第三十七章 その二 レーア進撃
「さてと。生まれて初めてのドンパチだけど、一日限りで死んじまうのは願い下げだぜ」
タイタスは軽機関銃を装填し、構えた。イスターもバズーカ砲に砲弾を詰め、構える。
「来るわっ!」
レーアが叫ぶ。敵の攻撃の方が早かった。ホバーカーとホバーバギーは銃撃をかい潜りながら敵との距離を詰めて行く。
「食らえっ!」
タイタスが機関銃を撃つ。陸戦隊の装甲車は弾丸を弾いてしまう。
「ならばっ!」
イスターがバズーカ砲を撃った。砲は装甲車の一台を撃破した。しかし、まだ装甲車はうんざりするほど走って来る。
「こんなんじゃやられちまうぞ」
タイタスが呟く。
「カメリスさん、前に出て。私に考えがあるわ」
レーアが囁いた。カメリスは前方を見据えたままで、
「わかりました」
と応じ、アクセルを踏み込んだ。途端にレーアの乗るホバーカーが他より前に出た。レーアは身を乗り出して立ち上がり、
「さァ、私がレーア・ダスガーバンよ! ここは通らせてもらうわ!」
とバズーカ砲を肩に担ぐ。
陸戦隊の装甲車の乗員は困惑していた。レーアは絶対に殺すなとラルゴーに厳命されている。ましてや、地球帝国の大帝であるザンバースの愛娘だ。ラルゴーの命令などなくても、殺せるはずがない。
「退きなさい!」
レーアがバズーカ砲を撃った。砲弾は命中せず、彼女は後ろにひっくり返った。
「大丈夫ですか、レーアさ……」
カメリスは心配になって振り返り、慌てて前を向いた。レーアのスカートが捲れ上がり、丸見え状態だったのだ。
「いったァ……」
レーアは頭を撫でて起き上がった。レーアは後ろを見て、
「散らばっていると狙い撃ちにされるわ! 一列縦隊に並んで、左右に撃ち分け、敵の分散を計って!」
ホバーカーやホバーバギーはすぐさまレーアの乗るホバーカーの真後ろに一列に並び、左右に砲や機銃を構えた。
「行けーっ!」
レーアがバズーカ砲を放つと同時に、他のパルチザン達が一斉に攻撃を開始した。陸戦隊の装甲車が次々に爆発する。レーアの作戦が当たった。装甲車は隊列を乱し、互いに激突し合うものが出始めた。
「やった、敵が混乱している!」
タイタスが叫んだ。ステファミーとアーミーは手を取り合って大喜びしている。レーアは装甲車に向かって敬礼し、
「じゃあね。行かせてもらうわよ」
と叫ぶ。ホバーカーとホバーバギーは砂塵を巻き上げて砂漠の彼方へと消えた。
「何ィッ!? 陸戦隊が突破されただと!?」
ラルゴーは葉巻を床に叩きつけた。そして、
「愚か者め! 早過ぎるわ! こちらの準備の時間も稼げぬとは何とも情けない連中よ」
と怒鳴り散らした。部下の一人がそこへ現れ、
「パルチザン共を迎える罠の準備が整いました」
「うむ。すぐ行く」
ラルゴーは不敵な笑みを口元に浮かべた。
「ここから五十キロ先のオアシスの中にオセアニア州の帝国軍の司令本部があります。どうしますか、レーアさん?」
カメリスが顔を赤らめて三次元地図を渡した。彼は先程の「事故」を思い出してしまったのだ。レーアはそんな事を全く気づくはずもなく、地図を受け取り、
「司令本部はこちらから行くと、オアシスの北の端にあって、その後方が急斜面の砂漠なのね」
「そうです。かなり高低差がありますね」
カメリスは地図を見ながら言う。レーアは地図を見渡して、
「私がラルゴーなら、一体どんな罠を仕掛けて待つかしら?」
クラリアが心配そうに、
「あんまり無茶しないでよ、レーア。貴女、本当に危なっかしいんだから、昔から」
するとレーアはハッとしてクラリアを見た。
「それだ!」
「えっ?」
「危なっかしい方法で行くわ。ラルゴーの裏をかくのよ」
クラリアはポカンとしてカメリスと顔を見合わせた。