第三十六章 その一 新たなる戦い
丘陵を次々に装甲車が下って来る。しかし、イサグ達にはなす術がない。
「畜生、こんなところで死ぬのか……」
イサグは歯軋りした。
(兄貴……)
イサグはリームの死を知らされていない。
(兄貴、助けてくれ。俺は今、本当に怯えている。死に直面した時の恐怖って奴を味わわされている)
イサグの額を汗が伝わる。
「さァ、早く選べ。どちらを選ぶにしても、地獄が待っているがな」
メムール・ラルゴーが大声で言い、高笑いをする。
「イサグ、どうするんだ? 降伏するのか?」
パルチザンの一人が囁く。しかしイサグは、
「いや、降伏はしない。死んだってするもんか!」
と叫んだ。ラルゴーはそれを聞きつけて、
「バカめ。ならば死ぬがいい!」
と右手を前に振り、攻撃の合図をした。装甲車から兵が姿を現し、銃を構えた。
「イサグ!」
一同はイサグを見た。しかし、イサグは微動だにしなかった。
(降伏は負けを意味する。奴ら旧帝国の亡霊共に負けてたまるか!)
「撃てっ!」
ラルゴーが右手を振り下ろす。その時である。装甲車に機銃掃射が浴びせられ、何人かの兵が倒れた。
「何ィッ!?」
ラルゴーは仰天して空を見上げた。そこには、MCMー208と209がホバーリングしていた。
「間一髪だったな、イサグ。もう大丈夫だ。こいつら、蹴散らしてやるぜ」
マイクを通して、ナスカートの声が響く。パルチザン達に笑顔が戻る。イサグも喜んで空を見上げた。
(兄貴達か?)
「ぬうう、援軍か?」
ラルゴーは歯をギリギリと軋ませ、悔しがった。機銃掃射が再び始まり、ラルゴー軍は散り散りに逃走を始めた。ラルゴーは装甲車の中に避難し、
「急進派め! 空軍もいるのだという事を思い知らせてやる」
彼は通信機を掴んだ。
ラルゴー軍が丘陵の向こうに消えると、MCM二機は砂漠に着陸した。イサグ達はすぐさまそのそばに走った。
「久しぶりだな、イサグ」
ディバートがコクピットから出て言った。イサグはニッとして、
「ディバート。元気そうだね」
「ああ」
「よっ! イサグ」
ナスカートがコクピットから飛び降りた。イサグはナスカートに目をやり、
「ナスカート! 相変わらず、女癖が悪そうだね」
「バカヤロウ! 他人聞きの悪い事を言うなよ」
一同は大笑いである。イサグは笑うのをやめて、
「兄貴は? 北アメリカに残ったのか?」
とディバートを見た。ディバートは思わずナスカートと顔を見合わせた。
レーア達は、ケスミー邸の地下の一室に集まり、作戦会議を開いていた。
「各州のパルチザンを北アメリカ州に集結させ、首都アイデアルを攻撃するのが最善の策だが、それには各州全てを解放しなければならない。ザンバースが他の帝国支配下の州に移ってしまっては何もならないからね」
ミタルアムが説明した。レーアはパネルスクリーンに映し出された地球全図を見て、
「今、ディバート達がいるオーストラリア大陸は、中でも一番危険なんじゃないですか? パルチザンが全滅寸前だとか?」
「そう。だから、南アメリカ州のパルチザンが救援に向かったが、あそこの元知事のラルゴーという男は、少々病的な男でね。市民の巻き添えなんて少しも気にしないんだ。今、叩くべきは、やはりオセアニア州であると思う」
ミタルアムは棒で地図上のオーストラリア大陸を差した。
「で、どうするの?」
クラリアが尋ねる。ミタルアムはニヤリとして、
「我がケスミー財団は、帝国より遥かに技術が進んでいるよ。大型輸送機を使って、オーストラリア大陸へ向かい、一気にラルゴー軍を壊滅させる」
タイタスが腕組みをして、
「でも、北アメリカ州から抜け出すのも骨が折れるって言うのに、一体どうやってオーストラリア大陸まで行くんですか?」
「もちろん、危険がないと言えば嘘になる。しかし、今は戦争をしているんだよ。もしどうしても死ぬのが嫌なのなら、家に帰った方がいい」
ミタルアムはキッパリと言い、一同を見渡す。誰も動く者はいない。ミタルアムはフッと笑い、
「安心したまえ。ケスミー財団が誇る大型輸送機は、ミサイルの直撃でも受けない限り、決して撃墜されたりしないよ」
「何だ、心配して損しちまったよ」
タイタスが肩を竦めて言ったので、一同は大笑いした。レーアも思わず笑ってしまった。