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第四十章 その一 交錯する感情

 悪夢のような夜が明けた。

 

 サラミス基地に平穏が戻ったのは、夜が開けてしばらくしてからだった。

「これで全員か?」

 ディバートが暗殺団員を縛り上げながら尋ねた。ケイラス・エモルが、

「そうですね。いや、本当にお疲れ様でした。特にレーアさん」

 レーアは他の暗殺団員を縛っていたが、ケイラスに名前を呼ばれてハッとした。

「あ、いえ、そんな……。私、今まで足手まといでしたから」

 するとケイラスは笑って、

「謙虚なんですね、レーアさんは」

「今だけですよ。そのうち本性を現しますから」

 ナスカートが小声で言うと、

「ナスカート、悪口はよく聞こえるのよ」

 レーアがぴしゃりと言う。ナスカートは肩を竦めて、

「大変申し訳ありません、レーアさん」

(おど)けて言った。


 一方、屈辱的な結果に終わった暗殺団首領ドードス・カッテムは、ザンバースの命令で自らサラミス攻略に乗り出した。彼は有能な部下であるエレイム・アラガスの凱旋を信じていたため、グランドキャニオン基地からも遠く離れた場所で待機していた。そのため、レーア達がいるサラミスに行くには、半日はかかってしまう。陸上部隊のみの編成にしたため、空路を使えないのだ。しかも空路を使うには、あの忌ま忌ましいリタルエス・ダットスに頭を下げなければならない。

(そこまでして、俺はのし上がろうとは思わん。もし、この戦いで失脚するのであれば、自分はそこまでの器だと思えばいい)

 出世欲の塊であるダットスを蛇蝎の如く嫌うドードスならではの考え方だ。

「アラガスは、自分達に完全に有利な戦い方を選択し、それ故に驕りがあった。だから負けた」

 ドードスは部下達に訓示した。

「我々は奇を(てら)った戦法は使わない。正面から渡り合う。戦闘のプロである我々なら、たかがパルチザンの若造などに負ける道理がないのだ。正面突破だ。サラミスはそれで落とす」

 部下達はドードスがダットスへの意地で戦うつもりなのを憂えていた。ドードスの実直などころは皆尊敬しているが、融通の利かないところがあるのが欠点だと思っている。

「意地や面子で戦いに勝てれば苦労はないさ」

 部下の誰かがそう呟いた。


 ディバートが中心になり、グランドキャニオン基地奪還作戦の会議が開かれていた。

「グランドキャニオン基地は難攻不落が売りだった。まさか我々がその基地を攻略しなければならないとは夢にも思わなかったよ」

 ケイラスが言った。ディバートはその言葉に頷き、

「そうだな。グランドキャニオン基地にいた者は全員帝国軍に討たれてしまったので、内部の状況は全く把握できていない。ケスミー財団の監視衛星から送られて来た画像にも、ほとんど情報がない。グランドキャニオン基地はまだ展開していないと考えるべきだが、帝国軍の罠の可能性もある」

 するとナスカートが、

「それよりさ、暗殺団の連中、あいつら先発隊だって話だぞ。本隊がまだどこかに潜んでるんじゃないか? グランドキャニオン基地攻略より先にそいつらがここに攻めて来そうな気がするぞ」

 ディバートはケイラスと顔を見合わせる。他のパルチザン達も不安そうに囁き合った。 

「確かに。それは考えられる。しかも、先発隊がしくじったのは気づいているだろうから、更に大部隊で攻めて来るな」

 ケイラスが言う。ディバートは腕組みして、

「また暗闇を利用して攻められるとまずいな。みんなかなり疲れているから、今回のような具合にはいかないぞ」

「私は大丈夫! ドンと来いよ」

 レーアが胸を張る。でも他の者はウンザリした顔をしていた。

(いかんな。この基地の連中は、あれほどの緊張感を味わった事がないんだ。今まで補給がメインの基地だったからな)

 ディバートはこれ以上の本格的な戦闘にこの基地のメンバーが耐えられないのを悟った。

(ケスミーさん達が早くこちらに来てくれるのを祈るしかないな)

 薄氷を踏む思いのディバートだった。しかし、その薄氷がまもなく砕かれるのだ。


 ドードス達の部隊はグランドキャニオン基地を通過し、サラミスまで後わずかの位置に来ていた。

「何だと?」

 ドードスは通信士の報告に耳を疑った。

「そのような事は聞いていないぞ。間違いないのか?」

 ドードスは声を荒げて通信士に詰め寄った。通信士はビクッとして、

「間違いありません。わざわざ暗号で送られて来たメールです」

とプリントアウトしたものを差し出した。ドードスはそれを引ったくるように受け取り、

「あの男、どこまで図々しいのだ」

と歯軋りした。

 通信の内容は、ダットスが帝国軍の空軍と陸軍の各一個大隊を率いて、ドードスの援護に出発した、というものだったのだ。ドードスにしてみれば、ダットスの横槍、あるいは嫌がらせとしか思えない。

「補佐官に確認しろ。ダットス長官の動きは大帝からの命令なのかどうか」

「はっ」

 通信士は機器に向き直った。ドードスは怒りで我を忘れそうだった。

(ダットスめ、マルサスばかりでなく、この私まで追い落としたいのか……)


 その当のリタルエス・ダットスは、陸軍の大隊の中心を走る装甲車の中にいた。

「空軍はすでにサラミス上空に到達しています」

 通信士が報告した。ダットスはニヤリとして、

「そうか。待たせておけ。先陣はカッテムに切らせる。奴が敵基地を落とす直前に割って入るだけでいい。それほど真剣に戦う必要はない」

と告げた。彼は「漁父の利」を得ようとしているのだ。


 ミタルアム・ケスミー達は、ケスミー財団の大型輸送機で太平洋上空を移動中だった。

「監視衛星が空軍の展開を捉えている。アルター君達には伝えたが、更に陸軍も同じくサラミス基地に向かっているらしい」

 ミタルアムの話にクラリアは目眩がしそうだ。

(レーア……)

 彼女は親友の身を一番に案じたが、それと同じくらい愛する男の事も心配だった。

(ディバート……)

 クラリアはまだ夜が明け切らない外に目を向けた。

「少し眠りなさい、クラリア。身体が保たないぞ」

 父が娘を心配して告げる。娘は力なく微笑み、

「ありがとう、お父様」

と応じた。父はその娘の様子に何か気がかりな事があると悟ったが、追求はしなかった。

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