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第四十三章 その二 グランドキャニオン基地攻略戦開始

 翌日になった。


 前線基地の惨状は少しずつ回復に向かっている。泣き続けていたナスカートもようやく落ち着き、片づけに加わっている。タイタスやイスターも、汗にまみれて身体を動かしていた。

「……」

 レーアはそんな中にクラリアの姿がないのを心配していた。彼女は、ザラリンド・カメリスと共に前線基地にやって来たミタルアム・ケスミーを見つけ、近づいた。

「おじ様」

 レーアの姿を目に留め、ミタルアムは力なく微笑む。

「クラリアは?」

 レーアはミタルアムを気遣うように小声で尋ねた。

「まだ起きられないでいる。相当なショックだったようだ」

「そうですか……」

 レーアは複雑だった。自分がクラリアに無理強いしなければ、クラリアはここまで傷つかなかったのではないか? そう思うと、一刻も早く顔を合わせたい自分と、とても顔を合わせられないと思う自分がいる。

「ありがとう、レーア君。クラリアは、君のような親友に恵まれて幸せだね」

 ミタルアムの言葉は、レーアの気遣いに対する礼なのだろうが、今のレーアにはそれは重かった。レーアは苦笑いをして、

「失礼します」

と作業に戻って行った。そんな中、警戒警報が鳴り出した。

「何だ?」

 ナスカートが走り出す。レーアもタイタス達と顔を見合わせ、司令室に走った。

「どうした?」

 ナスカートが当番の通信係の男に声をかける。

「はい、偵察隊からの入電です。帝国軍の大部隊が、こちらに向かって進軍中です」

 ナスカートはレーアと顔を見合わせた。

「どうしてもここを落としたいのか、帝国は」

 ナスカートは歯軋りした。ディバートが命を賭して守ってくれたこの基地は、何が何でも守る。彼はすぐさま外へと走った。

「ナスカート!」

 レーアはナスカートが死に急いでいる気がして怖くなり、声をかけた。

「心配するなって、レーア。ディバートに助けてもらったこの命、そんな簡単に捨てたりしないよ」

 ナスカートは振り返ってニッと笑い、走り去った。

「ナスカート……」

 レーアは一安心したが、

「とにかく、急いで片付けを終えましょう。このままでは、一たまりもないわ」

「そうだな」

 タイタスとイスターが頷く。レーア達はもう一度外へと向かった。


 サラミス基地は、少数の見張りと通信係を残して、そのほとんどが前線基地に移動している。

「……」

 ガランとした司令室にクラリアが姿を見せたのは、そんな時だった。中には当番の通信係の女性が一人いるだけだ。

「何かあったの?」

 クラリアは表が慌ただしいのに気づき、通信係の女性に尋ねた。

「ええ。前線基地にまた帝国軍が接近しているらしいの。だから、ここからもかなりの数のパルチザン達が出発したわ」

「そうなの」

 クラリアは自分が何もする気になれない事が悔しかった。

(私、こんなに弱い人間だったの?)

 レーアがパルチザンに加わっている事を父ミタルアムから知らされた時、クラリアは、

「地球中の人がレーアの敵になっても、私はレーアの味方」

と考え、迷う事なく賛同した。しかし、今は違う。好きな男に告白して、断られて、しかもその恋敵が、親友。クラリアの頭の中は混乱していた。

(レーアは何も悪くないのに……)

 レーアのせいではないのは、よくわかっていた。しかし、最初は告白を躊躇っていたのに、それを叱咤激励して実行させたのはレーアだ。そして、その結果、振られただけで終わらず、そのけしかけたレーアが恋の勝者だと知り、余計にショックだった。

「私、どうしたらいいの……」

 知らないうちにそんな言葉を漏らしていたようだ。

「じゃあ、通信代わってくれる? 私、弾薬の残数を確認して来るから」

 通信係の女性に言われ、クラリアはハッとした。

「頼むわね」

 何も言えないまま、クラリアはインカムを渡されていた。

「……」

 通信機の前に立ち、クラリアは機器をボンヤリと眺める。

「ディバート……」

 クラリアの頬を涙が伝わった。


 リタルエス・ダットス率いる陸上部隊は、真っ直ぐにレーア達のいる前線基地を目指していた。

「重爆撃機はどこまで来ている?」

 揺れる装甲車の中で、ダットスは尋ねた。通信兵が、

「只今グランドキャニオン基地上空に到達した模様です」

「ならば、基地で待機させろ。陸上部隊で撹乱し、空軍で制圧する」

「はっ!」

 通信兵はダットスの指示を伝えた。

(何故連中はそれほど戦えるのだ? 反乱軍には、何も得るものがないはずだ)

 ダットスには、次々に仲間を失いながら、尚も抵抗をするパルチザン達や共和主義者達の思いが理解できない。あらゆる事を損得で考えてしまう彼には、損得抜きで動く人間は理解を超えた存在であった。

(連中の考えなどどうでもいいか。今は只、自分の地位確保を考えるのみだ)

 ダットスは頭の中に霧のように広がっていた妙な感覚を振り払うように咳払いをした。

「閣下、お加減が悪いのですか?」

 装甲車の後部に乗り合わせている看護兵が声をかけた。ダットスは振り向いて、

「大丈夫だ。何でもない」

と応じ、前を向いた。


 その頃、一機だけになった戦闘機に搭乗したナスカートは、偵察を兼ねて飛行していた。

(ディバート、お前の思いは絶対に無駄にはしない。そして、何としても基地とレーアを守り切って、アイデアルに進むんだ)

 ナスカートの操縦桿を握る手に力が入った。その時、レーダーが熱源の接近を知らせる。

「地対空ミサイルか!」

 ナスカートは操縦桿を引き、上昇する。熱源は予想通りミサイルで、始末の悪い事にホーミング機能付きだ。ナスカートが上昇するのを追跡して来る。

「ちっ!」

 ナスカートは鋭く右旋回した。ミサイルはそれを追い切れず、そのまま直進する。

「よし!」

 すかさず後ろに回り込み、機銃掃射。ミサイルは爆発した。

「畜生、油断した」

 ナスカートはレーダーを見て、周囲を警戒した。しかし、何も映らない。

「どういう事だ?」

 ナスカートは考え込んだ。


 ダットスの元に、戦闘機が地対空ミサイルを撃破したという報告が入った。

「熱探知ミサイルの性能は中々のようだな。第二波、発射しろ」

 ダットスはニヤリとして命じた。

 ナスカートが慌てるのも無理はなかった。ダットス隊の発射したミサイルは、ナスカートの戦闘機が出す熱を感知し、遥か彼方から接近したのだ。周囲に発射源は見当たるはずがないのだ。


 ナスカートはこれ以上ここに留まるのは得策ではないと判断し、基地に帰還する事にした。

「何!?」

 そこへまた、いきなりミサイルが現れた。

「くそっ!」

 今度は素早く反応し、ミサイルを機銃で撃破した。

「どういう事なんだ?」

 ナスカートは首を傾げながら、機体を反転させた。


 クラリアは、ナスカートがミサイルを撃破したのを通信機で傍受していた。

(また戦いが始まるの?)

 彼女はレーアが死んでしまうのではないかと思った。そう考えると、居ても立ってもいられなくなった。

「あっ」

 そこへ戻って来た当番の女性にインカムを渡す。

「今、応援要請があったから、私、前線基地に行くわ。後をお願いね」

「え、ええ……」

 クラリアの言葉に呆気に取られながら、女性は席に戻った。

 クラリアは武器庫からバズーカ砲を一基持ち出し、ホバーバギーでサラミス基地を出発した。

「ディバート、私は強くなるわ」

 クラリアはようやく笑顔を取り戻した。

「泣いてばかりいても、誰も同情してくれないしね」

 その言葉はいくらか自嘲気味である。

(今の私にできる事をする。それがディバートの死に報いる一番の方法)

 クラリアは前方を見据え、ハンドルを切った。


「えっ?」

 通信係から伝えられ、レーアとミタルアムは思わず足を止めた。

「クラリアがこちらに向かっている?」

 ミタルアムが通信係に近づく。

「ええ。応援要請を受けたと言って、ホバーバギーで出たそうです」

「……」

 ミタルアムはレーアと顔を見合わせた。

「要請なんてしていないのですが」

 通信係は混乱した様子だ。レーアはクラリアの事が心配になった。

(無茶しないといいけど……)

「ちょっと見て来る」

 レーアは司令室を飛び出した。

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