表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/240

第五十一章 その一 月面攻防戦開始

 地球帝国に反旗を翻し、連邦制の復権を目指しているパルチザン隊。その多くが、名目上は倒産したケスミー財団の見えざる援助によって成り立っている。財団のCEOであったミタルアム・ケスミー亡き後もいささかも揺るがないその組織は、地球帝国大帝であるザンバース・ダスガーバンにとって脅威であった。

「不用意にシャトルを打ち上げないように伝えろ。南米のメキガテル・ドラコンが大人し過ぎるのが気にかかる」

 ザンバースは補佐官兼帝国軍司令長官のタイト・ライカスを大帝室に呼びつけて言った。

「わかりました。警備を増強し、奇襲に備えさせます」

 ライカスは滴る汗をハンカチで拭いながら答えた。するとザンバースは、

「そうではない。連中は発射の時を狙って来るとは思えん。一番気が緩む発射直後を狙って来るはずだ。哨戒機で警戒させるのだ。大気圏を離脱するまで、シャトルは無防備だからな」

とライカスを睨みつけた。ライカスはギョッとしたが、

「は、そのように致します」

と敬礼し、大帝室を出て行こうとした。

「待て、ライカス」

 ザンバースが呼び止める。ライカスは血の気が引いて行くのを感じた。

「マリリアをお前の秘書に配置替えした事が気にならんのか?」

 振り返ると、ザンバースはニヤリとしてライカスを見上げている。

「そ、それは……」

 ライカスはいきなりそう言われて、気を失いそうになった。

「お互いに監視させようとしている。そう思ったか?」

 ザンバースは更にライカスの思っている事を指摘して来る。ライカスは生きた心地がしない。

「いえ、決してそのような事は……」

 白々しいとは思ったが、それしか言いようがない。ライカスは汗で湿った拳を握りしめた。

「マリリアはお前も承知している通り、マルサス・アドム等と共に帝国を潰そうと画策していた」

「は……」

 ライカスは言葉が出ない。頷くのがやっとだ。

「本当なら、サッサと始末すべきなのだろうが、黒幕を放置して、蜥蜴とかげの尻尾だけを切っても意味がない」

「黒幕? バトルフィールドカンパニーのルグル・ガームですか?」

 ライカスは渇き切った口を何とか動かして尋ねた。しかしザンバースは首を横に振り、

「いや。奴もまた、駒に過ぎない。所詮は武器屋だ。そこまでの知恵は回らぬ」

「では一体……?」

 ライカスはそう言いかけて、ハッとした。

「アジバム・ドッテル、ですか?」

 その言葉にザンバースは満足そうに頷いた。

「さすがだ、ライカス。ミッテルムの部下の調査で、バトルフィールドカンパニーの株式のほとんどを所有している人物は、実はドッテルの子飼いの投機家だとわかった」

 ライカスはドッテルの途方もない計画を知り、恐ろしくなった。

「但し、元を正せば、その男はナハル・ミケラコスの腹心だった。ナハルがほうけたので、ドッテルがその男を手中にした、というところだろう」

 ザンバースは愉快そうにライカスを見上げている。

「もし、ナハルがミケラコス財団の実権を握ったままであったら、ここまで面白い事にはならなかったろうな。あのジイさんは、ドッテルほど野心家ではないし、駆け引きもうまくない」

「……」

 ライカスは黙って頷く事しかできない。

「悪かったな、呼び止めてしまって。お前の事は信用しているよ、ライカス」

 ザンバースのその言葉にライカスは、

「ありがとうございます」

とうわずった声で礼を言い、大帝室を出た。


 マルサス・アドムは、マリリアが全く連絡をくれなくなり、彼からの電話に出てもくれないので、彼女を怪しみ始めていた。

(情報によると、ザンバースの秘書からライカスの秘書になったらしいが……。何か掴まれたのか?)

 マルサスは、マリリアがザンバースに屈服した事を知らない。そして、マリリアが、ミッテルムの部下が作成した偽の写真を見せられ、自分に騙されたと思っている事も勿論知らない。

(計画遂行は危険なのか?)

 マルサスはルグル・ガームに連絡する事にした。


 ザンバースは、ライカスが大帝室を出て行くと、テレビ電話で帝国情報部長官のミッテルム・ラードに連絡した。

「その後どうだ?」

 ザンバースは目を細めて尋ねる。ミッテルムはニヤリとし、

「各基地にいると思われるエレイム・アラガスの賛同者シンパはほとんど調べ上げ、駆逐しました。そして、奴に怪しまれないように私の部下が代わりに連絡をとっております」

「そうか。そのまま継続しろ。月を奪還するのは最重要課題だ」

 ザンバースが言うと、ミッテルムは真顔になり、

「はっ!」

と敬礼した。そして、

「それから、南米基地の通信を傍受している部下からの報告ですと、メキガテル・ドラコンはアジバム・ドッテルと連絡をとろうとしているようです」

 ザンバースはその情報に眉を吊り上げた。

「メキガテルが、か?」

「はい。しかし、ドッテルが応じず、まだ両者は直接話してはいないようです」

 ミッテルムもメキガテルの真意がわからない顔で付け足した。

「なるほどな。傍受を続けさせろ」

「はは」

 ザンバースは受話器を戻した。

(メキガテル・ドラコンめ。ドッテルと何を話すつもりか……)

 ザンバースにも、メキガテルの考えはわからなかった。


 レーア達がいる月基地は、迎撃準備に入っていた。

「皆さんは地下のシェルターに念のため避難をしてください」

 エレイム・アラガスが、司令室でレーア達に告げた。

「やばいんですか?」

 タイタスが尋ねる。アラガスは笑って、

「いえ、念のためです。我々には優秀な兵士がいます。ヤルタス・デーラのシャトル一機にやられはしませんよ」

 タイタスはイスターと顔を見合わせた。

「ナスカートは大丈夫なんですか?」

 レーアが口を挟んだ。アラガスはレーアを見て、

「ナスカートさんにはすでにシェルター内の集中治療室に移ってもらいました。大丈夫ですよ」

と微笑む。レーアはその笑みにゾッとしたが、

「そうですか。ありがとうございます」

とだけ返した。

「とにかく、避難してください。デーラ隊が自棄やけを起こしておかしな行動に出ないとも限りませんので」

 アラガスがそう言うと、レーア達はギョッとした。

「自棄を起こすって、どういう事だね?」

 アイシドス・エスタンが尋ねた。アラガスはエスタンを見て、

「デーラのシャトルは、惑星間航行用のエンジンが搭載されています。その燃料電池を使って自爆されると、この基地も無傷ではすまないからです」

「自爆……」

 エスタンは思わず生唾を呑み込んだ。

「そんな……」

 レーアは怯えるステファミーとアーミーをしっかりと抱きしめ、呟いた。


 ヤルタス・デーラの搭乗するシャトルは、月基地をその射程に捉えていた。

「この距離で攻撃しても、迎撃システムが全部防いでしまうな。どうしたものか」

 デーラは、アラガスの事をよく知っているので、不用意な接近は危険だと思っていた。

(考えみても始まらんか)

 デーラは苦笑いし、

「レーザー照射。敵の出方を見るぞ」

と命じた。


 レーア達が地下深くに設置されたシェルターに到着した頃、デーラのシャトルと月基地の攻防戦が始まった。シェルターまでは振動すら伝わらないが、レーアは戦いが始まったのを感じていた。

(どうなってしまうのかしら?)

 彼女は、ステファミーやアーミーと手を握り合って、行く末を案じた。


「デーラめ、俺が余程怖いらしいな」

 司令室の司令官の席に座ったアラガスは、一向に近づいて来ないデーラのシャトルを見て呟いた。

「そんな遠方からのレーザーなど、当たりはしないぞ」

 月基地の防御システムは、「赤い邪鬼」が月支部を制圧した当時、全面的に改造され、シャトル一機程度の戦力では返り討ちに遭うくらいの頑強なものである。デーラが近づかないのも仕方がない。長距離のレーザーは磁力線の壁が弾いてしまうのだ。


「始まったか」

 ミケラコス財団ビルの総帥室のプライベートルームのベッドの上で、事を終えたばかりのドッテルが言った。

「何?」

 シャワーを浴びて来たバスローブ姿のカレンが訊く。ドッテルはニヤリとして、

「月で戦闘が始まった。まあ、結果はわかっているがね」

「そう? 大丈夫なの?」

 カレンはドッテルの隣に腰を下ろした。ドッテルはカレンを抱き寄せて、

「アラガスは信用する事はできんが、戦闘のプロだ。心配要らないさ」

とカレンをベッドに押し倒す。

「ちょっと、まだ日も高いのにまた……」

 恥ずかしがるカレンの口を貪りながら、

「かまわんさ」

とドッテルは言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ