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第四十七章 その二 交錯する思惑

 大気圏を離脱し、衛星軌道に乗ったレーア達が搭乗するシャトルは、帝国軍が打ち上げたシャトルの攻撃を受けていた。

「直撃させるなよ。大帝の令嬢が乗っているんだ。掠めさせるだけでいい」

 帝国軍のシャトルの操縦席で、破壊工作部隊司令のヤルタス・デーラは言った。

「いくら大帝が、『気にする必要はない』と仰ったとしても、実際に令嬢を殺したとなったら、どうなるかわからないんだ。そこのところをよく考えて狙えよ」

 デーラはそのハリネズミのような髪型をヘルメットでスッポリ覆い、遥か前方に見えるレーア達のシャトルの光に目を凝らした。デーラの言葉に射撃手は緊張している。

「必ず当てろ」

という命令は何度も言われたが、

「絶対に当てるな」

と言われた事など一度もないのだ。だから余計緊張していた。


 ザラリンド・カメリスは、レーザーの軌道をコンピュータで計算し、

「当てるつもりはないようですね。威嚇しているだけのようです」

「どうしてですか?」 

 アーミー・キャロルドが無用な質問をし、自分であっと気づく。

「私が乗ってるからよ」

 レーアはアーミー達を見て、ニコッとした。

「レーア、ごめん……」

 アーミーが決まりが悪そうに言う。

「何で謝るのよ。別に謝る必要なんかないわ」

 レーアは涙ぐむアーミーを慰めた。

「取り敢えず、人数分は宇宙服があるはずですから、着て下さい。敵の考えが完全にわかった訳じゃないですから」

 カメリスがスイッチを操作し、壁を開いて宇宙服が固定されているクローゼットを出した。

「よし、俺とイスターで手渡しするから、回してくれ」

 タイタスが立ち上がり、クローゼットに近づこうとしたが、天井にぶつかってしまった。

「いて!」

 イスターがバランスを崩したタイタスに手を貸す。

「無重力だという事を忘れるな」

 ナスカートが前を向いたままで言った。タイタスはムッとしたが、自分の失敗なのは事実なので何も言い返さなかった。

「当てるつもりがないとしても、このままじゃ埒が明きませんね」

 ナスカートがカメリスに言う。カメリスは頷き、

「ええ。動きが取れませんからね」

 ナスカートは腕組みをして考え込んでいたが、

「よし、メックに救援を求めよう。奴なら何とかしてくれる」

 レーアはナスカートに宇宙服を手渡しながら、

「メックって、パルチザン隊の総隊長の事?」

「ああ。メキガテル・ドラコン。あいつなら、力になってくれるはずだ」

 ナスカートは宇宙服を着込みながら答えた。

「でも、地球は地球で大変でしょ? いいの、そんな事お願いして?」

 レーアも宇宙服を着込みながら尋ねる。

「だからこそだよ。他の誰もそんな余裕がないとしても、あいつは何とかしてくれる。そういう奴だ。しかも、男前だしな」

 ナスカートはレーアを見てニッとした。

「男前は関係ないでしょ! それに何で私を見て笑うのよ! 気分悪いな」

 レーアは袖を通し終えた右手でナスカートをパシンと叩く。

「いてえな!」

 ナスカートは嬉しそうに応じた。それを見たタイタスはムッとしている。


 その噂の主であるメキガテル・ドラコンは、ナスカートが要請をするまでもなく、動いていた。

「レーアは確かにザンバースの娘だが、俺達の希望の星でもある。彼女にもしもの事があれば、俺達の戦いは終わりだ。ケラル・ドックストン氏の遺志を継ぐ者として、レーアだけは守るぞ」

 メキガテルは急遽シャトルを調達し、南米唯一の発射台がある町に連絡を取った。そこには、メキガテルの旧友であるカラスムス・リリアス率いるパルチザン隊が駐留している。彼等は、南米にいた帝国軍を海の向こうに追いやった猛者達なのだ。

「カラス、急で悪いが、宇宙に行ってくれ」

 メキガテルは、テレビ電話のモニタに映るリリアスに言った。リリアスは肩を竦めて、

「お前の頼みはいつも急だから、もう慣れっこさ。レーアの件だな?」

「ああ。彼女達のシャトルが帝国軍のシャトルに追撃されている」

 メキガテルは深刻な表情だ。リリアスも真顔になり、

「今から向かって間に合うとは思えないが、何か考えがあるのか?」

「お前達のシャトルが上がるだけで、連中はレーア達のシャトルに集中できなくなる」

 リリアスはフッと笑い、

「なるほどな。了解した。すぐに上がるよ」

「頼んだぞ」

 リリアスはテレビ電話を切り、後ろに立っているパルチザン隊を見た。

「今までとは違うぞ。気合い入れて行けよ」

「おう!」

 巨体揃いのメンバーの中で、リリアスは小柄に見えるが、人並み以上の体格である。


 帝国大帝補佐官のタイト・ライカスは、ヤルタス・デーラのシャトルがレーア達の乗るシャトルに攻撃を開始した事を知った。

(デーラめ、やり過ぎるなよ)

 ライカスは、ザンバースの考えが読めずに混乱していた。

(大帝は何をお考えなのだ? 火星基地建設が本気とも思えない。反乱軍をどうしようとしているのだ?)

「如何なさいましたか、補佐官?」

 考え込んだまま一時間以上も口を利かないライカスを見て、秘書のカレン・ミストランが声をかけた。

「あ、いや、何でもない。最近、疲れが抜けなくてね」

「そうですか。どうぞ」

 カレンはライカスに紅茶を出した。

「ありがとう」

 いい香りが鼻を突き、ライカスはほんの一瞬だけ心が和んだ。

(この女、動きを見せんが、もうドッテルとは切れてしまったのか?)

 ライカスはカレンの後ろ姿を見て思った。

(補佐官では、何の情報も入らないわね)

 カレンはカレンで、ライカスが蚊帳の外に置かれているのではないかと怪しんでいた。


 そして、ドッテルに協力体制を取っているように見せかけているエレイム・アラガスもまた、宇宙へ出ようとしていた。ドッテルから連絡があったのだ。

「ザンバースを追い込むために月に行ってくれ。アイシドス・エスタンを解放して欲しいのだ」

 ドッテルの依頼はアラガスにとって意外なものだった。月支部の元知事であるアイシドス・エスタンを救出したところで、大した力にはならない、とアラガスは考えたからだ。

「ザンバースが火星に基地を建設するつもりだというのが本当だろうと嘘だろうと、月を押さえずに成し遂げられる事ではない。だからだ」

 ドッテルは、エスタン救出の理由をそう説明した。

「まあ、何でもいいさ。俺達はザンバースを倒したいだけだからな」

 アラガスは言った。


 アイデアル帝国大帝府。

 その大帝室で、ザンバースは椅子に座り、考え事をしていた。

「失礼します」

 控え室からマリリアが入って来た。

「お呼びでしょうか?」

 彼女は少しだけ怯えている。恋人のマルサス・アドムから、「尾行された」と聞いたからだ。

「かけろ、マリリア」

 ザンバースは無表情で言った。マリリアは震え出しそうなのを何とか堪え、ソファに腰を下ろした。

「幹部の中に裏切り者がいるらしい」

 ザンバースはスッと立ち上がり、マリリアの前に座る。マリリアはギクッとした。

「その裏切り者は、君に近づこうとしているらしい」

「……」

 マリリアは叫びそうになった。ザンバースは心なしか、ニヤリとしたように思えた。

「気をつけてくれ。君には裏切られたくないのでな」

「私は大帝を裏切ったりしません」

 マリリアは自分からザンバースに近づき、その唇を貪る。ザンバースもそれに応じた。二人はソファに倒れ込み、互いの唇を吸い合った。 

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