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第四十八章 その五 ナスカートの消息

 操縦室と後部エリアを隔てるドアを開き、レーアはハッチから飛び出さんばかりに身を乗り出しているタイタスに気づいた。

「タイタス!」

 レーアの呼びかけにも、タイタスは反応せず、外を見ている。

「タイタス!」

 痺れを切らせたレーアは、彼の右肩をグイと掴んだ。

「レーア……」

 タイタスは呆然とした顔でレーアを見た。

「ナスカートは?」

 レーアの問いかけにも、タイタスは反応が鈍い。

「タイタス、しっかりして! ナスカートはどうしたの!?」

 レーアはタイタスの両肩を掴んで彼の身体を揺すった。

「お、俺は、見ていないんだ。自分が中に戻るので精一杯で……。何も見ていないんだ」

 タイタスはレーアの目を避けるように顔を俯かせ、そう言った。

「カメリスさん」

 レーアはヘルメット内蔵の通信機で操縦席のザラリンド・カメリスを呼んだ。

「はい」

 カメリスの声が応じる。

「このシャトルで、ナスカートを探せますか?」

「対人レーダーは搭載していませんが、熱感知システムはありますから、何とかなるかも知れません」

 カメリスの答えにレーアはホッとした。そしてもう一度タイタスを見る。

「しっかりしなさいよ、タイタス! さあ!」

 レーアはタイタスを引き摺るようにしてハッチを離れる。

「俺はここにいるよ」

 タイタスがもがくが、

「ここにいても何も役に立たないわ。操縦室に戻って、カメリスさんの指示に従って」

 レーアは聞く耳持たず、タイタスをそのまま引き摺って行く。

「わ、わかった……」

 タイタスは力なく頷いた。その間も、帝国軍の威嚇射撃は続いている。

「しつこいわね!」

 レーアはシャトルを掠めるように通過するレーザーに苛立っていた。


 帝国軍のシャトルは、少しずつレーア達のシャトルとの距離を詰めていた。

「効果があったようだな」

 増援部隊のリーダーであるアルナグ・メイアはそう呟いた。本当は効果があったのではなく、ナスカートが船外に出てしまっための速度低下なのを彼は知らない。

「このまま反乱軍のシャトルに接舷し、レーア様を救出するぞ」

 アルナグの言葉に部下達は、

「は!」

と敬礼して応じた。彼らは、レーアが反乱軍に騙されて行動を共にしていると教えられており、それを固く信じている。いつの世も、前線で戦うのは真実を知らない兵士達である。


 エレイム・アラガス達の乗り込んでいるミケラコス財団系統のシャトルは、レーア達のシャトルの動きは捕捉していた。

「帝国のシャトルがレーア達のシャトルを拿捕してしまうとまずい。急げ」

 アラガスはパイロットに命じ、キャノピーの外を睨む。

(まだ早い。まだ、レーアは利用価値がある。そして、アジバム・ドッテルもな)

 アラガスはニヤリとした。


 アジバム・ドッテルはカレン・ミストランと共にホテルの一室に来ていた。

「どうした?」

 部屋に入るなり、カレンはドッテルの腕を振り解き、窓の近くへと走り、ドッテルを睨んだ。ドッテルはそのカレンの行動が理解できず、そう尋ねたのだ。カレンはキッとして、

「どういうつもり? 一度は私の命を狙わせたくせに」

 カレンの問い返しにドッテルは苦笑いした。

「確かにな。あの時は、自分の保身しか考えていなかった。私はもっと大局的なものの見方をするべきだったのだ」

「え?」

 カレンはドッテルが妙な事を言い出したので、キョトンとしてしまった。やはり身体目的だと思ったからだ。

「君の子供には本当にすまない事をした」

 ドッテルはカレンをまっすぐに見たままで詫びた。カレンはそれでもまだわだかまりが解けない。

「私の子供じゃないわ。貴方と私の子供よ」

「……」

 ドッテルはその言葉にギクッとする。

(本当に妊娠していたのか? 本当に私の子供なのか?)

 カレンはニヤリとして、

「もう一度訊くわね。どういうつもりなの?」

 ドッテルは部屋の端にあるソファに腰を下ろすと、

「レストランには、帝国の人間がたくさんいた。この部屋は盗聴の心配がない部屋だ。だからここに来た」

 カレンはベッドの端に座った。そしてドッテルを見て、

「なるほどね。ライカス補佐官は私も信用していないって訳ね」

と肩を竦める。ドッテルはニヤリとして、

「タイト・ライカスに命じられて私に連絡して来たのか?」

「ええ。ライカス補佐官は、以前から私と貴方のつながりを疑っていたわ。何も訊かれた事はなかったけど、はっきりわかった」

 カレンは脚を組み替えて言った。ドッテルはその言葉にフッと笑い、

「ライカスらしいやり口だ。それで、奴は君に私から何を聞き出せと言ったのだ?」

 カレンはドッテルを流し目で見ながら、

「レストランでも言った通り、貴方がこれから何をするつもりなのか知りたいらしいわ」

「私を警戒しているのか?」

 ドッテルはソファから立ち上がり、カレンの隣に座った。カレンは一瞬押し倒されると思ったが、ドッテルは何もして来ない。

「それはそうでしょう? 貴方は帝国に匹敵する資産を持つ人物よ」

 カレンは上目遣いにドッテルを見る。ドッテルはカレンから目を背け、

「ケスミー財団は我が財団より遥かに多くの資産を有していた。しかし、ザンバース・ダスガーバンと対立する立場を取ったため、悲惨な末路を辿った」

 カレンは、ケスミー財団のミタルアム・ケスミーが爆死した事は知らないが、最後は無残だったとは伝え聞いている。ドッテルは様々な伝手つてから真相を知っているだけに、これからの行動に慎重にならなければ、と思っていた。

「私は、ザンバースに取って代わりたいと思っている。但し、そんな事を知られたら、多分消されるだろうがね」

 カレンはハッとした。

(アジバムは、私を試している? この話をライカスに伝えれば、間違いなく……)

 ドッテルは消される。そして、自分も……。カレンはそこまでで考えるのをやめた。

「話さないわ、そんな事」

 カレンは立ち上がって言う。ドッテルはカレンを見上げた。

「私は、貴方が勝者になるのを見たい」

 カレンは微笑んでいた。しかし、その笑みは、ゾッとするものだった。

「力を貸してくれ、カレン。私にはもう君しか頼れる人がいない」

 ドッテルも立ち上がった。カレンはドッテルを見上げ、

「ええ」

 二人はどちらともなく唇を貪り合い始めた。


 カメリスはシャトルの熱感知システムを使って、シャトルの周辺を探っていた。レーアがその隣で心配そうに見守っている。イスターとステファミーはタイタスを慰めている。アーミーはタイタスのために飲み物を持って来ていた。

「どう、カメリスさん?」

 システムの操作に集中するため、カメリスは操縦をレーアに代わってもらっている。レーアはまだ続いているレーザーをかわしながらカメリスの作業を見ている。

(ナスカート……)

 レーアは未だ見つからぬナスカート・ラシッドの無事を祈った。

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