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第四十九章 その三 アイシドス・エスタンの思い

 レーア達の乗るシャトルにエレイム・アラガス達のシャトルが接近していた。

「本当に信用していいのかしら?」

 ステファミー・ラードキンスが疑問を投げかけた。

「確かに。連中はまだ味方だと決まった訳じゃない」

 イスター・レンドが同意する。

「しかし、今アラガスと事を構えると、月にいるエスタンさん達も危なくなります」

 ザラリンド・カメリスはレーアを説得するように見る。レーアは考え込んでいたが、

「どちらにしても、彼らと戦う事はできない。今は手を差し伸べてくれているのだから、信じるしかないわ」

 ステファミーはアーミーと顔を見合わせる。

「そうね。疑ったらキリがないから、今はそうするしかないわね」

 アーミーは呑気そうな口調でレーアに同意した。

「それに、ナスカートの事もあるから」

 レーアは医療室の方をチラッと見て言う。その言葉にずっと何も言わずにいたタイタス・ガットがピクンとした。


 やがて、二機のシャトルはドッキングし、レーア達のシャトルにアラガスと部下一人が乗り移って来た。

「お会いできて光栄です、お嬢様」

 アラガスは出迎えたレーアに跪き、頭を下げる。レーアはその動作に面食らってしまった。

「あ、それはどうも。私達こそ、助けていただいて、ありがとうございました」

「身に余るお言葉です」

 アラガスは顔を上げてレーアを見た。その目は、何を考えているのかわからない目だ。

(本当にそう思って言っているのかしら?)

 レーアはアラガスの真意が読めず、怖くなっていた。

 アラガスはカメリスからナスカートの事を聞くと医療室に行き、ナスカートのカルテを確認した。

「危険な状態だが、おそらく月基地にある医療機器で助けられるはずです。すぐに準備させますよ」

「助かります」

 そう言いながらも、カメリス自身はどこまでアラガスを信じていいのか考えあぐねている。

「貴方は確か、ケスミー財団の方でしたね?」

 操縦室に戻りながら、アラガスが尋ねて来た。カメリスはギクッとしたが、

「はい。それが何か?」

「私はアジバム・ドッテル氏の依頼で活動しています。しかし、政治的信条は違います」

 アラガスはカメリスを真っすぐに見たままで言った。

(どういう事だ?)

 カメリスが応答に窮していると、

「要するに、私はレーアお嬢様の味方だという事ですよ」

 アラガスはフッと笑って言う。カメリスは苦笑いし、

「そう、ですか」

とだけ言った。アラガスはそれからまもなくして、自分のシャトルに戻った。


 レーア達のシャトルとアラガスのシャトルは、月の周回軌道に入り、着陸準備を開始した。

「月には大気がないから、地球への着陸より簡単です。オートパイロットで十分ですから」

 操縦桿を握って緊張するレーアを隣の席でカメリスが落ち着かせる。

「はい」

 レーアは、着陸に失敗するとは思っていない。しかし、着陸の仕方が悪くて、ナスカートに負担をかけたり、状態を悪くしたりするのではないかと気にしているのだ。

「力を抜いて、レーアさん」

 カメリスが微笑んでレーアの肩に手を置いた。

「はい、カメリスさん」

 レーアは引きつり気味の顔をカメリスに向けた。


 アイシドス・エスタンは久しぶりに風呂に入り、公邸に戻って、式典用のタキシードに着替えた。

(連中は、レーアさんを利用して、実質的な地球支配を企んでいる。どうすればいいのだ?)

 エスタンはそこまでわかっていながらも、現状ではどうする事もできないもどかしさを感じている。

(レーアさんを政争の具にするのは忍びない。エスタルトさんに顔向けできなくなる)

 このまま命を落としたとしても、エスタンは亡きエスタルト・ダスガーバンに合わせる顔がないと思っている。

(何とか、機会を伺うしかあるまい)

 エスタンはネクタイを整え、廊下を進んだ。


 ザンバースは白々と夜が明け始めた帝都アイデアルの大帝府の大帝室で、補佐官のタイト・ライカスから報告を受けていた。

「アルナグ・メイアが戦死、か」

 ザンバースは報告書を机の上に投げ出した。

如何いかが致しましょう?」

 ライカスは緊張の面持ちで慎重に言葉を発した。

「月基地も占拠された。宇宙では、我が帝国は圧倒的に不利な状況だ。この危機をどう乗り切る、ライカス?」

 ザンバースはフッと笑って補佐官を見上げる。ライカスはピクンと身を強張こわばらせた。

「火星基地建設は一時中断し、デーラ隊に月基地奪還を命ずる。それで如何でしょうか?」

 ライカスは全身から汗を噴き出させながら、進言した。

「そうだな。今はそれが考えられ得る最上の策だろう。すぐにデーラを呼び戻し、月基地奪還を決行させろ。それから、各基地から増援部隊の派遣もさせろ。月を抑えられたままでは、この戦いは勝てぬ」

 ザンバースは立ち上がって言った。ライカスは思わず後退あとずさってしまう。

「月基地には、レーアお嬢様がいらっしゃるようですが?」

 恐る恐る「お伺い」を立ててみる。するとザンバースは椅子に沈み込み、

「任せる。結果がどう出ようと、基地を奪還できればそれでいい」

「は!」

 ライカスは敬礼して、部屋を出て行った。ザンバースは明るくなり始めた窓の外を見た。

(エレイム・アラガスめ。エスタンをレーアの後ろ盾にして戦うつもりか。考えたな)

 ザンバースはニヤリとした。


 同じく、夜が明け始めた南米のパルチザン基地。

「エレイム・アラガス。侮れないな」

 あまり寝た訳ではないが、目覚めのコーヒーをカップで飲むメキガテル・ドラコン。彼はアラガスの動きが気になっていた。

(奴は、ドッテルとつながっている事を隠そうともしなかった。奴の言う通り、ドッテルとは政治的信条が違うのか? それとも、俺達を惑わせるつもりなのか?)

 メキガテルはコーヒーを飲み干すと、机の上にカップを置いた。

(どちらにしても、今は化かし合いの時って事だな)

 彼はニヤリとし、立ち上がった。


 レーアの操縦するシャトルは、アラガス達のシャトルに続いて、無事月基地の滑走路に着陸した。シャトルはそのまま地下にあるドックまで巨大なエレベーターで降り、空気のある階に着く。レーア達はナスカートの乗せられた担架と共にシャトルから降りた。

「レーアさん」

 レーア達をエスタンと月基地を占拠したアラガスの部下達が出迎えた。

「アイシーおじ様」

 レーアは久しぶりに会ったエスタンを、昔からの呼び方で呼んだ。彼女は駆け出し、エスタンに抱きついた。

「レーアさん、お元気そうで良かった」

「おじ様こそ。でも、少しやつれたのではないですか?」

 レーアは涙ぐんだ瞳でエスタンを見つめる。エスタンは苦笑いして、

「少し太り気味だったから、ちょうどいいくらいですよ」

と応じた。

 レーア達はそのまま月基地の司令室に通された。もちろん、殺害されたアール・デボイ以下帝国の兵士達の遺体は片づけられている。

「こちらでお休み下さい」

 後から現れたアラガスが、レーア達を司令室の隣にある休憩室に案内してくれた。レーアはエスタンにいろいろ尋ねたい事があったのだが、アラガスがエスタンを連れ出してしまった。

「こちらにいて下さい」

 兵士がドアのところに立つ。

「何だよ、監禁か?」

 イスターが呟くと、兵士の一人がキッと彼を睨みつけた。レーア達に緊張が走ったが、兵士は何もしなかった。

(おじ様はどうしたのかしら?)

 レーアは、ナスカートの事と合わせて、アラガスに連れて行かれたエスタンの身を案じた。


 その頃、月に向かっていたカラスムス・リリアスのシャトルは、火星に向かったはずのヤルタス・デーラ隊のシャトルが戻って来ているのを知った。

「どういう事だ?」

 リリアスは通信士に尋ねた。

「わかりません。地球の帝国本部となにがしかのやり取りはあったようですが、傍受できませんでした」

 通信士は鬼の形相のリリアスに萎縮しながら答えた。リリアスは腕組みをして、

「月基地が陥落したのが原因か?」

と呟いた。

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