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第五十五章 その一 南米基地攻防戦

 レーア達の乗るシャトルは、ゆっくりと高度を下げ、南米基地へと降下して行く。帝国軍の主力部隊の大半は、メキガテル・ドラコンの指示で動いたゲリラ隊によって撃退され、基地周辺には静けさが戻っていた。鳥の鳴き声、獣達の雄叫び。一時はアマズーネ地方区全体が焦土と化すかと思われた戦いは、一時終結を迎えた。

「これで終わったと思うなよ。ザンバースはそう簡単に諦めたりしないからな」

 メキガテルは、司令室のマイクを通じて全パルチザン隊に通達した。

(確かにまだ油断はできないが、奴は同じ手で来るほど愚かじゃない。今思えば、リタルエス・ダットスのジイさんが戦死したのは痛かったかもな)

 メキガテルは、ザンバースが何故補佐官であるタイト・ライカスを帝国軍の司令長官にしたのか、推察してみた。

(ライカスは軍事は全くの素人だ。だからミスも多い。しかし、だからこそ、独断専行はない。ザンバースはライカスを信用しているのではなく、そこまでできる人間ではないと考えているんだろうな)

 そう思いながら、メキガテルはライカスを哀れんだ。

「妙に真面目な性格だと、気苦労が絶えないだろうしな」


 メキガテルが基地周辺に監視団を配置し、帝国軍の逆襲に備えている頃、ミケラコス財団の全てを掌握したアジバム・ドッテルは専用のジェット旅客機を使って、南米を目指していた。

「危険ではないの?」

 専用機のプライベートルームのソファに寛いだカレン・ミストランが尋ねた。彼女は備え付けのシャワーを浴び、バスタオル一枚を巻いただけである。

「心配いらんよ。ザンバースはバカではない。力押しではまた同じ目に遭うと悟っているさ」

 ドッテルは革張りの椅子に深々と腰掛け、両足を机の上に投げ出して応じた。

「なるほどね」

 カレンは脚を組み換え、ドッテルを誘惑するように流し目で彼を見る。

「さてと、シャワーを浴びるかな」

 それを察して、ドッテルは椅子から立ち上がる。

「それよりも気になるのはエスタンだな。まさか月に残るとは思わなかったよ」

「そうね。何があったのかしら?」

 カレンも立ち上がってドッテルについて行く。

「アラガスの奴、全て報告して来ていないようだ。いずれにしても、始末するしかないな」

 ドッテルはそう言ってから、シャワールームにカレンと共に消えた。


 月基地に潜入したカラスムス・リリアス達は、確実にアイシドス・エスタンがいる司令室に接近していた。

「どういうつもりだ?」

 リリアスは、ひょっとしたらエレイム・アラガスが仕掛けて来ると思い、警戒しながら進んでいたのだが、一向にその気配がないので、拍子抜けしていた。

「む?」

 その時、通路の向こうに人影が見えた。

「は!」

 部下が銃を構えたのをリリアスは降ろさせた。

「必要ない。あれはレーアさんの仲間だ」

 リリアスは言った。そこに現れたのは、タイタス・ガットとイスター・レンドだった。

「あ、パルチザン隊の方ですか?」

 イスターが笑顔になって声をかけた。

「そうだ。カラスムス・リリアスだ。レーアさんのお友達だね?」 

 リリアスが進み出て微笑む。イスターはホッとしてタイタスと顔を見合わせ、

「はい。同じ高校の同級生です」

「そうか。ところで、エスタンさんとナスカートのブースは?」

 リリアスが二人の後ろを覗き込むようにして尋ねたので、イスターとタイタスはビクッとした。

「エスタンさんとナスカートさんは、まだエレイム・アラガスさんと一緒です」

 イスターは悔しそうな表情で言った。リリアスは目を見開いて、

「あのヤロウ、まだ抵抗するつもりなのか?」

「それはわかりません。でも、あの人、僕達を殺すつもりはないようでした。エスタンさんもナスカートさんも、解放されると思います」

 イスターは続けた。リリアスは肩を竦めて、

「まあ、この期に及んで、エスタンさんとナスカートを殺したところで、あいつに勝ち目はないからな」

 その時、ひときわ大きく天井が揺れた。デーラ隊の突入部隊が隔壁を破ったのであろう。

「ドンパチが始まる前に君達は脱出しろ。エスタンさんとナスカートは俺達が何とかする」

 リリアスはイスターとタイタスの背中を押して言った。

「え、でも……」

 二人は不安そうだ。リリアスはニヤリとして、

「ここを真っすぐ行けば、俺のシャトルが待ってる。心配いらない。行け」

「はい!」

 イスターとタイタスは大きく頷き、通路を走って行った。リリアスは腰の銃を取り出し、

「さてと。これからが本番だな」

と呟き、部下と共に走り出した。


 司令室には、エスタンとアラガスの二人だけが残っていた。アラガスは部下達に脱出するように命じ、ナスカートの入れられたブースを運ばせ、エスタンと残ったのだ。最初はエスタンも脱出するはずだったが、彼自身が残る事を希望したのだ。

「私はここで知事を三十年間して来たのだよ。最後まで残らせてくれないか」

 エスタンのその言葉に、アラガスは自分の覚悟を悟られたと知った。

(この人も、ここで死ぬ気なのか?)

 元知事に残りたいと言われたら、それに反対できるほどアラガスも青くはない。

「君はここで終わるつもりか?」

 二人きりになった時、エスタンが切り出した。アラガスは苦笑いして、

「さすがに人生の先輩だ。見破られたか」

「足を撃ち抜かれた恨みを晴らさずに死なれるのは癪だな」

 エスタンは微笑んで言う。アラガスは柄にもなく涙ぐみそうになった。

「あんたは優しい人だな」

「そうかね」

 二人は顔を見合わせ、フッと笑った。


 メキガテルは、会議室で元知事のナタルコン・グーダンと話していた。他に誰も入れない状態で。

「次の一手は、俺の暗殺かも知れません」

 メキガテルは声を低くして言った。

「そこまでするかな?」

 グーダンは大きな腹を擦りながら首を傾げる。メキガテルは真剣な表情で、

「俺さえいなければ、パルチザン隊は屋台骨を失って烏合の衆になる。そう考えているのではないでしょうか?」

 グーダンの顔が引き締まった。共和主義者の首領であるケラル・ドックストンとリーダー格のディバート・アルター、リーム・レンダースは死亡。そして、パルチザン隊の主力メンバーの多くも戦死している。ナスカート・ラシッドは回復するかどうかわからない。となれば、メキガテルさえ暗殺してしまえば、共和主義者もパルチザン隊も柱をなくす事になる。

「考えられない事ではないな」

 グーダンは腕組みをして口をヘの字に結んだ。

「ですから、俺の遺言をグーダンさんに遺しておこうと思います」

 メキガテルは微笑んだ。グーダンはその顔にメキガテルの決意を感じた。

「うむ」

 グーダンは大きく頷いた。メキガテルはそれに応じて頷き、

「もし俺が倒れる事があったら、レーアを支えてください。彼女がいる限り、我々パルチザン隊は戦えます。彼女こそが、現状の打破をできる存在なのです」

「わかった」

 グーダンはメキガテルの手を握りしめた。

「もちろん、俺は死ぬつもりでこんな事を言った訳ではありません。あくまで最悪のケースを想定しての事です」

 メキガテルは、グーダンの手に思った以上に力が入っているので、そう言い添えた。

「ここで死ぬ訳にはいかない。ドックストンさんや、ディバート達のためにも、必ず戦いに勝利します」

「そうだな」

 グーダンはメキガテルの強い意志を知り、安心したように微笑んだ。その時だった。テーブルの上のインターフォンが鳴った。

「どうした?」

 メキガテルが素早くボタンを押した。

「帝国軍がまた各地に攻撃を仕掛けて来ました」

 その報告にメキガテルは仰天してグーダンを見た。

「どういう事だ?」

 グーダンも驚いていた。

「わかった。すぐに司令室に行く。その間に各部署の展開を進めさせろ」

「了解」

 メキガテルとグーダンはすぐに会議室を飛び出した。


 帝国軍は、南米大陸を取り囲むように進軍していた。北から、西から、南から、東から。前回以上の大部隊を投入して来ていた。

「さすがだな、ライカス。見事な作戦だ」

 大帝室で、ザンバースが報告書を見ながら言った。

「ありがとうございます」

 ライカスはホッとした顔で応じた。

「あれだけ手酷い敗北を喫したのであるから、今度は物量作戦はないだろうと反乱軍は考えている。そこへ同じ手を使って仕掛け、更にそれに乗じて暗殺部隊を繰り出す。いい作戦だな」

 ザンバースがあまりに手放しで誉めるので、ライカスは怖くなっていた。

「後はミッテルムが放った連中がどこまでやれるかだ。レーアとメキガテルの会見は阻止できんだろうが、メキガテルの暗殺だけは何としても成し遂げてもらわんとな」

 ザンバースはニヤリとして報告書を机の上に置いた。

「それと同時に、お嬢様の救出も成し遂げられれば、一番です」

 ライカスは声を上ずらせながら言った。

「確かにな」

 ザンバースはフッと笑い、窓の外を見た。


 レーア達のシャトルは着陸態勢に入っていたが、突然の戦闘に再び衛星軌道まで進路を変更した。

「どういう事でしょう? また帝国軍が大部隊で南米大陸を攻撃しています」

 操縦桿を動かしながら、ザラリンド・カメリスが首を傾げた。レーアも、

「そうですね。無駄な戦いになると思うのですけど」

 ステファミーとアーミーは手を握り合いながら震えていた。

「パパ……」

 レーアは下に見える青い地球を見て、誰にも聞こえないような小さな声で言った。

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