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第五十二章 その一 月基地混乱

 アジバム・ドッテルに緊急連絡をしたエレイム・アラガスは、

「只今ドッテルは別の方と交信中です。しばらくお待ちいただくか、後ほどご連絡ください」

と秘書に言われてしまい、激怒した。

「ふざけるな! 緊急事態なのだ! すぐに取り次げ!」

 アラガスはモニターに映るおっとりとした風貌の秘書を怒鳴りつけた。しかし彼女は、

「それは致しかねます。ドッテルからそう申し付けられております。失礼致します」

と言うと、一方的に通信を遮断してしまった。

「くそ!」

 アラガスは受話器に毒づき、叩きつけるようにして切った。

(それにしても、俺との交信を拒否してまで話さなければならない相手とは、一体誰だ?)

 すぐに頭に浮かんだのは、ザンバースであったが、アラガスは、いくらドッテルでもザンバースと接近する事はあり得ないと思った。ドッテルの目的は「打倒ザンバース」なのだから。

「だとすると……」

 アラガスはギリッと歯軋りし、

「あと考えられるのは、南米のあの男か……」

 彼はメキガテル・ドラコンに思い当たった。そしてニヤリとし、

「奴がドッテルに接触して来たという事は、朗報かも知れんな」

と呟く。そして、

「基地にある全ての武器弾薬を使用可能な状態にしろ。ヤルタス・デーラのシャトルを叩き落とすぞ」

と命じた。


 メキガテルは、モニターの向こう映るドッテルを見ていた。

(以前ニュースで見た時より、目つきが鋭くなっているな。奥さんが亡くなり、義父のナハルが呆けて、ミケラコス財団の全権を掌握したからか?)

 すると、メキガテルの心を見透かしたかのように、ドッテルが口を開いた。

「初めまして、かな、メキガテル・ドラコンさん。私が、ミケラコス財団総帥代理の、アジバム・ドッテルだ」

 彼はあくまで外交的な笑顔で、メキガテルに挨拶した。しかし、メキガテルが見抜いたように、目だけは鋭いままだ。

「初めましてで正解ですよ、ドッテルさん。地球連邦復興協力隊のメキガテル・ドラコンです」

 お互い、自分の素性を半分明かしての会話である。

(狸め)

 それが二人の相手に対する第一印象であった。

「早速ですが、秘書から、『交信要請を受け入れないと、月基地が大変な事になる』と聞かされたのですが、どういう事ですかな?」

 ドッテルは単刀直入に尋ねた。まどろこしい駆け引きをするのを放棄したのだ。

(この男が、地球連邦派のトップの一人だという事はわかっている。これほどの男につまらぬ小手先の騙し合いは無意味だ)

 ドッテルは、メキガテルが本当の事を言うかどうかを見抜こうとジッと彼を見た。

「貴方の子飼いのエレイム・アラガスは、帝国内部に潜んでいる自分のかつての部下を動かして、組織を内部から切り崩すつもりだったようですが、それはザンバースの配下に全て潰された、という情報を入手しました」

 その情報は、ドッテルも把握していなかったので、驚きの色を隠し切れなかった。

(アラガスめ、ドジを踏みおって……)

 歯軋りしたいほどだったが、ドッテルはそれを堪え、

「なるほど。しかし、エレイム・アラガス、ですか? 誰ですか、それは?」

とぼけてみせた。メキガテルはフッと笑い、

「見え透いた嘘はなしにしましょうよ、ドッテルさん。エレイム・アラガス自身が、貴方の命令で動いている事を明かしているのですから」

 ドッテルはニヤリとした。

(まあ、こんなおとぼけが通用するはずがないのはわかっていた事だ)

 彼はわざとらしく肩を竦めてみせ、

「なるほど。アラガスは口が軽いようだ。次に会った時に、その点を指摘して改善するように言いましょう」

「それがいいでしょう」

 メキガテルもニヤリとした。


 ヤルタス・デーラは、月基地の兵器類全てが展開し始めたのを知り、ギョッとした。

(アラガスめ、自棄やけを起こしたのか?)

 カラスムス・リリアスのシャトルは月に接近して来ているが、デーラのシャトルとは進路を変えて来ている。リリアスが月基地接近を試みているのは把握しているが、彼らがアラガスとコンタクトを取ったのかはわからないままだ。

(識別信号で、リリアスのシャトルを月基地では把握していよう。どうする?)

 デーラは腕組みをした。

(月基地の全戦力を向けられては、着陸はおろか、ここに留まるのも難しくなる)

 彼はモニターに映る月を見た。

(月をこれほど遠いと感じた事はないな)


 その頃、レーア達は地下の隠し通路を走り、シャトルのある格納庫に到着していた。

「あの武器庫に銃やサブマシンガンなどの警察官が所持するための小火器があります」

 アイシドス・エスタンが言った。レーア達は格納庫の反対側にある武器庫を見た。

「制御室はどこですか? 連中を司令室に閉じ込めて、ナスカート君を救出したいのですが?」

 ザラリンド・カメリスが尋ねた。エスタンは彼を見て、

「制御室はシャトルの向こうにある。さあ」

と再び歩き出した。それにカメリスが続く。レーアはステファミー達と目配せし合い、カメリスについて行った。

「俺達は武器を調達しよう」

 イスターはタイタスを連れ、武器庫に歩き出す。


 ドッテルは、歯軋りしていた。メキガテルとの会談は完全に彼の負けだったのだ。

(レーアを祭り上げる事まで話しているとは、アラガスめ、喋り過ぎだ)

 結局、レーア達がピンチだという事をメキガテルに告げられ、ドッテルは協力態勢を取らざるを得なくなってしまったのだ。彼は苦々しそうにインターフォンを押し、

「ルグル・ガームに連絡をとれ」

と命じた。ルグル・ガームとは、軍需産業の大手バトルフィールドカンパニーの社長である。

(この借り、必ず返すぞ、メキガテル・ドラコンめ)

 ドッテルは復讐を誓った。


 エスタンはレーア達を伴い、シャトルの陰に隠れるようにあった制御室に着いていた。

「ここには、月支部の全ての制御が可能です。連中を隔離して、ナスカート君を救出するには、司令室の電源を落とし、隔壁を全て下ろし、連中の移動を阻止すればいい」

 エスタンは制御盤を見ながら説明した。

「わかりました。やってみます」

 カメリスは配線を確認しながら、制御盤を操作し始めた。レーア達は固唾を呑んでそれを見守った。


 アラガスは司令官の席に座り、嬉々としてスクリーンに映るデーラのシャトルを眺めていたが、

「隊長、シェルターの中に反応がありません」

と監視兵が告げたので、

「何!?」

と立ち上がった。

「どういう事だ?」

 アラガスが凄まじい形相で尋ねたので、監視兵は後退あとずさりしながら、

「中に誰もいないという事です」

「そんな事はわかっている! どこに消えたのだ!? 扉はロックして、監視していたのだろう?」

 アラガスはますますいきり立ち、怒鳴り散らす。

「扉は開かれておりません。何故中にいた者が一人もいなくなってしまったのか、わからないのです」

 監視兵は泣きそうな顔で答えた。アラガスはドスッと脚を踏みならし、

「すぐに付近を捜索しろ。今レーアとエスタンに逃げられるのはまずい」

「は!」

 司令室にいた兵が一斉に動き出す。ところが、その直後、明かりがいきなり消えてしまった。

「何だと!?」

 アラガスは訳がわからず、大声で叫んだ。


 カメリスが制御盤を操作し、司令室を孤立させるのに成功した。

「次はナスカートのところね」

 レーアが言った。カメリスは頷いて、

「格納庫の端にエレベーターがあります。それを使うと、医療室がある棟にすぐに上がれるようです。そこからナスカート君を救出しましょう」

「ええ」

 レーアはニコッとして頷き返した。

「これくらいあればいいかな?」

 イスターとタイタスが大きめのキャスター付きのワゴンに銃やサブマシンガンを山積みにして運んで来た。

「多過ぎなんじゃない?」

 レーアが呆れ気味に言うと、

「相手は大人数なんだ。これくらいあった方がいいって」

 タイタスは膨れっ面をして反論した。


 デーラ達も、また月基地が攻撃してこないので、不思議に思っていた。

「バカにしているのか、我々を」

 デーラはムッとしてシートにもたれかかる。

(それとも、先程のリリアスとの会話が効き始めたか?)

 デーラは思わずニヤリとした。

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