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第四十二章 その三 ディバート・アルター死す

 西暦二千五百一年。時代はまた大きく動こうとしていた。


 帝国軍司令長官のエラメド・ラムルス率いる戦車部隊は、レーア達のいる前線基地に確実に近づいていた。ディバートとナスカートの搭乗する戦闘機が攻撃をするが、機銃程度では装甲に傷を付けるので精一杯だ。それでも多少の足止めにはなっていた。

「五月蝿い蠅共め。撃ち落とせ!」

 ラムルスは前線基地の前に戦闘機撃墜を優先する事にした。砲門が一斉に空に向けられ、火を噴く。

「うわっ!」

 ナスカートは慌てて旋回し、砲火をかい潜った。

「ナスカート、迂闊だぞ。戦車の射程に入るなよ」

 ディバートが注意した。

「わかってるよ。畜生、連中、俺達を先に仕留めるつもりらしいぜ」

「その方がいい。前線基地に辿り着く敵軍を一輛でも少なくするのが俺達の役割だからな」

 ディバートは機体を上昇させながら言った。


 その頃レーア達は、前線基地の展開を急いでいた。戦闘で破壊された内部を補修し、運び入れた対空砲塔や対戦車砲、バズーカ砲の設置や整備を急いだ。

「ディバート達が戦闘状態らしい」

 司令室で通信機を操作していたイスター・レンドが言った。

「大丈夫なの、二人は?」

 レーアが尋ねる。

「遠巻きに攻撃しているから心配いらないようだけど、こっちの展開の時間稼ぎをしてくれている。急がないとな」

「そうね」

 レーアは頷き、ステファミー・ラードキンスやアーミー・キャロルドらと機材を運ぶ。

「対空砲塔は準備完了だ」

 タイタス・ガットが顔を黒くして言った。

「それより、対戦車砲のチェックを急いで。当面の敵は戦車部隊なんだから」

 レーアが言うと、タイタスは膨れっ面をして、

「わかったよ」

と言い捨て、出て行く。

「何、あいつ、機嫌が悪いな」

 レーアが言うと、イスターが肩を竦めて、

「誰かさんが全然自分の方を見てくれないからでしょ」

「へえ、そうなんだ」

 レーアのその言葉に、イスターは溜息を吐いた。

「タイタス、全然見込みなしかもよ」

 彼はタイタスの事を哀れんだ。


 ミケラコス財団ビル。

 愛娘のミローシャを亡くして以来、総帥のナハルは惚けたようになっていた。一時はミローシャの夫であるアジバム・ドッテルを怒鳴りつける事でその気力を保っていたのだが、もはやそれでも彼の悲しみを紛らわす事はできなくなってしまったのだ。

「ミローシャ……」

 彼は孫が生きがいだったが、その孫と顔を会わせると娘を思い出してしまうので、会いたくても会えなかった。

 それに反して、ドッテルはすっかり妻の死を乗り越えたように活動していた。外見だけは。彼もまた、心の中に大きな穴が開いていたのだ。しかし、それを埋めようとして、「打倒ザンバース」を自分のこれからの生きる糧にしようと決意していた。

(奴を権力の座から追放し、私がそこに座る)

 ドッテルは野心によって心の穴を塞ごうとしていたのである。

「帝国軍と急進派が西部で激突か。面白い」

 彼はその隙につけ入ろうと考えていた。


 ディバートとナスカートは、その見事な操縦で戦車部隊を撹乱し、確実に数を減らしていた。

「前線基地の展開は完了したか?」

 ディバートは通信機で問いかけた。

「もう少しで完了します。頑張って下さい」

 イスターが答えた。

「了解!」

 二機の戦闘機は急上昇した。

「妙だぞ」

 ナスカートが言った。ディバートは機銃を掃射しながら、

「何だ?」

「空軍はどうしたんだ? いくらケスミー財団の監視衛星の眼が気になるとしても、一機も出さないなんて事があるか?」

 ナスカートの問いかけにディバートはハッとした。

「まさか、こいつら全体が陽動なのか?」

「その可能性が出て来たぞ、ディバート」

 ディバートは舌打ちした。そして、

「サラミス、聞こえますか? ケスミーさん」

「どうした、アルター君?」

 ミタルアムが応じた。ディバートは、

「空軍の動きがないとは思えません。どこかにその影がありませんか?」

「了解した。確認して連絡する」

「頼みます」

 ディバートは再び戦車に目を向ける。

「とにかく、今はこいつらを叩こう、ナスカート」

「了解」


 ラムルスは、ディバート達が完全にと自分達に食いついてくれた事を喜んでいた。

「これだけの数の戦車が囮とは思うまい。気づいた時は手遅れだ」

 彼はニヤリとした。


 サラミス基地では、ザラリンド・カメリスが監視衛星のチェックをしていた。

「半径五百キロ圏内に怪しい影はありません。しかし、アルターさんの言う通り、妙な雰囲気なのは確かですね」

「そうだな。更に詳しく周囲を探ってくれ」

 ミタルアムは険しい表情で言った。それをクラリアは悲しい顔で見つめている。

(ディバート……)

 彼女にとって、基地や戦争の行方より、ディバートの命の方が心配だった。

「あっ!」

 カメリスが叫んだ。

「どうした?」

 ミタルアムが怒鳴る。クラリアもカメリスを見た。周りのパルチザン達も一斉に彼に目を向けた。

「雲の影に隠れていた機影を捉えました。五機です。しかもこの反応は、ステルスですね」

 ステルス戦闘機は、ほぼ全てのレーダーを無効にしてしまう特殊素材の装甲で造られている。只でさえ発見が困難だが、雲に隠れて近づいていたとなると尚の事難しい。

「前線基地に向かっています。計算では、あと五分で到達してしまいます!」

 カメリスが悲痛な声で言った。

「アルター君、ステルス戦闘機が前線基地に向かっているのがわかった」

 ミタルアムはすぐさまディバートに連絡を入れた。


 ディバートはミタルアムからの連絡を受け、予想していたとは言え、仰天した。

「わかりました、すぐに向かいます」

 二機は反転し、前線基地に向かった。


 ラムルスはディバート達の動きを見て、

「今更急いでも遅い。それに戦闘能力でも、格が違い過ぎる」

と呟いた。


 レーア達は、サラミス基地からの連絡で戦闘態勢に入っていた。

「敵はステルス戦闘機五機。対空砲塔用意」

 ケイラス・エモルが命令する。パルチザン達は素早く行動し、砲塔を展開した。

「うわっ!」

 いきなり監視塔が爆撃され、消滅した。

「何、今の?」

 レーア達は誰一人として敵機の姿を見ていない。

「これがステルスの威力って奴かよ」

 タイタスが歯軋りする。

「こんなんじゃ、撃ち落とすなんて無理だぜ」

 レーアはキッとして上空を見上げた。

「危ない、レーア」

 すぐそばを機銃掃射が走る。タイタスが慌ててレーアを庇った。

「ありがとう、タイタス」

「別にいいよ」

 真顔でレーアに礼を言われ、タイタスは赤面した。

「俺も迎撃に行く」

 タイタスは司令室を飛び出して行った。

「きゃっ!」

 また一つ監視塔が潰され、更に対空砲塔も一基沈黙した。

「急ごしらえの限界か……」

 砲塔の一つでケイラスが悔しそうに呟いた。

「まだまだ!」

 タイタスが砲塔を動かし、ステルスを撃った。しかし、当然の事ながら、当たらない。

「速過ぎるよ!」

 タイタスは誰にともなく叫んだ。

 前線基地の兵力は次第になくなって行き、タイタスとケイラスの砲塔を残すのみとなっていた。

「諦めるな!」

 ディバートの声が通信機から聞こえた。二機の戦闘機がステルスを撃墜する。

「自分達が絶対に安全だと思ってる奴らは、不意を突かれると弱いもんさ!」

 ナスカートの声も聞こえた。

「ディバート、ナスカート!」

 レーアが涙声で叫んだ。

 やがて戦闘機同士の空中戦になった。しかし、ディバート達の圧勝だった。残る三機も、たちまち撃墜された。

「やった!」

 砲塔から見ていたタイタスが喜びの声を上げる。それが例え恋敵だとしても、今はそんな事は関係ない。タイタスはディバート達の救援を心の底から喜んでいた。その時だった。

「ぐっ!」

 ディバートの戦闘機の右主翼が撃ち抜かれた。ラムルスの戦車部隊が現れたのだ。

「ディバート!」

 ナスカートがすぐに援護に動く。


「急進派め、これ以上の進撃は許さんぞ」

 ステルス五機を失ったラムルスは激怒していた。

「全砲門を集中し、あの二機を撃ち落とせ!」

 彼は目を血走らせて怒鳴った。

「ディバート!」

 ナスカートは戦車の砲火をかわしながらディバートに声をかけた。

「大丈夫だ。まだ戦える」

「やめとけ。基地に降りろ。もう戦える状態じゃない」

 ナスカートが怒鳴った。しかしディバートは、

「いや」

と拒否した。彼はすでに戦闘機が爆発寸前なのを知っているのだ。そして脱出装置も作動しないのを確認した。このまま基地に戻る事はできない。基地内で爆発したら甚大な被害が出る。

「後の事を頼む、ナスカート」

「ディバート?」

 ナスカートは一瞬、ディバートが何を言っているのかわからなかった。

「何だ、あの戦闘機は?」

 ラムルスもディバート機の妙な動きに驚いていた。

「突っ込んで来る気か? させるな! 撃ち落とせ!」

 砲火がディバートの戦闘機を破壊して行く。垂直尾翼が取れ、操縦が効かなくなった。

「くそう!」

 錐揉み状態になりながらも、ディバートは必死になって機体を制御しようした。

「何をしている、早く撃ち落とせ!」

 それがラムルスの最後の言葉だった。

「ナスカート、頼んだぞ!」

 ディバートはそう言い残し、戦車部隊に機体諸共突っ込んだ。大爆発が起こり、戦車部隊はそれに巻き込まれ、誘爆して行く。

「ディバートォッ!」

 ナスカートが泣きながら叫んだ。


「ディバート……」

 司令室で、レーアは呆然としていた。涙が止めどなく流れる。

 砲塔にいたケイラスとタイタスは爆発のあまりの凄まじさに身を伏せた。

 他のパルチザン達も、唖然としたが、爆風に煽られ、驚いて身を屈めた。

 前線基地の建物も、爆風で揺れ、ガラスが粉微塵に飛び散った。

 爆発はしばらく続き、戦車部隊は全滅した。


 サラミス基地にその一報が届いたのは、爆発が収まってから五分後だった。

「何だって?」

 ミタルアムは泣きながら伝えて来るイスターの声を聞き取れず、何度も聞き返した。

「何があったの、お父様?」

 クラリアが不安そうな目で尋ねる。ミタルアムは悲痛そうな顔で娘を見た。

「ディバート・アルター君が、戦死した」

 その言葉にクラリアは気を失ってしまった。


 地球帝国大帝府。

 大帝室にも、ディバート・アルター戦死の報告が入っていた。

「こちらもラムルス長官が戦死されました」

 マリリアが冷静な顔で言った。ザンバースは報告書を机の上に投げ出し、

「痛み分けか。しかし、ディバート・アルターを失った急進派の動揺は大きいな」

と言い、ニヤリとした。

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