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第四十八章 その四 レーア、叫ぶ

四十八章が終わりません。あと二回程続くと思われます。


申し訳ないです。

 ドッテルはカレンと食事をしている間、何も話さなかった。いや、正確に言うと、カレンが聞きたい事を何も話さなかったのだ。

「君には本当にすまない事をしたと思っている。許してくれとは言わないが」

 ドッテルは詫びた。カレンはドッテルの真意を測りかね、尚の事警戒した。

(何なの? こいつ、奥さんが死んで、おかしくなっているの?)

 ドッテルの気持ちはカレンに伝わっていない。

「部屋で話そうか。ここは何かと物騒だ」

 ドッテルは席を立ち、カレンをエスコートする。

(出会った頃の彼のよう……)

 カレンは警戒心はそのままだったが、ドッテルが何か企んでいるのではないかという邪推をするのを止めた。

(本当に私に会いたかっただけなの、アジバム?)

 カレンは混乱していた。スッと肩に回されたドッテルの手は、以前そうされた時より、心なしか小さい気がする。

「アジバム……?」

 不思議に思ったカレンがドッテルを見上げると、

「さあ」

 ドッテルはフッと笑い、彼女を伴ってレストランを出た。


 帝国軍の増援シャトルはレーア達のシャトルに更に接近していた。レーア達のシャトルが外壁の修理のため、速度を落としたからだ。

「シャトルにはレーアお嬢様がご搭乗なさっている。足止め程度に狙撃し、動きを封じた上で、接舷して制圧し、お嬢様を救出する」

 増援のシャトルに乗り組んでいるのは、火星基地建設の資材補給と、レーア達のシャトルを拿捕する指令を受けた帝国軍の精鋭達だ。彼等のリーダーであるアルナグ・メイアは、帝国大帝補佐官のタイト・ライカスが連邦時代から目をかけている男である。肉体派ではないが、戦略家で、帝国軍の元司令長官であったリタルエス・ダットスを毛嫌いしていた。だから、ライカスが長官代理を拝命された時は、密かに喜んでいたのだ。

(ダットスのジジイは、レーア様を利用しようとしていたが、ライカス補佐官は違う。レーア様を反乱軍の拠り所にしたくないだけだ。レーア様が反乱軍にいる限り、この戦争は終結しない)

 アルナグは、そう固く信じている。そして、そんなアルナグに付き従っている五人の部下もまた、レーア救出が戦争を終結させる近道であると信じていた。


 レーア達の乗るシャトルの外では、ナスカートとタイタスが揉めながらも外壁の修理を進めていた。

「お前、どうしてそんなに俺に突っかかって来るんだよ?」

 ナスカートはレーア達に聞かれないようにするため、通信機を切り、ヘルメットを接触させてタイタスに尋ねる。タイタスはナスカートを睨みつけて、

「あんたが嫌いだからだよ」

「理由になってねえだろ!」

 ナスカートはタイタスのヘルメットを軽く小突き、

「わかってるんだぜ、本当の理由は」

「な、何だよ?」

 ニヤリとしたナスカートにタイタスはギクリとする。

「お前、レーアが好きなんだろ? 丸わかりだぞ」

「な!」

 図星をいきなり突かれたタイタスは、一瞬思考が停止した。

「だけど、こればかりは譲れないぜ。ディバートが生きていた時は、あいつが本気でレーアを好きだったんで、俺は身を退こうと思ってた」

 ナスカートは続けた。するとタイタスが、

「酷い人だな、あんたは。ディバートが死んだから、早速前言撤回なのかよ」

「違うよ。お前みたいな、中途半端な男が、レーアのナイトを気取って名乗りを上げるのが嫌なんだよ」

 ナスカートはゴツンとヘルメットを当てて言い返す。

「何だと!? 中途半端って何だよ!?」

 タイタスはムッとして言った。少なくとも、レーアを好きになった時期なら、ナスカート如きに負けないくらい早いからだ。

「お前は、本当に命懸けでレーアを守る決意があるのか? 自分の命を投げ出してでも、彼女を助ける覚悟があるのかよ?」

「……」

 タイタスはグッと詰まった。

(俺は、そこまで考えているのか?)

 自問してしまう。

「ほーら、見ろ。お前にはそんな覚悟はないんだよ。所詮、お前はレーアが可愛いから好きなだけだ。そんな半端な気持ちのお前に、レーアを譲る気なんてないぜ」

 ナスカートのその言葉に、タイタスは、

「俺は、あんたなんかよりずっと前からレーアを見て来たんだ。あいつの事は、そんないい加減な気持ちで好きなんじゃない!」

「そうかい。わかったよ。なら、これからはお前をライバルとして見る事にするよ」

 ナスカートは肩を竦めて言った。タイタスは拍子抜したように彼を見て、

「そ、そうか」

とだけ応じた。その時だった。

「うわ!」

 シャトルを掠めるように光束がよぎった。

「何だ?」

 ナスカートとタイタスは慌てて通信機のスイッチを入れた。

「どうして通信切ってたのよ!? 敵が接近してるわ。修理は中断して!」

 レーアの怒鳴り声が耳に響く。ナスカートとタイタスは苦笑いして顔を見合わせ、ハッチへと移動した。

「速度を上げるわ」

 レーアが操縦桿を握って言う。ステファミーとアーミーが頷く。仮眠室から、ザラリンド・カメリスが出て来た。

「レーアさん、代わりましょう」

「カメリスさんはまだ休んでいて下さい。月に着陸する時、交代してもらいますから」

 レーアは操縦桿を操作しながら言った。

「了解です」

 カメリスは微笑んで応じ、仮眠室に戻る。

「おおっと!」

 またシャトルを光束が掠める。

(当てるつもりがないの?)

 レーアは、その軌道が大きく反れているので、そう思った。

(私がいるから? 私を捕まえる気?)

 それがもどかしいレーアである。


 アルナグは、レーア達のシャトルが速度を上げた事を知り、狙撃の間隔を狭める事にした。

「三秒毎を二秒毎にしろ。動きを封じるんだ」

 まさか、レーア自身が操縦しているとは思わないアルナグは、パイロットを萎縮させれば、速度が落ちると考えていた。


 しかし、レーアはそんな性格ではない。威嚇射撃だとわかると、速度をドンドン上げて行く。

「おいおい、ちょっと待てよ!」

 ハッチに辿り着き、中に入ろうとしていたナスカートとタイタスは、危うく外に放り出されそうになった。

「ひ!」

 狙撃のタイミングが早くなったので、タイタスは慌てて手を動かした。そのせいで、彼はハッチの外に手を出してしまい、そのまま飛び出してしまった。

「わわ!」

 ナスカートが驚き、タイタスを追いかける。

「レーア、タイタスが放り出された。速度を落として、まっすぐ進んでくれ」

 ナスカートは船外を浮遊してもがいているタイタスを追いかけながら通信機に言った。

「ええ?」

 レーアは、タイタスが放り出されたと聞き、仰天した。

「何してるのよ!」

 彼女はシャトルの速度を落とし、敵の動きを探るためにレーダーを見た。

「まだ追いつかれはしないだろうけど」

 彼女はタイタスの無事を祈った。

「ほら、手を伸ばせ!」

 ナスカートは、流されないように命綱を張り、シャトルにへばりついているタイタスに近づいた。

「うお、わわ!」

 しかし、光束が次々に通過するので、完全にパニックになっているタイタスには、冷静な判断ができない上、方向感覚が失われているため、ナスカートの位置がわからない。

「こっちだ、タイタス!」

 ナスカートが大きく飛び出した時だった。

「うわ!」

 光束がまたシャトルを掠めた。そのせいでナスカートの命綱が千切れた。

「くう!」

 ナスカートはバランスを失い、シャトルから離れてしまった。

「わああ!」

 彼の姿は、宇宙の闇の中に呑み込まれてしまった。

「うわああ!」

 タイタスはその直後、ようやくハッチの入口に辿り着いた。

「助かった……」

 そして、少しずつ周囲の状況を把握して行く。

「え?」

 もう一人いたはずの人物の姿が見えないのに思い当たる。

「わああ!」

 タイタスは絶叫し、ハッチの外を見た。

「ひ!」

 また光束がシャトルを掠める。

「ナスカート!」

 タイタスはまたパニックになりそうなのを押さえ、通信機に叫ぶ。

「どうしたの、タイタス?」

 タイタスの異変に気づいたレーアが尋ねた。

「ナスカートが、いないんだ」

 消え入りそうなタイタスの声にレーアは驚愕した。

「どういう事よ、タイタス!?」

 その間にも、帝国軍のシャトルの狙撃は続く。

「く!」

 レーアは速度を更に落とし、

「タイタス、答えて!」

 タイタスは震え出していた。

(俺の、俺のせいだ……)

「タイタス!」

 レーアはもう一度叫んだ。タイタスは、

「ナスカートが外に放り出された……。どこにも見当たらない……」

とやっと口にした。

「何ですって!?」

 レーアはザラリンドを呼び、操縦を代わってもらうと、ハッチへと向かった。

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