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第五十四章 その二 ルグル・ガーム

 地球帝国の首府アイデアルにあるミケラコス財団のビル。他のビルのほとんどが帝国軍に接収され、帝国の管理下に置かれているのに対して、ミケラコス財団ビルのみは、未だに独立を保っていた。それは財団の完全なるトップになったアジバム・ドッテルの根回しの成果だ。彼は帝国への協力を表立っては表明し、現実に傘下の企業を通じて物資の供給に一役買っている。そして、ミケラコス財団のもう一つの強みは、傘下に軍需産業を抱えている事だ。バトルフィールドカンパニーと、コンバットファクトリー。地球上を二分する軍需産業のツートップの最大の出資者がミケラコス財団なのだ。

 元々、バトルフィールドカンパニーとコンバットファクトリーはライバル会社で、ミケラコス財団はバトルフィールドカンパニーの最大株主であり、コンバットファクトリーは全て地球各地の大手金融機関が出資して設立した企業であった。しかし、連邦制時代、当時のミケラコス財団のトップであったナハル・ミケラコスがコンバットファクトリーの出資元である金融機関を次々に買収し、間接的にコンバットファクトリーを支配下に収めてしまったのだ。そして、その関係はドッテルの代になっても継続されている。ザンバースは帝国復活の折り、ナハルとの密約で「ミケラコス財団はそのまま存続させる」としていた。しかし、ザンバースのやり方に危機感を抱いたナハルが一方的に相互依存の打ち切りを宣言し、財団と帝国の関係は最悪の事態を迎えかけた。ところが、ドッテルはそれを翻し、またザンバースに協力を申し出た。ザンバースはドッテルの真意を測りかねながらも、その事には言及しなかった。

 しかし、帝国とミケラコス財団の勝手な思惑に翻弄された当事者であるバトルフィールドカンパニーの社長ルグル・ガームは、ドッテルの指示で帝国のシャトルの発射を妨害したのを理由に全ての工場と営業所を軍に制圧されてしまったため、ドッテルとの関係に見切りをつける事にしていた。

「恐らくドッテルは我々を容赦なく切り捨てるだろう。そうなる前に我々は帝国に忠誠を誓うのだ」

 ルグルは、制圧されて厳しい監視の元で開かれた取締役会で言った。他の役員達もルグルの考えに賛成の模様だ。ドッテルのやり方はあまりに酷だからだ。

「そうなると、コンバットファクトリーとのせめぎ合いになるだろうが、技術と能力であの新参者に我らが負けるはずがない。帝国がどんな組織なのかを考える必要はない。我々は、我々が生き残れる道を探るだけだ」

 ルグルは役員達を見渡して言った。役員達は黙って頷いた。


 レーア達の乗るシャトルが大気圏に突入し、南米基地に降下する二日前から、南半球各地で激戦が開始されていた。

 赤道直下付近では、帝国軍の重爆撃機が地下に潜っているパルチザン隊をあぶり出すべく、絨毯爆撃を続けていた。パルチザン隊の地下基地付近は、まさしく火の海と化し、森は燃え、動物は焼け出され、付近の住民も多くが逃げ遅れて焼け死んで行った。南米基地のメキガテル・ドラコンはその攻撃に対し、帝国軍の南米州最前線基地が手薄なのを見抜き、そこを一気に攻略、偽情報と戦闘機の不意打ちによる反撃で凌いだ。

 また、南氷洋から艦隊を率いて南米最大の河川であるネメスを遡り、艦砲射撃によって司令本部を攻撃して来た。これに対してもメキガテルは奇策を講じた。川伝いまで進軍し、夜を待って一斉に照明弾で艦隊を照らし出し、何もしないで撤退する。それを何日か繰り返した。やがて艦隊の兵達は疲弊し、それを待っていたメキガテル達のゲリラ部隊によって呆気なく壊滅し、残存兵達は捕虜にされた。

 メキガテルの用意周到さは、誰にも真似できないと言われているほどなのだ。彼はそれほどまでに、レーアの地球帰還、そして彼女との会談を望んでいた。

「レーアが倒れれば、俺達は前に進めなくなる。何としてもここを守り抜き、レーアを迎えるぞ」

 メキガテルは疲れた表情も見せず、マイクに檄を飛ばした。


 レーア達のシャトルは次第に高度を下げ、南米大陸を目指していた。

「メック達、大丈夫かしら?」

 レーアは心配そうにキャノピーの外を見た。眼下には広大なジャングルが見えて来ていたが、あちこちで火の手が上がっているのも見えていたからだ。

「今のところ、基地からの定時更新と電波の発信は途切れる事なく続けられていますから、大丈夫でしょう」

 ザラリンド・カメリスが答える。

「そうなんですか」

 後ろの席のアーミーが嬉しそうに言う。隣の席のステファミーは横目でアーミーを見て、

「やっぱりそうなんだ」

「な、何が?」

 アーミーはカメリスとの事を言うと、いつになく慌てる。小さい頃から一緒だったステファミーは、アーミーが男性に惹かれるのを見るのが初めてだったので、非常に複雑な思いがした。

「アーミー、席交代する?」

 レーアがニヤッとして言ったので、アーミーは、

「え、何で、どうして、どういう事?」

とレーアとステファミーが笑い出すほど混乱していた。

(やっぱりついていけない)

 カメリスは苦笑いしながら、操縦桿を握りしめた。


「まだ落とせないのか!?」

 苛立った顔をして、タイト・ライカスがインターフォンに怒鳴る。

「はい。申し訳ありません」

 南米基地攻撃の司令官の声は怯えていた。滅多に怒鳴らないと言われているライカスが声を荒らげたからである。

「攻撃が手緩いのだ。もっと戦力を投入しろ。この作戦には、帝国の命運がかかっているんだぞ!」

「は!」

 ライカスは叩きつけるようにインターフォンを切る。

「お疲れではないですか、補佐官?」

 秘書のマリリアがコーヒーカップを机の上に置きながら言った。ライカスはマリリアを見上げて、

「そうかも知れんな。実際、焦り過ぎなのは自覚しているよ」

と自嘲気味に言う。そしてコーヒーを一口飲んでから、

「さっき、帝国の命運と言ったが、本当は私の命運がかかっているのだろうな、マリリア?」

 ライカスは苦笑いして、マリリアをもう一度見た。マリリアは微笑んで、

「そうでしょうか? 補佐官は大帝のご信任が厚いですから、例えこの作戦が成功しなくても、大丈夫だと思いますわ」

 マリリアは本当にそう思って言ったのだが、ライカスには皮肉に聞こえたようだ。

「そんな事はないと思うよ」

 ライカスはもう一口コーヒーを啜ると、椅子に沈み込んだ。


 月基地の攻防戦は、ヤルタス・デーラのシャトルがカラスムス・リリアスのシャトルを圧倒し始めていた。もちろん、リリアス達は二手に分かれ、一隊は基地に降下していたが。

「乗員のうちの数名が基地に降下したのがわかった。我々も強行着陸するぞ」

 デーラが命じる。シャトルは高度を下げ、基地に接近した。

「連中も降りてくるつもりか?」

 宇宙服で基地に降下して行くリリアスが、デーラのシャトルの動きを察知して呟いた。

「隊長、月基地から通信です。我らに敵意はなし、共に帝国を打倒する事を望む、です」

 シャトルから連絡が入った。リリアスはニヤリとし、

「どちらさんもお忙しい事で」

と言った。そして降下している部下達に、

「基地は安全だ。各員は帝国のシャトルに警戒しながら降下せよ」

と命じた。


 月基地のエレイム・アラガスは司令室に戻り、エスタンを車椅子に縛りつけてから、

「お仲間のシャトルが苦戦しているらしい。情勢は極めて難しいぞ」

とイスターとタイタスを見やる。イスターはタイタスと顔を見合わせた。アラガスはニヤリとして、

「お前らにはチャンスだぞ。帝国はシャトルに気を取られている。お仲間のもう一隊はこちらに降りて来ているようだ。合流ポイントを確認して、急ぐんだな」

「あ、はい」

 イスターとタイタスはアラガスを見て応じた。

「さてと。システムの回復はどうだ?」

 アラガスが通信士に訊いた。通信士は機器を操作しながら、

「主電源は入ったので、後は順次立ち上げて行くだけです」

「そうか」

 アラガスは意味あり気にエスタンを見た。

「何だね?」

 エスタンは何か言いたそうなアラガスを見上げる。アラガスはフッと笑って、

「いろいろと世話になったな、と思っただけだよ」

と謎めいた事を言った。エスタンはキョトンとしてしまった。


 大帝室で報告書を見ていたザンバースは、テレビ電話が鳴ったので受話器を取った。

「何だ?」

 相手は情報部長官のミッテルム・ラードであった。

「バトルフィールドカンパニーのルグル・ガームが投降をすると言って来ました」

 ザンバースは眉をひそめた。

「投降? すでに連中の工場も営業所も制圧しているだろう? どういうつもりだ?」

「ドッテルを見限り、帝国につくという事のようです」

 ミッテルムがニヤリとして言った。ザンバースはフッと笑い、

「我が身可愛さにご主人を裏切るか。さすがに武器屋の考える事は万事が損得だな」

「そのようで。いかがいたしましょう?」

 ミッテルムは愉快そうに尋ねる。ザンバースは真顔になって、

「応じておけ。但し、監視は怠るな。ドッテルの罠の可能性もある」

「は!」

 ザンバースは受話器を置いた。そして再び報告書を見る。

(レーア……。とうとう私の手の届かないところに行ってしまうか)

 ザンバースは心なしか寂しそうな目をし、報告書を机の上に放った。

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