになった。

「ナタル、そろそろ司令室に顔を出さないと、変に思われるわよ」

 マリリアはムッとしながらも態勢を立て直して言った。するとグーダンは醜い腹を撫でながら、

「そうだな。今日は戻ろうか」

と言うと、脇に脱ぎ捨ててあるトランクスを履いた。

(豚が!)

 マリリアは心の中でグーダンを罵った。


 その頃、もうすでにグーダンの事は放置しようと決断しているメキガテルは、レーアとヨーロッパに向かう準備をしていた。二人は基地のヘリポート脇にある待機室でルートの確認をしていた。

「まずはここをヘリで発ち、大西洋に出たら、帝国から奪取した潜水艦で地中海まで行く。ボスポ海峡に到着したら、そこからは陸路だ」

 メキガテルは地図をテーブルの上に広げて話をしている。レーアは、狭い待機室にメキガテルと二人きりなので、ドキドキしていた。

(やっぱり、カッコいいかも……)

 この時期にそんな事を考えるなんて不謹慎だと思ったが、どうにも頭からその思いが追い出せないのだ。

「何か質問は?」

 メキガテルはポオッとしているレーアを見て言った。レーアはハッと我に返り、

「えっと、誰と誰が行くんですか?」

「俺と君と、後は十数名。帝国だけではなく、野盗や海賊の類いも出るので、屈強なのを揃えるつもりだよ、姫様のためにね」

 メキガテルがウィンクをして言ったので、レーアは赤面し、

「そ、そうですか……」

 恥ずかしくなって俯いた。


 ヨーロッパ解放戦線のリーダーとなっているカミリア・ストナーは、南米基地から、帝国がロケットを打ち上げた事を知らされた。

「ロケットの中にあった機材が高速で移動したという事は、衛星の可能性が高いね」

 元西アジア州の知事であるドラコス・アフタルが言った。

「そうですね」

 カミリアはその件に胸騒ぎを覚えていた。

(何が起ころうとしているんだろう?)

 彼女は、かつて所属していたパルチザン隊の全滅を思い起こしていた。

(トレッド……)

 それは彼女が愛した男の名前でもあった。


 地球の衛星軌道を周回しているカラスムス・リリアス達の搭乗しているシャトルは、帝国が打ち上げたロケットが射出したものが何なのか、調査を進めていた。

「時期的に考えて、軍事目的なのは疑いがないんだが」

 リリアスは腕組みをして考え込んでいる。対象物は高速で移動している。うっかり近づいて接触でもすれば、シャトルが危ないため、遠くから観察するしかないのだ。

「隊長、地上からの通信をキャッチしました。あの射出物に何か指示を送っているようです」

 通信士がリリアスを見て報告した。

「内容はわからないのか?」

 リリアスは通信士に近づいて尋ねた。通信士は首を横に振り、

「いえ。暗号通信のようで、指示内容はわかりません」

「そうか」

 リリアスは落胆して通信士から離れた。その時だった。

「何だ!?」

 シャトルの小さいキャノピー越しに光が走るのが見えた。まるで稲妻のような輝きだった。

「今のは何だ?」

 イスターとタイタス、そしてアイシドス・エスタンにもその光は見えた。


 その光は、真っ直ぐに地上へと向かった。行き着く先は、ヨーロッパ解放戦線の前線基地がある場所だった。

「ぐああ!」

 その光はパルチザン達の部隊総勢五百を一瞬にして焼き尽くした。骨も焼き尽くすような高温だった。彼らは自分達の死を認識する時間もなかっただろう。焼き尽くされたのは人間だけではない。戦車も装甲車も、ありとあらゆるものが消滅してしまった。


「何?」

 カミリアとアフタルは、地響きのような振動を感じ、地下から外の様子を窺った。

「あれは……?」

 解放戦線の前線基地がある方向に巨大な爆雲が見えた。カミリアの胸騒ぎは的中してしまったのだ。

「何なの、あれは……?」

 彼女はアフタルと顔を見合わせた。

 

 ザンバースは、「キラーサテライト」の試射が成功した事をエッケリート・ラルカス科学局局長から伝えられた。

「そうか。では次は連中の拠点を潰せ。ヨーロッパを完全に制圧するのだ」

 ザンバースはテレビ電話のモニターに映るラルカスに命じた。

「は!」

 ラルカスは敬礼して応じた。

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