表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/240

第五十三章 その一 南アメリカ州へ

 月基地を無事脱出したレーア達であったが、月に残ったアイシドス・エスタン達には、エレイム・アラガスの追っ手が差し向けられていた。それをエスタン達は知らない。


「この武器庫もやがて連中の知るところとなるだろう。その前にここを離れ、別のルートで基地に戻ろう」

 エスタンは、一緒に残ってくれたイスターとタイタスに言った。

「どうするつもりなんですか?」

 イスターがナスカートが入っているブースを気遣いながら尋ねる。

「ナスカート君の本格的な回復には、まだ時間がかかる。医療棟を他の棟から遮断して立てこもり、時間を稼ぐしかない」

 エスタンはイスターとタイタスを交互に見て答えた。

「でも、帝国軍のシャトルが接近しているんですよね? 大丈夫なんでしょうか?」

 イスターのその言葉にタイタスがビクッとした。

「先程確認したが、カラスムス・リリアスのシャトルもここに向かっているようだ。帝国軍のシャトルも不用意に攻撃はできないと思うよ」

「ですが、現に攻撃をしているようですが?」

 イスターは更に疑問をぶつけた。

「我々の作戦をリリアス隊に話して、帝国軍のシャトルを牽制してもらう。それに医療棟はいざとなったら地下に移動できるから、まず大丈夫だろう」

 エスタンはイスターの真剣な表情を見て、落ち着かせようとゆっくり話す。

「そうですか」

 イスターはホッとしたようにタイタスと顔を見合わせた。

「レーア達、もう月を離脱しましたかね?」

 タイタスは天井を見上げて言った。エスタンはタイタスの肩を叩いて、

「心配しなくて大丈夫だよ。シャトルの射出口はここから数キロメートル離れているから、アラガスにも帝国軍にも攻撃できない」

「そ、そうですか」

 タイタスは本当にホッとした顔で言った。


 その頃、エレイムの部下達は医療棟に着いていた。

「あの負傷者を収容していたブースが見当たりません」

 部下がエレイムに通信機で報告した。

「どこかに連中が出入りした隠し通路があるはずだ。探せ」

 エレイムの怒鳴り声が聞こえ、部下達は思わずインカムを耳から外した。

「シェルターの正面の扉は開けられた形跡はない。恐らく、別のルートで医療棟に上がったはずだ。必ず見つけろ!」

 エレイムの声は殺気を帯びていた。

「了解しました!」

 部下達は顔を見合わせてから、違う方向へと走り出した。


 ヤルタス・デーラは、月から飛び立ったのがシャトルだと知り、

「アラガスが脱出したのか?」

と考えたが、

「それにしては、反乱軍のシャトルは基地に向って航行している。どういう事だ?」

 アラガス達が脱出したので、レーア達を救出に向かっているとも考えられるが、その可能性は低いとデーラは思った。

(レーア・ダスガーバン達が脱出したのか? ならば我々は、月基地攻略ではなく、シャトルを追跡すべきか?)

 レーアの身柄確保は、帝国の幹部達には喉から手が出るほどほしい手柄だ。

(ザンバースの娘など、どうでもいい。俺はこの戦争で死ぬつもりも、出世するつもりもないからな)

 デーラは決断した。

「月基地に更に接近。制圧するぞ」

 彼は乗組員に宇宙服の着用を命じた。


 レーア達の乗るシャトルは月の周回軌道を離脱し、地球へ向けて進路を取っていた。

(アイシーおじ様、ナスカート、イスター、タイタス……)

 動きにくい宇宙服を着込んだレーアは狭いキャノピーから見える半月を見つめた。もしタイタスが、自分の事を最後にレーアが思い出したと知ったら、寝込んでしまうだろう。

「地球へは十時間ほどのフライトになります。仮眠をとってください、レーアさん」

 操縦をオートに切り替えたザラリンド・カメリスが言った。

「はい」

 レーアはステファミーとアーミーに目配せして、操縦室後方にある仮眠室に移動した。

「こちら、レーア・ダスガーバン搭乗のシャトルです。南アメリカ州基地、応答願います」

 カメリスはレーア達が仮眠室に入ったのを確認してから、通信機の暗号回線を使って呼びかけた。

「こちら、南アメリカ州基地。どうぞ」

 オペレーターが応じて来た。カメリスはホッとして、

「これより十時間後、そちらに着陸ランディングを試みます。許可願います」

「了解しました。地球軌道に入りましたら、もう一度連絡願います」

 オペレーターが言った。

「了解です」

 カメリスは微笑んで応じ、通信を終えると、レーア達とは違う仮眠室に向かった。


 南アメリカ州の基地司令室で、眠そうな顔をビシッと叩いて、メキガテル・ドラコンは通信士からの報告を受けた。

「そうか、レーア達が脱出したか」

 彼は司令官の席に座ると、

「忙しくなるぞ。レーア達の乗るシャトルを帝国軍に奪取されないようにしないとな。各基地の戦闘機を発進準備させろ。それから、対空砲、ミサイルランチャー、最終チェック急げ。何としてもレーア達のシャトルを無事ランディングさせるぞ」

とインカムを掴んで命じた。基地内部は一斉に慌ただしくなって行った。


 アラガスの部下達は、数時間の探索で、ようやく隠し通路を発見した。そしてそこから通じているエレベーターも。エスタン達のいる地下格納庫にあと一歩のところまで来てしまっていた。

「不用意にエレベーターを動かすなよ。連中に気取られる。俺が行くまで待て」

 アラガスはニヤリとして言い、司令室を数十名の部下達共に飛び出した。

(この俺をたばかった礼はたっぷりさせてもらうぞ、エスタン!)

 彼はエスタンをなぶり殺しにするつもりでいた。


 そのエスタン達も、医療棟確保のために武器の調達をしていた。

「あれから三時間ほど経ったけど、連中、降りて来ませんね。まだ全然気づかれていないんでしょうか?」

 銃の調整をしているイスターが言った。エスタンは武器庫の隅にある基地内の三次元展開図を見ながら、

「我々が全員脱出したと思ったのなら、シャトルに何かするはずなのだが、アラガスが動いた様子がない。まだ動けないでいるのならいいが、最悪の場合も想定しないとね」

と答えた。彼は、アラガスが何もしないで手をこまねいているとは思えなかったのだ。だがそれでも、すでに自分達が地下にいる事を知られているとは思っていなかった。

「格納庫のエレベーターは途中で降りられるところがある。そこから一旦別の棟に行き、そこから医療棟に戻って、棟全体を押さえ、アラガス達の侵入を阻止しよう」

 エスタンは展開図を調べた結果、作戦を決めた。イスターとタイタスは黙って頷く。

「さあ、急いで作業を終わらせようか」

 エスタンは笑顔で二人に言った。


 カラスムス・リリアスの搭乗しているシャトルは、デーラ達のシャトルが更に月基地に接近し始めたのを知り、速度を上げていた。

「あのヒゲ、約束を反故にするつもりか?」

 リリアスはムッとした顔でシートに座り、モニターに映るデーラのシャトルを見ていた。

「帝国のシャトルが威嚇以上の攻撃を仕掛けたら、こちらも連中を側面から攻撃するぞ。各員、戦闘配備だ」

 リリアスは宇宙服のヘルメットを着用しながら命じた。

(レーアさん、ご無事で)

 リリアスは、月基地を脱したレーア達がメキガテルのところに辿り着く事を祈った。


 地球帝国首府アイデアルにある大帝府。その大帝室で、ザンバースは地球軌道に打ち上げてあった情報部の監視衛星が捉えた映像を机の上の小型モニターで見ていた。

「月基地の地下にシャトルが隠されていたようです。恐らく、監禁されていたレーアお嬢様、アイシドス・エスタン他数名が搭乗しているものと思われます」

 机の向こうに立っている情報部長官のミッテルム・ラードが言った。さすがの彼も、エスタンとイスターとタイタスが月基地に残った事までは知らない。ナスカートの負傷の情報がないからだ。

「シャトルの向かう先は、南アメリカ州のメキガテル・ドラコンのところかと」

 ザンバースはモニターを切り、ミッテルムを見上げる。

「ならば、宇宙にシャトルを打ち上げている場合ではないな」

「は!」

 ミッテルムは敬礼して応じた。ザンバースはインターフォンのボタンを押し、

「私だ。帝国軍の回せる戦力全てを南アメリカに投入しろ。何としてもメキガテル・ドラコンを潰せ。奴とレーアを会わせるな」

と命じた。

「はい、大帝」

 補佐官兼帝国軍司令長官のタイト・ライカスの声が答えた。

「マリリアにドッテルの密偵が接触して来たようですが、如何いかが致しましょう?」

 ミッテルムがニヤリとして尋ねる。ザンバースはミッテルムを目を細めて見ると、

「任せる。必要とあれば、密偵も一緒に始末しろ」

「はい」

 ミッテルムはもう一度敬礼し、大帝室を出て行った。ザンバースはそれを確認してから、

「エッケリートにつなげ」

とインターフォンに言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ