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第四十三章 その三 クラリア・ケスミー愛に死す

 クラリア・ケスミーはもうこれ以上自分の愛する人、大事な人達を喪いたくなかった。

(レーア、無茶しないで。もう私……)

 クラリアはレーアに対して冷たい態度を取っていた自分を反省していた。

(レーアが悪い訳いじゃないのに……。私が勝手に好きになったのに……)

 頭では割り切ろうとするが、心がそれをできない。今のクラリアはそんな状態だった。

「でも、私はディバートの死を無駄にはしたくない」

 彼女はホバーバギーのアクセルを踏み込んだ。


 レーアはクラリアの事が心配だったが、接近して来る帝国軍への備えの方が優先事項なので、タイタスやイスター達と共に復旧作業を手伝っていた。

「ナスカート、無茶しないといいけど」

 レーアはナスカートの搭乗する戦闘機が飛び去った方角を見上げて呟いた。


 そのナスカートは、熱探知ミサイルに苦戦していた。

「くっ!」

 ギリギリまで引きつけてかわし、機銃で破壊する。その方法が一番確実だが、それを連続して行うのはかなり厳しい。

「戻ろうにも戻れないし……。畜生」

 ナスカートは再びレーダーが探知したミサイルをかわした。

「キリがない……。何が目的なんだ、連中は?」

 ナスカートはまた機銃でミサイルを破壊した。

「ナスカート、戻って! グランドキャニオン基地の方向に重爆撃機らしい機影が確認されたわ」

 レーアの声が通信機から聞こえた。

「了解!」

 ナスカートは急上昇し、前線基地を目指す。再び熱探知ミサイルが飛来するが、ナスカートの機体を探知できないのか、辺りを旋回していた。

「俺をここに足止めするのが目的だったのか」

 ナスカートは更に上昇する。

(重爆撃機があいてなら、上空から接近するのが得策だ。背後に回り込めば、小回りが利かないから、脆いはず)

機体は雲の中を抜け、限界高度に達した。

「よし!」

 ナスカートはそのままの高度を維持し、前線基地へと進んだ。


 また、別方向から戦線に接近している者達がいる。エレイム・アラガス率いる暗殺団の残存部隊である。彼等は首領のドードス・カッテム以下、多くの同志達の仇を討つためにリタルエス・ダットス率いる帝国軍に密かに近づいている。

「兵士達はいい。ダットスだけを狙え。味方が倒れても気にするな。我らは皆、首領達の復讐のために生きているのだ」

「はい」

 アラガスは暗殺団の隊員達に檄を飛ばした。元より彼等は生き残るつもりはない。皆、死ぬ気だ。但し、何があろうとダットスだけは道連れにするつもりでいた。


 クラリアは、前線基地に向かう途中、レーアとナスカートのやり取りを傍受していた。

「重爆撃機?」

 彼女は以前、ケスミー財団のコンピュータで見た事がある。「空飛ぶ火薬庫」の異名を持つ、巨大な機体。町一つをたちまち火の海に変えてしまうその破壊力は、データを見ただけで震えるものだった。

「そんなものが、レーア達に迫っているの?」

 クラリアは、基地から持ち出したのが、バズーカ砲一基だけなのを後悔した。

「もっと積んでくれば良かった」

 しかし、戻っている時間はない。レーア達の会話の感じでは、もうすぐそこまで来ているらしいのだ。クラリアは前方の空を目を凝らして見た。遥か彼方に見えるグランドキャニオンの上空を飛行する何かが見えた気がした。

「あれがそうなの?」

 クラリアは進む方角を変更した。

「少しでも敵機を叩ければ……」

 彼女は重爆撃機の後方に回り込むつもりでいた。


 サラミスからの通信で、クラリアが前線基地に向かった事を知ったミタルアムは、気が気ではなかった。彼は前線基地のゲートまで出ていた。

「社長」

 そんなミタルアムを心配して、ザラリンド・カメリスがやって来た。

「私はもう社長ではないよ、カメリス」

 ミタルアムは苦笑いをしてカメリスを見た。カメリスも苦笑いをして、

「他にお呼びのしようがありません」

 ミタルアムはカメリスの思いに嬉しくなり、彼の肩を叩いた。

「お嬢さんは、ディバート・アルター君を好きだったのですか?」

 カメリスが出し抜けに尋ねる。ミタルアムはビクッとしたが、カメリスに嘘を吐いても仕方ないと思ったのか、

「そのようだ。まだ本人からは聞いていないがね」

 ミタルアムは悲痛そうな顔で答えた。

「だからこそ、不安なのだよ。あの子は自分が辛い時、それを誰にも知られまいとするからね。今まさにそんな感じなのだ」

「はい」

 クラリアを小さい頃から見て来ているカメリスも、クラリアの感情の起伏はよくわかっていた。


 ナスカートは重爆撃機の上まで来ていた。

「さてと。全部叩き落としてやるぜ!」

 ナスカートの搭乗機が急降下する。肉眼でも見える所に重爆撃機三機が現れた。

「いただき!」

 空対空ミサイルが発射され、重爆撃機に迫る。敵機も機銃や迎撃ミサイルで応戦するが、時既に遅く、ナスカートの放ったミサイルは重爆撃機の一機に命中した。途端に火の手が上がり、爆発が始まる。姿勢を制御できなくなった被弾機が隊列から外れ、堕ちて行く。残りの二機は巻き込まれるのを避けるようにその空域を離脱しようと動き出す。

「逃がすかよ!」

 ナスカートが二機のうちの一機を追尾する。もう一機には、前線基地からの攻撃が開始された。その重爆撃機はナパーム弾を投下し始めた。たちまち前線基地の各所に火災が発生し、それ以外の箇所から反撃のミサイルと砲火が放たれる。

「このヤロウ!」

 ナスカートは爆撃を開始した重爆撃機に空対空ミサイルのもう一基を発射した。しかし、それはかわされ、ミサイルは前線基地の遥か彼方の地面墜落し、爆発した。

「畜生!」

 ナスカートはもう一機を手早く片づけ、戻る事にした。

「レーア、死ぬなよ」

 ナスカートはまた追撃に入る。重爆撃機は、その間にナスカート機から離れていた。

「逃げるなよ」

 ナスカートは慌てて速度を増した。


 ナスカートが追撃している重爆撃機は、クラリアの乗るホバーバギーの方向へ飛行していた。

「あ」

 クラリアも、重爆撃機が一機こちらに向かって来ているのに気づいた。その後方から、ナスカートが追尾しているのも、無線で傍受していて確認している。

「よおし!」

 クラリアはバギーを停め、バズーカ砲を構えた。無反動システムなので、クラリアでも十分発射可能なのも、確認済みだ。

「当たれ!」

 クラリアの叫びと共にバズーカ砲が発射された。砲弾は真っ直ぐに重爆撃機に飛行し、その操縦席の窓を破壊した。操縦者がいなくなった重爆撃機は姿勢制御をできなくなり、急激に高度を下げて行く。

「やった!」

 クラリアは喜び、またバギーを走らせる。

「まだいるはず。まだ戦える」

 クラリアはアクセルを踏み込み、前線基地を目指した。その彼女の遥か後方に重爆撃機が墜落し、爆発した。


「あれれ?」

 その重爆撃機を追尾していたナスカートは、何が起こったのかわからなくなっていた。

「どうしたんだ? 自爆?」

 ナスカートはその直後、地上を走るホバーバギーに気づいた。

「誰だ、あれ?」

 ナスカートは無線で呼びかけた。

「そこのバキー、運転者は誰だ?」

「私よ、ナスカート」

 クラリアの嬉しそうな声が返って来る。

「クラリア? ええ? クラリアなのか?」

「ええ、そうよ」

「大丈夫なのか、その……」

 ナスカートはディバートの事を言いかけ、止めた。

「大丈夫よ。私はそんなに弱い女じゃないわ、ナスカート」

 クラリアの声は強がっているようには聞こえなかった。

「そうか。さすが、レーアの親友だな」

 そう言ってしまってから、ナスカートはしまった、と思った。

「気にしないで、ナスカート。私はもう平気。だから、変な気を遣わないでよ」

「わ、わかった」

 ナスカートは苦笑いした。

「後一機いるんでしょ? 片づけましょう」

「おう」

 ナスカートは旋回し、前線基地を攻撃している重爆撃機に向かった。クラリアも速度を上げ、

「こっちに追い込んで、ナスカート。私が落とすわ」

「了解!」

 ナスカートは再び急上昇した。


 レーア達は反撃虚しく、基地を放棄する決断をしていた。

「これ以上ここに留まるのは無理だ。一旦撤退するしかない」

 苦渋の決断をするミタルアムに、レーア達は無言で頷く。司令室も爆撃で揺れ、反撃していた砲塔も沈黙してしまっている。

「よし、脱出だ」

 ミタルアムが言った時である。

「まだ諦めるなよ、俺がいるんだぜ!」

 ナスカートの声が通信機から轟いた。


 ナスカートは上空から重爆撃機を機銃で掃射した。そしてすれ違いざま、更に機銃を放つ。右主翼が被弾し、重爆撃機はふらつき始めた。

「待てよ、そっちじゃねえよ」

 更に前線基地に迫ろうとする重爆撃機を、ナスカート機が機銃掃射する。

「よし、前線基地から外れた。今だ、クラリア」

 ナスカートが叫んだ。


「クラリア?」

 司令室に残っていたレーア達もナスカートの声を聞いていた。


「了解、ナスカート」

 クラリアは重爆撃機の前方でバズーカ砲を構えて待っていた。

「当たれ!」

 砲弾が発射され、重爆撃機に命中する。落下しながら進む重爆撃機。

「やった!」

 バキーを停止し、喜ぶクラリア。

「クラリア!」

 異変に気づいたナスカートが叫んだ。しかし、遅かった。

「え?」

 クラリアの真上に、ナパーム弾が落ちて来た。

「クラリア!」

 ナスカートが怒鳴る。重爆撃機はクラリアの遥か後方に墜落し、炎上した。次の瞬間、クラリアの周囲が業火に包まれた。

「クラリアーッ!」

 その様子を全部見てしまったナスカートは、涙を流して絶叫した。

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