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第五十五章 その二 メキガテル・ドラコン暗殺計画

 南米大陸で繰り広げられた戦いは、まさに地球を揺るがすような戦闘になって行った。

 帝国軍全体を陽動に使って、パルチザンと連邦派の重要人物であるメキガテル・ドラコンを暗殺する。帝国軍司令長官を兼任するタイト・ライカス補佐官はその戦略に全てをかけていた。

(これ以上失敗はできない。何としても、メキガテル・ドラコンの首だけは……)

 ライカスは補佐官室の机にしがみつき、祈るように戦況が送られて来るパソコンを見つめていた。それを脇の机から見ていたマリリア・モダラーは、

(この人をここまで追いつめるなんて、本当にザンバース・ダスガーバンという人は恐ろしい人だ)

と分析していた。

「北からの陸路を進むRJSー66型戦車は順調か」

 ライカスはホッとした顔で呟く。

「南の海伝いに展開している空母サラマンダーとカイゼルの動きが悪いな」

 ライカスはパソコンのキーボードを打ち、指示を出す。

「東からの重爆撃機GGKー818、819の編隊はもっと高度を上げないと敵の高射砲の餌食だ」

 ライカスの目は血走っていた。

(追いつめられ過ぎじゃないかしら、補佐官は?)

 マリリアは生真面目過ぎるライカスの身体を心配していた。その時、彼女の机の上のインターフォンが鳴った。

「はい」

 マリリアは何だろうと思ってボタンを押した。

「ミッテルムだ。至急私のオフィスに来て欲しい」

 相手は情報部長官のミッテルム・ラードだった。

(もしかして、ドッテルの使いが私に接触して来た事を知っているの?)

 マリリアの額を汗が流れ落ちる。

(だとしても、私には何もやましい事はない)

 マリリアは席を立ち、

「補佐官、ラード長官のところに行って来ます」

「わかった」

 空返事なのか、きちんと理解しているのかわからないような返事が返って来た。マリリアは気にも留めず、補佐官室を出た。

「ネメス川を遡っている潜水艦ネプチューンはまだアマズーネ地方区に到達していないのか?」

 ライカスはマリリアが退室したのを気づいていなかった。


 レーア達の搭乗しているシャトルは衛星軌道に戻り、遥か上空から南米の激烈を極めた戦闘を観る事になった。

「凄いですね。この高さで確認できる炎と煙なんて……」

 ザラリンド・カメリスはシャトルを安定させてオートパイロットにすると、キャノピーから眼下の地球を眺めた。

「私達、違う場所に降りた方がいいのではないでしょうか、カメリスさん」

 レーアがその光景を見ながら言った。カメリスはレーアの思いがわからなかったので、

「どういう事ですか、レーアさん?」

と尋ねた。ステファミーとアーミーもレーアを見ている。レーアはカメリスを見て、

「この戦い、私達が南米基地を目指しているから起こっているのでしょう? だとしたら、私達が違うところに向かえば、回避できるのではないですか?」

 カメリスはフウッと溜息を吐いた。

「レーアさん、確かにそれで今起こっている戦いは別の動きを見せて、一時的には戦闘は分散するかも知れません。しかし、これまでにもたくさんの血が流されています」

「……」

 レーアはギクッとした。カメリスはレーアをジッと見て、

「我々が南米基地を目指さない事によって、南米基地の被害は抑えられるでしょうが、今までに命を落とした仲間達は全くの無駄死にになりますよ」

「え、その……」

 レーアはこれ以上犠牲者が出るのが防げればと思って言ったのだが、そこまで考えていなかったのだ。

「レーアさん、その人達の死に報いるためにも、我々は進路を変えてはいけないんです。そして何より、メキガテルさんがそんな事は望んではいない」

 カメリスは泣きそうな顔になったレーアの肩に優しく手をかけて言い添えた。

「はい、ごめんなさい、カメリスさん」

 レーアは涙を拭って謝罪した。

「謝らなくてもいいですよ。貴女は貴女なりに今後の事を考えて発言したのですから」

「はい……」

 止めようと思っても、自分の浅はかさが胸に突き刺さり、レーアは涙を流し続けた。


 そのメキガテル・ドラコンは、帝国軍の戦力の投入の規模に唖然としていた。

「おいおい、どういうつもりだ? アフリカの戦力を除いて、北アメリカもヨーロッパもそのほとんどの戦力がここに注ぎ込まれている計算になるぞ」

 メキガテルは通信士から受け取った帝国軍の通信傍受資料を見て首を捻った。

「それだけこの戦いにかけているのだろう」

 ナタルコン・グーダンが資料を受け取りながら言う。しかしメキガテルは、

「それでも合点がいきませんよ。このままだと、北アメリカが手薄になる。ザンバースのお膝元を空留守にして、どういうつもりなんだか……」

 メキガテルは気に入らないとばかりに資料をグーダンから返してもらうと、テーブルの上に叩きつけるように置いた。

「現に戦闘のいくつかは、先日の作戦と同様、我が方の圧勝です。意味がわからないんですよ」

 メキガテルはソファにドスンと腰を降ろした。グーダンはその向かいに腰を降ろし、

「なるほどな。何か裏があると考えた方がいいか?」

「そういう事です」

 メキガテルは大きく頷き、インカムを着けた。


 アジバム・ドッテルが乗っている専用ジェット機は南米大陸で再開した戦闘で、コース変更を余儀なくされていた。

「ザンバースめ、焼きが回ったか」

 ドッテルはカレンとのお楽しみを邪魔されて苛つきながら、バスローブを脱ぎ、シャツをはおった。

「何か企んでいるのではないかしら?」

 カレンはストッキングを履きながら言った。

「いずれにしても、計画を変更しなければならない。我々は死にに行くのではないからな」

 ドッテルは吐き捨てるように言った。カレンはフッと笑って応じた。


 マリリアは緊張の面持ちでミッテルムと机を挟んで相対していた。

「こうして話をするのはいつ以来かな、マリリア?」

 ミッテルムはニヤリとして言った。マリリアは無表情のままで、

「さあ。貴方と話した事など、今までにありましたか?」

と尋ね返す。ミッテルムは肩を竦めて、

「私も嫌われたものだな、マリリア。しかし、これを見たらそうも言っていられなくなるぞ」

 ミッテルムが差し出したのは、小型モニターに映る一人の男だ。その男は服を引き裂かれ、顔を何度も殴られたように腫れ上がらせ、身体中傷だらけで椅子に縛りつけられている。

「ああ!」

 マリリアはそれが誰かすぐに気づいた。マルサス・アドム。かつて恋人同士だった男だ。

「どういう事!?」

 マリリアはミッテルムを睨みつけた。するとミッテルムは、

「アドムは帝国転覆を画策していた罪で我々情報部が逮捕し、拘束している。現段階では、奴の黒幕を吐かせているところだ」

 マリリアは唖然とし、もう一度マルサスを見た。どうやらライブ映像らしく、マルサスを責める情報部員の声が聞こえて来る。

「マリリア、アドムは何も知らないと言っている。健気にも、お前は関係ないと主張しているそうだ」

 ミッテルムは嫌らしい笑みを浮かべ、マリリアの表情を覗き見る。

「ああ、それから、以前お前が見せられたアドムと女が一緒に歩いている画像だが、よく調べたらあれはお前だったよ」

 ミッテルムの言葉にマリリアは自分が取り返しのつかないことをしてしまったのに気づかされた。

「そんな……」

 マリリアは、マルサスが自分を裏切り、他の女と付き合っていると思い、彼と決別したのだ。その原因であるあの写真が偽りだとすると……。マリリアは混乱していた。

(私、何て事を……)

 同時にミッテルムとザンバースに対して言いようのない怒りが込み上げて来る。しかし、ミッテルムは、

「アドムを放免する方法がある」

と水を向けて来た。マリリアはムッとして、

「何ですか!?」

 ミッテルムは大袈裟に驚いているフリをしている。

「おいおい、そういきり立つな、マリリア。いい話なんだからな」

 マリリアはあくまで冷静なミッテルムの表情にギクッとした。

「私は何をすればいいのですか?」

 マリリアは怒りを堪え、ミッテルムを見る。ミッテルムはニヤリとして、

「メキガテル・ドラコン暗殺に手を貸して欲しい」

 マリリアはあまりにも意外な話に目を見開いた。

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