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第四十四章 その三 ミタルアム・ケスミー

 ミタルアム・ケスミーはサラミス基地に到着していた。基地には誰もいないので、建物には明かりが点いていない。

「クラリア……」

 ミタルアムはホバーバギーを止め、基地の格納庫の中にある大型輸送機に向かって歩き出す。

「私がやろうとしている事は、決してお前が喜ぶ事でないのはわかっている。しかし、このままでいられない。例え地獄に堕ちる所業と言われても、私はお前の仇が討ちたい」 

 ミタルアムは冷静な顔つきで話している。死を覚悟した者だからなのだろうか?


 レーアとナスカートは戦闘機でサラミス上空まで来ていた。

(おじ様、早まらないで……。クラリアはそんな事、望んでいない)

 レーアは顔をクシャクシャにして泣きながら祈っていた。ミタルアムが思い留まってくれる事を。

「着陸するぞ、レーア」

 ナスカートの声が聞こえる。

「ええ」

 レーアはヘルメットのフードを上げ、涙を拭いながら応じた。

「あ!」

 その時、二人は、明かりが点けられた格納庫からゆっくりと姿を現す大型輸送機に気づいた。

「まさか!?」

 ナスカートは唖然とした。

「おじ様!」

 レーアは通信機に呼びかけた。しかし、ミタルアムからの応答はない。レーアには、切っているのか、応じるつもりがないのかはわからなかった。

「ナスカート、前に着陸して!」

「ああ」

 ナスカートは戦闘機を大型輸送機の前に着陸させた。

「おじ様、返事をして下さい! 何をしようとしているんですか!?」

 レーアはもう一度呼びかけた。すると、今度は、

「レーア君か?」

と返事があった。レーアはホッとして、

「おじ様、降りて下さい。話をしましょう」

「わかった」

 輸送機は停止した。ナスカートもそれを見て安心し、戦闘機のキャノピーを開いた。


 その頃、リタルエス・ダットスの部隊は、夕闇の中、アイデアルに向けて進んでいた。ダットスはできれば逃げ出したかったが、そんな事をすれば確実に追われる身である。何とかザンバースに話をして、命だけは助けてもらおうと、頭の中で思いつく限りの言い訳を考えていた。

(反乱軍に投降して、情報提供を条件に厚遇を申し出るのも一つの手だな)

 そんな考えまでしてしまうダットスは、心底性根が腐っていた。

「うん?」

 その彼の思索を打ち破るように装甲車が停止した。

「どうした!?」

 ダットスは通信機に怒鳴った。

「囲まれています」

 通信係の返事は妙なものだった。

「囲まれている?」

 ダットスは意味が分からないので、部屋から出て運転席に行った。

「何があったのだ?」

 彼が運転席に顔を覗かせた時、運転手と助手は頭を撃ち抜かれて死んでいた。その脇の通信係も同じだ。

「うわあ!」

 ダットスは腰を抜かして叫び、慌てて奥の自分の部屋に逃げ込んだ。

(何だ? 何が起こっている? 反乱軍の襲撃か?)

 彼には状況が全く掴めていない。ハッとして、ドアのロックをする。彼のいる部屋は、防弾ガラスと耐熱壁によって守られている。ミサイルを撃ち込まれない限り、安全なのだ。

「うお!」

 防弾ガラスに何かが当たる。しかし、ヒビすら入らない。

(一体何者なのだ? 私が乗っている事を知って、襲撃して来たのか?)

 もしそうだとすれば、同行している他の装甲車も敵にやられてしまったはず。今生き残っているのは、自分だけか? ダットスの全身から、汗が噴き出した。

(どうすれば良いのだ? 投降するか?)

 運転席の連中の死に様を見る限り、投降を認めてくれそうな相手ではない。出て行けば立ち所に射殺されそうだ。その時、ドアに衝撃が伝わった。何かでドアを破壊しようとしている。

(無駄だ。人間が操作できるもので破壊は不可能だ)

 しかし、同時に逃亡も不可能なのを悟ったダットスは絶望的になった。

(殺される……)

 彼は顔を引きつらせ、部屋の隅に走ると、身を屈めて震えた。

「?」

 ドアへの衝撃は止んだ。ダットスはホッとし、身を起こした。ところが、ピーッと電子音が鳴り響き、ドアが開いた。

「……」

 敵がドアのロックを解除したのだ。ダットスは膝を震わせ、そこに立っている者を見た。

「リタルエス・ダットス。我らの首領ドードス・カッテム並びに我らの同志の仇、討たせてもらうぞ」

 そこには、エレイム・アラガスと二名の暗殺団残存部隊がサブマシンガンを構えて立っていた。

「仇……?」

 ダットスは、自分が命を奪ったカッテムの事を思い出せない程混乱していた。

「死ね!」

 三人が一斉にサブマシンガンを撃った。

「ぐあああ!」

 ダットスは逃げる事もできず、身体中に弾丸を浴びせられ、絶命した。アラガス達は互いに顔を見合わせ、喜び合った。

「行くぞ。我々の戦いはこれからだ」

 アラガスは、ダットスの遺体に火の点いたライターを放り、液体燃料の入ったポリ容器を投げ込んだ。途端に燃料に火が点き、ダットスの遺体を焼き尽くして行く。それを見届け、アラガス達は装甲車を出た。


 レーアとナスカートは、戦闘機を降り、輸送機から出て来るミタルアムを待った。ミタルアムは、キャスター付きの大きなスーツケースを転がしながらレーア達に近づいて来る。

「おじ様」

 レーアは微笑んでミタルアムに歩み寄る。

「ナスカート君、これが核弾頭だ。前線基地まで運んでくれないか?」

 ミタルアムの言葉にナスカートとレーアはギョッとした。

「わかりました」

 ナスカートはようやくそう返事をし、ミタルアムと共にスーツケースを運び、戦闘機の下部にあるトランクに積み込んだ。

「君達に誤解を与えたようだね。私が無茶をするのではないかと」

 ミタルアムが言うと、ナスカートは苦笑いして、

「あ、いや、その……」

とバツが悪そうに頭を掻き、レーアを見る。レーアは、

「でも良かった。そうじゃないんですよね?」

「ああ。輸送機に搭載したままの核弾頭の事が気になってね。思わず一人で来てしまった。申し訳ない」

 ミタルアムが微笑んだので、レーアは安心した。

(良かった。思い過ごしで)

 ミタルアムはレーアを見て、

「レーア君、すまんが、輸送機の中から私のバッグを取って来てくれないか?」

「あ、はい」

 レーアもナスカートも、ミタルアムのその不自然な頼みに気づくべきだった。レーアは輸送機のハッチに駆けて行く。

「ナスカート君」

 ミタルアムがナスカートを見る。

「何ですか?」

 ナスカートが無防備に顔を向けた時、ミタルアムの右フックがナスカートの肝臓を捉えていた。

「ぐう……」

 ナスカートは全く思ってもいない人からの一撃に目を見開き、声が出せない程の痛みに膝を折った。

「すまん」

 ミタルアムはそう言うと、戦闘機に搭乗した。

「ミタルアム……さん」

 ナスカートは顔を上げて発進する戦闘機を見た。レーアも、爆音を聞きつけて、驚いてハッチから飛び出して来た。

「おじ様!」

 彼女は戦闘機のキャノピーから見えるミタルアムの顔と、地面に膝を着いているナスカートを見た。

「おじ様ーッ!」

 垂直上昇する戦闘機に向かって、レーアは叫んだ。しかし、激しいエンジンの音がそれをかき消す。

「二人共、すまない」

 ミタルアムは地上の二人に詫び、飛び去った。


「社長が?」

 レーアからの連絡を受けたザラリンド・カメリスは、仰天していた。

(社長、早まらないで下さい)

 カメリスは司令室を飛び出し、基地の外に出た。

「くそ!」

 あの時、どうして止められなかったのか? カメリスは自分を責めた。その彼の遥か上空をミタルアムの乗る戦闘機が通過した。

「社長?」

 カメリスは微かに聞こえたジェットエンジンの音に反応し、夜空を見上げた。


 帝国首府アイデアルにあるミケラコス財団ビルの一室で、財団の事実上の支配者であるアジバム・ドッテルは、エレイム・アラガスから、ダットス暗殺に成功したと連絡を受けた。

「ならば、これからは我々は共に行動する同志だな」

 テレビ電話のモニターに映るアラガスに、ドッテルが言った。

「そうだな。よろしく頼む」

 アラガスはニヤリとして応じた。


 それとほぼ同時刻に、ザンバースはダットス死亡の報告を受けていた。

「どうやら、暗殺団の残党に待ち伏せされたようです」

 大帝室で、補佐官のタイト・ライカスが言った。ザンバースはフッと笑い、

「手間が省けたな、ライカス」

「はあ」

 ザンバースが嬉しそうに言ったので、ライカスはビクッとした。

「態勢に影響はない。計画はそのまま続行だ」

 ザンバースは報告書を机の上に投げ出した。

「は!」

 ライカスは敬礼して応じた。

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