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第四十七章 その一 メキガテル・ドラコン

 レーア達の乗るシャトルは、地表に出ると爆音を響かせて一気に加速した。たくさんの水蒸気を巻き起こし、シャトルは上昇する。

「む?」

 カメリスは、危険を知らせるアラームを聞き、あちこちのレバーやスイッチを操作する。

「どうしたんですか、カメリスさん?」

 強いGを感じながらも、ナスカートが尋ねた。

「帝国軍が戦闘機を発進させて来たようです」

「戦闘機?」

 ナスカートばかりでなく、レーア達もビクッとして一斉にカメリスを見た。

「追いつかれる事はありませんが、気づかれてしまったのは確かですね」

「妨害電波は効かなかったんですか?」

 タイタスが言う。カメリスは苦笑いして、

「発進そのものは探知されていないでしょうが、グランドキャニオン基地攻撃が陽動だと悟られたのでしょう」

「大丈夫なんですか?」

 レーアが不安そうに訊く。カメリスは操縦桿を握りしめて、

「大丈夫です。連邦随一のケスミー財団の技術力を信じて下さい」

「あ、はい」

 そう言われてしまうと、レーアは信じるしかない。今まで数々の支援をして来てくれたケスミー財団の力は、彼女もよくわかっている。

「成層圏まで出てしまえば、あのタイプの戦闘機では追って来られません。もう少しです」

 カメリスは前を見据えて言った。レーア達は頷いて応じた。


 グランドキャニオン基地を攻撃していたリスボー・ケンメル達は、戦闘機が五機発進したのを見て仰天したが、戦闘機は彼等には目もくれず、そのまま上空へと消えた。

「まさか、シャトルを追ったのでは?」

 ケイラス・エモルが呟く。ケンメルは戦闘機が消えた空を見上げ、

「今から追跡しても、追いつけはしないと思うが……」

 彼にも断言するだけの根拠がない。どうして言葉尻が弱くなってしまう。

「戻ろう。我々の作戦は終了した。次は本格的にここを叩くぞ」

 ケンメルはそう言うと、装甲車に乗り込んだ。

「はい」

 ケイラスは大きく頷き、ケンメルに続いた。


 レーア達のシャトルは、戦闘機の追撃をかわし、成層圏まで上昇した。

「何とか逃げ延びたな」

 ナスカートはようやく鳴らなくなったアラームにホッとして呟く。するとカメリスが、

「戦闘機は振り切りましたが、別の敵が接近して来ますよ」

「え?」

 ナスカートがビクッとすると、

「ビビってんのかよ」

 タイタスが嘲るような口調で言う。ナスカートはムッとしたが、何も言い返さない。

「別の敵って、何ですか?」

 タイタスを一睨みしてから、レーアが尋ねた。カメリスはレーアを見て、

「帝国軍が打ち上げたシャトルです。あちらはすでに衛星軌道を周回しています。上から頭を押さえ込まれると、厄介ですよ」

「どうすればいいんですか?」

 レーアは更に尋ねた。カメリスは、コンピュータを操作しながら、

「こちらが素早く周回軌道に乗るしかありません。先に上に出られたら、取り返しがつかないですよ」

「くそ!」

 ナスカートは、タイタスに当たりたいのをずっと我慢しているせいか、大声で毒づいた。


 エレイム・アラガスは、アイデアルから遠く離れた町に潜んでいる。彼はレーア達が大気圏を離脱した事を知っていた。

「いよいよ、宇宙に出たか。頼むぞ。我らのために帝国軍を追い込んでくれよ」

 彼はニヤリとして呟いた。


 南米大陸。

 この戦争の最初の段階では、帝国側の領域であった。しかし、ある男の活躍で、監禁されていた元知事のナタルコン・グーダンが救出され、一気に情勢が変わった。パルチザンと共和主義者が勢いを増し、知事公邸を制圧したのだ。活躍した男の名は、メキガテル・ドラコン。パルチザン隊の総隊長で、ディバート・アルターとリーム・レンダース、そしてナスカート・ラシッドと旧知である。

「宇宙に出たのか」

 メキガテルも、リスボー・ケンメルからの暗号文を受け取り、レーア達が大気圏を離脱した事を知った。

「ザンバースは火星に拠点を移し、全面核戦争を目論んでいると言うが……」

 長身で、長い髪を後ろでひとまとめにし、制服の袖を肘まで捲り上げた男。ディバートともリームとも、そしてナスカートとも違う野性的な雰囲気の持ち主。彼こそが、メキガテル・ドラコンである。彼は南米のパルチザンの本拠地である元の知事公邸を司令本部にし、司令室で指揮をしていた。

(俺にはそれすら陽動のような気がする。ザンバースが本当に狙っているのは、俺達の戦力の分裂じゃないのか? あるいは……) 

 メキガテルには、もう一つ気になっている事があったが、それを考えようとした時に、元知事であるグーダンが入って来た。身長はメキガテルより低いが、体重は彼の倍はあろうかという巨漢だ。

「我々も、宇宙にシャトルを打ち上げるべきではないか、メック?」

 グーダンはその大きな身体を揺らしながら、メキガテルに言った。しかしメキガテルは、

「俺は必要ないと思います、グーダンさん」

「その理由は?」

 グーダンは、メキガテルの天才的とも言える戦術センスを高く評価しているので、そう尋ねた。

「ザンバースがもし、全面核戦争のために火星を押さえようとしているのであれば、何を今更なんですよ。奴は、連邦時代にいくらでも火星を押さえる事ができたはずです」

 メキガテルはデンとソファに座って言った。グーダンはその向かいに座り、

「なるほどな」

「もちろん、それだけで俺はそう結論づけた訳じゃありません。奴が火星を狙っているように思わせたかったのには、別に理由があると思うからです」

 メキガテルの思わせぶりの言い方に、グーダンは苦笑いして、

「単刀直入に言ってくれ。君はどう考えているのかね?」

 グーダンのその声に、司令室にいる全員がチラッとメキガテルを見た。すると彼はフッと笑って、

「これは俺の推測に過ぎませんよ」

「ああ。それでも聞きたいものだな」

 グーダンはニヤッとして促す。メキガテルは肩を竦めて、

「ザンバースには、娘のレーアのパルチザン加入は予想外だったと思います」

「ああ、それはな。我々だって、あれほどレーアさんが動いてくれるとは思わなかったくらいだからね」

 グーダンは不思議そうな顔でメキガテルを見ている。メキガテルは続けた。

「ザンバースにとって、レーアの動向は一番気になるところでしょう。彼女がパルチザンのどの基地にいるのかわからない状態では、軍への命令も出しにくくなる」

「しかし、レーアさんは何度か危ない目に遭っているぞ」

 グーダンはちょっとだけ反論してみた。メキガテルは、

「それは、死なない程度の危ない目には遭ったでしょう。しかし、考えてみて下さい。レーアが北米大陸の西部にいる事がわかると、東部にいるパルチザンは殲滅された。容赦のない攻撃でね」

「そうだな」

 グーダンは深刻な顔になった。メキガテルは脚を組み、

「俺はその攻撃の差は、ザンバースの指示ではなく、軍の指揮官サイドで変えていると思っていますがね」

「そうかな?」

 グーダンはその説には納得がいかないらしい。

「ザンバースは、そんな指揮の差異を知り、一気にそれを解決する手段として、火星基地建設の情報を意図的に漏洩させた、というのが、俺の推理です」

 グーダンはまだ完全に納得していないようだったが、そう考えると恐ろしい現実が見えて来る。

「もし、それが真実だとすると……」

 グーダンの声が震える。メキガテルはフッと笑い、

「レーアが宇宙に上がったとわかった以上、地球上の我々の基地は、帝国軍にこれまで以上に激烈な攻撃を受ける可能性があるという事です」

 メキガテルの言葉は、司令室の全員を凍りつかせるに十分な威力があった。


 レーア達のシャトルは、帝国軍のシャトルに頭を押さえられる事なく、衛星軌道に乗った。

「来ますよ、そろそろ」

 カメリスがレーダーを見ながら言う。頭を押さえ込まれはしなかったが、帝国軍のシャトルが接近している事実に変わりはないのだ。

「カメリスさん、このシャトルに武器はありますか?」

 ナスカートが無重力状態の船内を動きにくそうに移動しながら尋ねる。

「残念ながら、武器はありません」

 カメリスはナスカートを見上げて答えた。

「そんな……」

 今度はタイタスが狼狽えている。イスターはそんなタイタスを見て呆れていた。

「しかし、それは敵も同じはずです。彼等も我々との戦闘を想定して宇宙に来た訳ではないでしょう」

 その時、シャトルの右をレーザーらしき光が掠めた。

「カメリスさん、今のは……?」

 レーアが恐る恐る訊く。カメリスは目を見開いて、

「レーザーのようです。敵は武器を搭載しているようですね」

「ええ!?」

 船内は危うくパニックになりかけた。

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