表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/240

第三十七章 その一 オーストラリア転戦

 北アメリカ大陸の東岸に面してそびえ立つ巨大な旧連邦ビル、すなわち現在の地球帝国大帝府では、幹部会議が招集されていた。

「ケスミー財団が動き出した。そして奴らはオーストラリアへ向かっている。ラルゴーのバカ者の目立ち過ぎる戦闘のせいでだ」

 ザンバースは冷ややかに、しかし苦々しく言った。リタルエス・ダットスはすっかり恐縮して、

「あの成り上がりの大バカ者には、本当に困っております。自己の感情の赴くまま戦いを進めては、どっち付かずの浮き草共が皆パルチザンについてしまいますから」

「その通りだ。私が一番恐れているのは、反乱軍の力ではない。無知な大衆の浮動性だ。奴らは無知故にしがらみを持たず、人との関係などあっさりと切り捨ててしまう。いつ何時、勢力図が逆転するとも限らんのだ。そうなる前にラルゴーのような有害な部下を粛清しろ」

 ザンバースはドードス・カッテムを見た。彼は暗殺団の首領である。彼は黙って頷いた。


 レーア達はイサグ達の焼かれた遺体の残骸のある付近に着陸し、呆然としていた。

「遅かったか……」

 イスターが歯軋りして呟く。ミタルアムは辺りを見回して、

「ディバート君とナスカート君の搭乗機が残されている。二人の姿は見当たらんから、連行されたようだな」

「ディバートとナスカートが?」

 レーアは仰天してミタルアムを見た。クラリアもギクッとする。

「大丈夫かしら?」

「大丈夫だろう。二人を殺さなかったという事は……」

 ミタルアムはそこで口籠る。レーアが空を見上げて、

「彼等の狙いはこの私。という事ですよね?」

「……」

 一同は悲しそうにレーアを見た。レーアは作り笑いをして、

「私って役に立つでしょ? 私がいるせいでみんなに迷惑をかけるけど……」

「レーア!」

 クラリアが涙声で叫び、レーアを抱きしめた。ミタルアムは二人の肩に手をかけ、

「さァ、みんなの遺体を手厚く葬ろう」

「はい……」

 レーア達は遺体に目を向けた。それはもはや人間の形を成していなかった。肉塊だったのである。


 メムール・ラルゴーは得意満面で本部に帰り、自室に入るとソファにくつろいだ。

「ディバート・アルターとナスカート・ラシッドという餌なら、必ずレーアが食らいついて来る」

 彼は悪魔的な微笑みを浮かべて呟いた。そして、

「二人を本部前の庭に吊るし上げろ。パルチザン共によく見えるようにな」

と部下に命じた。


 ディバートとナスカートは、滑車のついたポールに縄で縛られた両手首を吊るし上げられ、宙に浮かんでいた。

「両手首が千切れるのが先か、仲間が助けに来るのが先か。見ものだな」

 ラルゴーは窓から見える二人を見下ろした。

「レーアが現れたら、他の者は皆殺しにしろ。レーアのみを生かして捕えるのだ。大帝への最高の戦利品になる」

 ラルゴーの目は狂気の目であった。


 レーア達はホバーカーやホバーバギーを駆って、砂漠を疾走していた。砂塵を巻き上げて、十台の車両が疾走し、ラルゴーの待つオセアニア州帝国軍の司令本部を目指していた。

「罠だわ、レーア。これは貴女を釣る罠よ」

 クラリアが叫ぶ。しかしレーアは風で乱れる髪を撫で付けながら、

「わかってる。でも、だからと言って二人の命を見捨てる訳にはいかないわ」

「それはそうだけど」

 クラリアは不服そうだ。タイタスとイスターは何か叫んでいたが、ホバーの巻き起こす爆音で何も聞こえなかった。堪りかねたタイタスが、前を指差す。

「えっ?」

 レーアとクラリアは前を見た。運転していたザラリンド・カメリスが、

「ラルゴーの陸戦隊ですね。ちょっと厄介だな」

 ステファミーとアーミーはキャアキャアと大騒ぎだ。レーアはキッと前を睨みつけ、

「メムール・ラルゴー。貴方のやり方は断じて許せない!」


 ディバートとナスカートの縛り上げられた手首が、じわじわと血を滲ませ始めていた。

「くっ……」

 二人の額を汗が伝わる。ラルゴーは葉巻に火を点けて窓から二人を見下ろし、

「レーア、早く来ないと、二人の手首が千切れるぞ」

と呟き、ニヤリとした。そこへ部下の一人が入って来て敬礼し、

「北アメリカ州から来た輸送機から出て来た一団が、こちらに向かっているとの情報が入りました!」

「そうか。やっと来たか」

 ラルゴーは葉巻を窓の外へ投げ捨て、

「総員、戦闘配備だ。レーア・ダスガーバンを必ず生きた状態で捕まえろ」

 部下はかかとをカチンと合わせて、

「はっ!」

と応じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ