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第四十五章 その三 それぞれの決断

 今や地球帝国の首府になったアイデアルは、多くの企業の本社ビルが建てられているが、その大半が帝国軍に接収され、軍の機関に造り変えられている。

 その中で唯一、その難を逃れているのが、アジバム・ドッテルが、義父であるナハル・ミケラコスから名目上も事実上も引き継いだミケラコス財団ビルだ。義父ナハルはザンバースとたもとを分かったが、ドッテルは資金提供の継続を伝えたのだ。彼は裏では打倒帝国を画策し、表では支援者を演じている。

「これは本当か?」

 ビルの最上階にある総帥室で、革張りの椅子を軋ませ、ドッテルは言った。彼の前には、財団の広報担当の部長がかしこまって立っている。ドッテルが尋ねたのは、広報の中の機密情報部門が入手した帝国に関する情報だった。

「帝国が、放射性物質の探索を極秘裏に進めているというのか?」

 ドッテルは広報担当部長を睨みつけた。

「その情報が真実かどうかは確認できておりませんが、情報源が帝国内部だという事は確かです」

 広報部長はドッテルから目を背けずに答えた。ドッテルは手に持っていた資料を机の上に放り、

「ならばすぐに裏を取れ。帝国内部にいる我が財団の協力者に活動を開始させろ」

「はい」

 広報担当部長は総帥室を出て行った。その時、机の上のインターフォンが鳴る。

「何だ?」

 ドッテルは即座にボタンを押した。

「エレイム・アラガスより連絡が入っております」

 秘書の声が答える。ドッテルは訝しそうな顔になり、

「つなげ」

と言うと、隣にあるテレビ電話の受話器を取った。モニターにエレイム・アラガスが映る。

「どうした、アラガス?」

 緊急事以外は連絡を入れるなと言ってあったので、ドッテルは苛ついていた。

「今夜、大帝府に攻撃を仕掛ける」

「何?」

 アラガスの言葉に、ドッテルは眉をひそめた。

「何を血迷った事を言っているのだ? まだそれは早い。もう少し待て、アラガス」

 ドッテルは語気を荒げて言った。しかしアラガスは、

「心配しなくても、あんたに迷惑はかけない。これはほんの挨拶代わりだ。ザンバースには恩もあるが、それ以上に怨みができた。そして、奴が考えている事には、ついて行けない」

「ほお」

 ドッテルはニヤリとして頷いた。そして、

「ならば一つ頼みがある」

「何だ?」

 アラガスの顔に警戒心が見える。ドッテルはフッと笑い、

「大した事ではない。我が財団の広報が、帝国が放射性物質の探索を進めているという情報を入手した」

「そうか」

 アラガスはあまり意外には思っていない。ザンバースなら、必ず核兵器に手を出すと考えていたからだ。血は争えないとも思っている。

「それが真実かどうか、調べて欲しい。それから、こちらも不確実な情報だが、帝国は火星に軍事基地を造ろうとしているらしい。それの真偽も調べて欲しい」

「わかった」

 アラガスはお使いを頼まれた子供のようにあっさりと応じた。

「では、くれぐれも慎重にな」

 ドッテルは更に念を押すように言う。アラガスは内心鬱陶しかったが、

「了解した」

と答えると、受話器を切った。

「何を企んでいるのだ、アラガスめ」

 ドッテルは、アラガスが完全に自分の味方になったとは思っていない。彼の背後にいるはずの帝国内部の人物の情報を提供しないからだ。

「まあ、いい。裏切ったら、切るだけだ」

 ドッテルはゆっくりと受話器を置いた。


 前線基地は、大混乱していた。ディバートとナスカートが乗っていた戦闘機は二機とももうない。制空権は、完全に帝国側にある。そして、戦車部隊が大挙して迫っているとすれば、地上にも利はない。

「どうしますか、ケンメルさん?」

 サラミス基地のリーダーのケイラス・エモルが尋ねた。北アメリカ州の元知事であるリスボー・ケンメルは腕組みをし、

「付近のパルチザンに応援要請をしたが、数が足りない」

 レーア達は顔を見合わせた。

「仕方がない。昔のアレ、やるしかないな」

 ナスカートが突然言った。

「昔のアレって?」

 レーアがキョトンとして尋ねる。ナスカートは苦笑いして、

「俺の家、小さい頃、もの凄く貧乏でさ。よくやってたんだよ」

 レーアやステファミー、アーミーは全く何の事かわからない。タイタスが、

「ああ、なるほど。ナスカートって、昔悪かったんだ」

「うるさいよ、タイタス!」

 ナスカートは年下のタイタスに馴れ馴れしくされるのが気に食わない。

「って事は、何?」

 レーアがダメ押しのように尋ねた。ナスカートはいささか呆れて、

「ゲリラ戦法だよ」

 それを聞いたケイラスが、

「そう言うと聞こえがいいけど、要するに泥棒作戦だよね?」

「ケイラスさん、それ、身もフタもないですよ」

 ナスカートが抗議した。するとケンメルが、

「戦力で劣る我々の最善策は、それしかないだろう。ナスカート君、頼む」

「はい、ケンメルさん」

 ナスカートは力強く応じた。


 帝国大帝府の大帝室では、ザンバースが椅子に身を沈め、目を瞑っていた。

(もし、ケスミーが核兵器を開発しているのなら、火星基地を建設しても無意味だ。だが……)

 その時、彼は人の気配で目を開けた。彼の目の前にいたのは、マリリアだった。

「どうした?」

 ザンバースは彼女を見上げて言った。

「お休みなのかと思いまして」

 マリリアは毛布を手に持っていた。ザンバースはフッと笑い、

「ここで休む程、私も愚かではないよ」

「そうですか」

 マリリアはニコッとして毛布を畳み、脇に抱えた。

(私にも警戒しているという事?)

 大帝室に入るには、秘書であるマリリアの部屋を通らなければならないのだ。大帝室で休めないという事は、取りも直さず、ザンバースはマリリアを完全に信用している訳ではないという意味なのだ。

「何だ、機嫌を損ねたか?」

 ザンバースが不意に立ち上がり、マリリアを後ろから抱きしめる。

「いえ、そのような事は……」

 心の内を見透かされたようで、マリリアはギクッとした。

「君を信用していないという意味ではない。今は休んでいる場合ではないという事だ」

 自分を気遣ってくれた? マリリアにはザンバースの今の言葉が幾通りにも推察でき、更に混乱しそうだ。

「う……」

 マリリアはそのまま身体を半回転させられ、ザンバースに唇を吸われた。慌てて吸い返す。

(こんな事、いつまで続ければいいの、マルサス?)

 マリリアは、自分の本当の恋人であるマルサス・アドムに心の中で問いかけた。


 前線基地では、ゲリラ作戦の実行部隊が編成された。隊長はもちろんナスカート。隊員は、志願したタイタスとイスター、要としてケイラス、そしてレーア。

「レーアは無理だろ?」

 ナスカートが言った。するとレーアはムッとして、

「どういう意味よ、ナスカート!?」

と食ってかかった。

「この作戦は、地面を這いつくばって行くようなものなんだ。止めといた方がいい」

「だからこそ行くんでしょ! 行かなくちゃならないの!」

 レーアが怒鳴り散らす。この基地にいる誰よりも、彼女は無念だと思っているのだ。レーアの目を見て、ナスカートはそれ以上言うのをやめた。そして、

「その代わり、服を着替えろ。そんなヒラヒラした格好で行くな」

「あっれえ、ナスカートって、このヒラヒラが好きだったんじゃないのお?」

 レーアがスカートの裾を持って言うと、ケンメルがナスカートを白い目で見て、アーミーとステファミー、そして多くのパルチザンの女子達が軽蔑の眼差しを向ける。

「勘弁してくれよ、レーア」

 ナスカートは項垂れてしまった。レーア達は大笑いだ。するとそこへ、

「私も同行させて下さい」

と、ザラリンド・カメリスが現れた。

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