第三十五章 その三 メムール・ラルゴーの逆襲
太陽がほとんど真上に来ている空を、ディバートとナスカートの操縦する戦闘機が飛行していた。二機はオーストラリア大陸の北端に差しかかったところである。
「朗報じゃないか。イサグ達、南アメリカ州の仲間に助けられたんだって?」
ナスカートが言うと、ディバートは、
「ああ。しかし、ラルゴーという男、転んでも只では起きない事で有名らしいから、このままですむとは思えない」
「確かにな。このままですんだら、俺達の出番もないしな」
ナスカートの冗談にディバートは呆れて、
「お前は本当に緊張感がないな」
ナスカートは苦笑いした。
そして、二機の戦闘機は、オーストラリア大陸へと降下して行った。
レーアは、タイタス達がクラリア達と楽しそうに夕食を食べている中で、一人黙って虚空を見つめていた。
「どうしたの、レーア、ボーッとして?」
アーミーが言うと、レーアはハッとして、
「あ、ああ、ごめん。ちょっと私、頭の中身がどこかに行ってたみたいね」
「ボーッとしているのは、アーミーの専売特許だぜ、レーア」
とタイタスが言ったので、アーミーはプーッと頬を膨らませて、
「うるさいわね!」
「タイタスの言ってる事、当たってるわよ、アーミー」
ステファミーが口を挟む。アーミーはムッとしてステファミーを睨むと、
「何よ、ステフまで!」
レーアはそんな三人のやり取りに少し笑顔を見せた。彼女はフォークで料理を取り、自分の皿に載せようとして、その皿を割ってしまった。
「あっ!」
レーアは驚いて声を上げた。クラリアが笑って、
「ったく、レーアったら、馬鹿力なんだから」
「ごめーん」
レーアは舌を出して笑ったが、心の中は不安でいっぱいだった。
(不吉な予感がする……)
イサグ達の戦車隊は、大陸内部へと向かいながら、いくつかの小さな帝国軍の基地を壊滅させ、少しずつその戦力を増大させていた。
「このまま大陸を縦断して、東アジアまで行くか?」
パルチザンの一人が冗談めかして言うと、イサグがそれを受けて、
「東アジアと言わず、ヨーロッパ、そして最後は北アメリカだ。ザンバースの首は、俺が獲ってやる」
一同はドッと笑った。やがて戦車隊は砂漠に差しかかった。
「夜になる前に何とか砂漠を抜けたいな」
イサグが真顔になって呟くと、女性のパルチザンの一人が、
「そうだね。砂漠の夜は厳しいからね」
戦車隊が大きな丘陵の間、つまり谷のようになっているところに出た時だった。
「全員、戦車を放棄し、武器を捨てろ。スーパーナパームが貴様らを狙っているぞ」
ラルゴーの声が響いた。イサグ達はギョッとして周囲を見た。丘陵の一角に装甲車が現れた。
「戦争の仕方を知らぬ愚か者め。これは最後通告だ。降伏か、死か。いずれか好きな方を選べ」
ラルゴーは装甲車の上から勝ち誇ったような顔で拡声器越しに怒鳴った。イサグ達は仰天して、
「奴ら……。どうしてここに?」
イサグ達は忘れていたのだ。オセアニア州の帝国軍には、南氷洋方面軍があるのを。
「何て事だ……」
イサグ達は丘陵の間で、ラルゴー軍にすっかり囲まれていた。