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第五十八章 その二 進展

 司令室に入ったメキガテルは、ツカツカと通信士に歩み寄ると、

「グーダンさんはどこだ?」

と尋ねた。通信士はメキガテルを見上げて、

「マリリア・モダラーの聴取ではないですか?」

「マリリアの?」

 メキガテルは、昨日の夜から元南米州知事のナタルコン・グーダンの巨体を見かけていない事が気掛かりだった。

(会議室にも姿を見せない。司令室にも来ていない。何をしてるんだ、あの男は?)

 グーダンは元々あまり仕事熱心な人間でない事は承知していた。しかし、この緊急時に大事な会議に姿を見せず、投降者であるマリリアの事情聴取とはどういう事だ? メキガテルには、グーダンの思考が理解できなかった。

「わかった」

 メキガテルは通信士の肩をポンと叩き、司令室を出た。そして廊下を大股で歩き、取調室がある方へと向かった。


 一方レーア達は、ケスミー財団の秘密のアジトから送られて来た武器弾薬のチェックをしていた。

「凄いね。こんなにたくさん送られて来るなんて」

 倉庫に山積みにされた銃の入ったケースや弾丸を包装したものを見て、アーミーが呟く。

「今更ながら、ミタルアムおじ様が亡くなった事、残念でならないわ」

 レーアは目を潤ませて言った。するとそれを聞きつけたザラリンド・カメリスが、

「だからこそ、我々がその遺志を引き継がなければならないんです。会長の遺志を」

「そうですね」

 レーアは慌てて涙を拭い、カメリスを見た。

「そうですよね、カメリスさん」

 何を思ったのか、アーミーが二人の間に割って入った。レーアはアーミーの気持ちを知っているので、苦笑いしたが、カメリスはキョトンとしてしまった。

(男って、鈍感なのね)

 横で見ていたステファミーは思った。彼女は知らないのだ。カメリスが亡きクラリア・ケスミーに恋していた事を。


 北米大陸の東岸にある地球帝国首府アイデアル。その中心の大帝府。

「打ち上げは成功しました。後は軌道を修正し、発射準備を進めるだけです」

 大帝室で、帝国科学局局長のエッケリート・ラルカスが緊張の面持ちでザンバースに報告していた。

「そうか。ヨーロッパの反乱軍を黙らせ、メキガテル・ドラコンを潰すのも、もうすぐだという事だな?」

 ザンバースは煙草の煙をくゆらせたままで、ラルカスを見上げる。ラルカスは額の汗を拭って、

「はい。間もなくそうなりましょう」

 ザンバースは煙草を灰皿でねじ消し、

「期待しているぞ、ラルカス」

「は!」

 ラルカスは敬礼して応じた。ザンバースはそれを見てフッと笑った。


 アイデアルの本社ビルに戻ったドッテルは、帝国がロケットを極秘で打ち上げたという報告を受けた。

「何をするつもりだ、ザンバースめ」

 ドッテルは苦々しそうな顔でアタッシュケースを机の上に投げ出し、ドカッと椅子に座った。

「バトルフィールドカンパニーが何か知っているのでは?」

 カレン・ミストランはソファにゆっくり腰を降ろして言った。ドッテルはカレンを見て、

「今となっては、あそこには伝手つてがない。ザンバースが軍で制圧して、関係各所を押さえ込んでしまった」

「そうは言っても、貴方の子飼いのスタッフはそのまま残っているんでしょ? 連絡がつかないかしら?」

 カレンはドッテルを見た。ドッテルは立ち上がってカレンに近づき、

「連中も命が危ないだろうから、こちらからの連絡は難しいだろう。もし取れたとしても、その情報を鵜呑みにはできない」

と言うと、カレンの隣に座り、肩を抱いた。

「罠の可能性も考えられるという事ね」

 カレンはドッテルに顔を近づけて言った。

「そういう事だ」

 二人は唇を貪り合った。

「今できる事は、我々の通信網を使って、空の動きを知る事くらいだ」

 ドッテルは息継ぎをするように唇を放した。


 グーダンは、取調室にはいなかった。彼はマリリアを収容している監禁室にいた。二人は一糸纏わぬ姿でベッドにいた。

「お元気なのね、グーダンさん」

 マリリアはグーダンの股間に右手を伸ばして言う。

「いや、昔に比べれば、相当弱くなった」

 グーダンは息も絶え絶えで答えた。マリリアはフッと笑って、

「若い頃のグーダンさんに会っていたら、私は壊されていたわね」

 また唇を貪り合う。マリリアの右手が動く。

「う……」

 グーダンが呻いた。

「まだできそう、グーダンさん?」

 マリリアは耳元で囁いた。

「どうかな……」

 グーダンは顔中に汗を滲ませて言う。

(このジジイ、本当に好き者ね。ザンバースでさえ、ここまで求めて来たりしなかったのに……)

 マリリアは悟ったのだ。何故自分がここへたった一人で送り込まれたのかを。

(普通、偽装の投降をするのなら、最低でも二人はいないと無理。だとすれば、ミッテルムが私に求めているのは、これしかない)

 帝国情報部長官のミッテルム・ラードは、恋人であるマルサス・アドムの命を握っている。そのミッテルムの意向を汲み取り、遂行するしかない。マリリアは反吐へどが出るほど嫌だったが、グーダンに抱かれたのだ。しかし、グーダンのしつこさは、彼女の想像以上だった。

「まだできるじゃない、グーダンさん」

 マリリアは不敵な笑みを浮かべ、更に右手を動かす。

「うおお!」

 突然グーダンが雄叫びを上げ、マリリアにのしかかった。

「ふうう!」

 グーダンは獣のような息遣いでマリリアの豊満な乳房をもてあそび、乳首に吸い付いた。

「ああ……」

 マリリアは悶えてみせた。それを見てグーダンは更に興奮した。

「い、いくよ、マリリア」

 グーダンはニヤリとしてマリリアの太腿を開いた。

「いらっしゃい、坊や」

 マリリアは心の中でグーダンを呪いながらそう言った。


 取調室の前にいる女性兵士が、メキガテルを見るなり震え出したので、妙に思った。

「どうした? この中にマリリアとグーダンさんがいるんだろう?」

 メキガテルは女性兵士の一人に尋ねた。するとその兵士は救いを求めるようにもう一人の兵士を見た。メキガテルはムッとして、

「どうした? 何があったんだ?」

と怒鳴った。二人の女性兵士はビクッとしてメキガテルを見た。

「責任を追及したりしないから、本当の事を教えてくれ」

 メキガテルは優しい顔になり、二人の肩に手をかけて言った。

「実は……」

 女性兵士が重い口を開いて語り始めた。

 話を聞き終え、メキガテルは怒りより先に情けなさで項垂れてしまった。

(やっぱりあの人は、その程度の人だったのか)

 メキガテルは、最初に南米基地を奪還した時、幾人かのパルチザン隊の小隊長に言われたのだ。

「グーダンを追放した方がいい」

と。しかし、メキガテルは、愚鈍ながらもそれなりの人脈を持っているグーダンを切る事で、戦局が大きく変わる事を懸念し、反対を押し切って彼を神輿みこしの上に据えたのだ。

(今となっては、求心力と言う点では、レーアの方が優っている。潮時かな?)

 メキガテルは、マリリアがグーダンを籠絡ろうらくし、彼から情報を引き出すつもりなら、敢えてそれに乗ってやろうと思ったのだ。

「君達はその事を誰にも話していないね?」

 メキガテルは微笑んで尋ねた。女性兵士はそれが余計怖かったのか、また震え出し、

「は、はい……」

と異口同音に言った。メキガテルはニヤリとして、

「そうか、良かった。誰かに話していたら、銃殺刑だったよ」

と言うと、その場を立ち去った。二人の女性兵士はもう少しで失禁しそうなくらい衝撃を受けていた。

(あの二人も、それくらいの罰は受けてもらわないとな)

 もちろん、メキガテルは二人を銃殺刑に処するつもりなどない。只、そんな緊急事態を報告しなかった事に対する責任を思い知ってもらいたかったのだ。

(マリリアがそこまでして来るとは思わなかったがな。だとすると、彼女の恋人が人質になっているという話は本当なのか)

 メキガテルは様々な戦術を考えながら、司令室に戻って行った。


 衛星軌道を周回中のカラスムス・リリアスのシャトルは、帝国が打ち上げたロケットが機材を射出したのをキャッチしていた。

「何をするつもりなんだ?」

 リリアスは眉をひそめて呟いた。

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