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第四十一章 その三 ダットス失脚

 ディバートとナスカートは今が好機と考え、北アメリカ大陸に散らばっているパルチザンと共和主義者達に呼びかけ、グランドキャニオン基地攻略を進めようとしていた。

「それにしても、意外でしたね。まさか、完全に撤退してしまうとは」

 司令本部の中でケイラス・エモルが言った。ナスカートは肩を竦めて、

「所詮ダットスのおっさんには、命懸けで戦う考えがなかったって事さ。あのおっさんは元々軍人じゃないし、実力であの地位に着いたんじゃないらしいよ」

「なるほど」

 ケイラスはナスカートの大袈裟な身振り手振りに苦笑いして頷いた。

「みんな無事で良かった」

 レーアがタイタス達に声をかけている。

「このくらいで死んでたまるかよ。俺には夢があるんだからさ」

 タイタスはチラッとレーアを見てからクラリアを見た。クラリアはクスッと笑ったが、

「クラリアもだよな?」

とタイタスが振って来たので、びっくりして彼を見た。

「な、何の事?」

 するとアーミーも、

「クラリアは、早く決断しないとね。愛しい人が、誰かに盗られないうちに」

「そうそう」

 ステファミーも楽しそうにクラリアを見る。

「何よ、二人共? おかしな事言わないで」

 クラリアは、ディバートに気づかれるのではないかと気が気ではない。それに父であるミタルアムには何も話していないのだ。だから、父にも知られたくない。

「クラリア、早く告白しなさいよ。ディバートはしばらく忙しくなって、話をしている時間がなくなるかもよ」

 レーアがソッと耳打ちしてくれた。クラリアはギクッとしてディバートを見てから、

「本当に?」

とレーアに尋ねた。

「本当よ。彼、パルチザンの総隊長のメキガテル・ドラコンて人と会うつもりみたい」

「メキガテル・ドラコン?」

 クラリアはその言いにくい名前を鸚鵡返しに尋ねる。

「ええ。南北アメリカ州の元知事はどちらも連邦派なのよ。今が良い機会だから、戦力を結集して、一気に決着をって考えてるみたい」

「そうなんだ」

 何故かクラリアは悲しそうだ。

「どうしたのよ、一体?」

 レーアはクラリアを引っ張って部屋の隅に行った。するとクラリアは、

「だって、レーアはディバートと親しく話せるんだもの」

「何言ってるの、もう。貴女が話しかけないから、ディバートも話さないんでしょ。彼、見た目より奥手なんだから、貴女がドンドン行かないと」

「うん……」

 クラリアはレーアの助言をありがたく感じるのだが、そんな事ができるくらいなら、これほど悩んだりはしないと思っていた。

 タイタスは、レーアとクラリアがチラチラとディバートを見ながら話をしているのに気づき、剥れていた。

「何だよ、その顔?」

 イスターが声をかけた。タイタスは慌てて彼を見て、

「何でもないよ」

「そうかあ? レーアとクラリアを見て、不満そうな顔してたぞ、お前」

 イスターは妙なところが鋭い。タイタスは溜息を吐いた。

「何にしても、お前にはわからないよ」

「何だよ、それ?」

 イスターにはタイタスの言葉が謎で、意味不明に思えた。

「メックは今はまだそこまで動かない方がいいという結論らしいぞ」

 ナスカートがコンピュータのメールを読んでディバートに告げた。メックとは、メキガテル・ドラコンの事だ。

「そうか」

 ディバートは腕組みして考え込んだ。ミタルアムが、

「今は足元を固めるのが先決だろう。当面はグランドキャニオン基地攻略を基軸に据えて、作戦を展開する方向で行こう」

「はい」

 ディバートとナスカートは大きく頷いた。

「ダットスが残してくれた前線基地は位置的にも重要だ。あそこを抑えれば、グランドキャニオン基地攻略は今までの状態より楽になるだろう」

 ミタルアムがカメリスから受け取ったデータを見ながら言った。

「北アメリカの帝国軍は、理由は不明ですが、東海岸に集結しています。こちらに新たな戦力が投入される可能性は薄いですね」

 カメリスはナスカートとは別のコンピュータを操作しながら言う。

「何を始めるつもりなのかな?」

 ミタルアムが顎に手を当てる。ディバートとナスカートは顔を見合わせた。


 リタルエス・ダットスは、空軍の輸送機で帝都アイデアルに帰還していた。彼はすぐさま大帝府に出向いた。ザンバースから召集がかかったのだ。

「……」

 地下にある幹部会議室には、ザンバースとマリリア、そして補佐官のタイト・ライカスしかいなかった。ダットスは緊急の会議だと思って来たので、それを見てギョッとした。

(これは……)

 額を汗が伝わる。手も汗ばんで来た。

「座れ」

 ザンバースが無表情に告げた。ダットスは蒼ざめたまますぐそばの椅子に腰を下ろした。

「ダットス、どういう事だ? 何故前線基地を放棄した?」

 ザンバースは何かの資料に目を落としたままで尋ねた。ダットスは乾いた唇を何度も舐めてから、

「はい、基地の大半を奇襲で破壊されたので、それ以上の使用継続は不可能と判断し、撤収しました」

「副官からの報告内容と違うな」

 ザンバースはダットスを見た。ダットスは息を呑んだ。

(お、終わりなのか、私は……)

 汗が次々に額を流れ落ちる。心臓の鼓動が早くなり、ますます口が渇き、喉が焼けて来る。更に膝が震えて来た。

「ダットス」

 ザンバースの声に、彼はビクッとした。まるで小動物のようだ。それを見てマリリアがフッと笑う。

「帝国軍司令長官の任を解く」

 ザンバースはあっさりとそう言った。ダットスには理由を聞く勇気がない。彼は只ザンバースを見ている。ザンバースはニッとして、

「心配するな、ダットス。追放ではない」

「は、はあ……」

 ようやく、溜息とも返答とも取れない声がダットスの口から漏れた。ザンバースはライカスを見た。ライカスはそれに頷き、

「リタルエス・ダットス。本日付けで、火星基地建設の最高責任者の任を命ずる」

 ダットスはキョトンとしたが、

「は、はい」

と立ち上がり、敬礼した。

「火星に軍事工場を中心とした巨大基地を建設するのだ。それが如何なる意味を示しているか、わかるか?」

 ザンバースが尋ねる。ダットスはゴクリと唾を呑み、

「いえ」

 ザンバースは再びライカスを見た。ライカスはダットスを見て、

「最終的には、地球を捨てても、今の体制を堅持するという事だ。理解したか?」

「……」

 ダットスにもその意味が分かった。

(遂に核兵器を完成させたのか? 場合によっては、地球を汚染する戦いもするという事か?)

 彼はザンバースの途方もない決意に身震いした。

(事実上の左遷だな……)

 ダットスは、それでも追放されなくて良かった、と思っていた。しかし、追放の方が良かったと思う事が、彼を待っているのである。

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