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第三十五章 その二 混戦! オーストラリア戦線

 ザンバースは大帝室でライカスと話をしていた。

「アフリカ大陸の北岸で、西アジア州に残ったパルチザン共が、奇襲作戦を展開しており、砂漠に配備した機甲師団が反撃に向かっております」

「それは一体いつの話だ?」

 ザンバースは目を細めて尋ねる。ライカスは書面を見て、

「そ、それが、二日前の事です。私のところに連絡が入ったのが、つい先程でして」

「バカな事を考えている男が一人いるようだな」

 ザンバースは大帝室の壁に掲げられた帝国の国旗を眺める。ライカスはハッとして顔を上げ、

「ダットスが?」

「奴ではない。恐らく、タムラカス・エッドスだろう。帝国軍アフリカ師団の司令官だが、奴は傭兵を父に持つ男だ。今一つ信用ができぬ」

 ザンバースはライカスを見た。ライカスは冷や汗を垂らしながら、

「しかし、何のために連絡を遅らせたのでしょう?」

「それは援軍が来るのを恐れたからだ。一進一退を続ける戦いの方が死ぬ確率は低い。奴が私に刃を向ける危険性は低いが、全面的に協力するかは大いに疑問だ」

 ザンバースは椅子を軋ませて背もたれに寄りかかる。

「それより、あの女の方はどうだ?」

 ライカスはハッとして、

「カレンですか? 今はそれほど動きは見られませんが……。ドッテルと接触している様子もありません」

「そうか。それならばいいが」

 ザンバースは窓の外に目を向けた。大西洋の遥か彼方に美しい水平線が見える。

(レーア、お前は今何をしている?)


「戦車隊が近づいているぞ」

 パルチザンの一人が双眼鏡で眺めながら言った。イサグ・レンダースも瓦礫の陰から顔を出し、

「とうとう餓死寸前の俺達に止めを刺しに来るって事か」

 戦車隊が進撃して来る遥か向こうに見えるビル群の間に朝日が見える。イサグは朝日に目を細め、

「朝日の見納めだな。よく見ておこうぜ」

と言うと、バズーカ砲を肩に掛けた。他のパルチザン達も、ライフルやバズーカ砲、対戦車砲を手にした。


「撃て!」

 戦車の一輛に搭乗しているラルゴーの命令で、砲門が一斉に火を噴く。イサグ達の反撃が始まり、多くの光束や砲弾が飛び交った。


 しかし戦車の砲弾は、催眠ガスで、パルチザン達はたちまち眠りに落ちた。

「く……。何だ……」

 イサグはバズーカ砲をガクッと落とし、倒れ伏した。


 ラルゴーは戦車から身を乗り出し、

「全員、縛り上げろ。海岸まで連行して、銃殺にするのだ」

と叫んだ。


 レーア達は、正午過ぎにアイデアルのケスミー邸に到着した。回り道をし、ホバータクシーを乗り継いだので、行く時より時間がかかった。

「レーア、久しぶりに会えるわよ」

 クラリアが玄関のドアに手をかけて言う。レーアはキョトンとして、

「久しぶりに? 誰?」

 ドアが開けられると、中から人が出て来た。レーアはハッとした。それは高校のクラスメートのステファミー・ラードキンスとアーミー・キャロルドだった。

「レーア、久しぶりね」

 ステファミーとアーミーは声を揃えて言った。

「ステファミー、アーミー!」

 レーアは嬉しくて二人に抱きついた。二人もレーアを抱きしめた。更にその後ろから、タイタス・ガットとイスター・レンドが現れた。

「やあ、レーア、久しぶりだな」

「タイタス! イスター!」

 レーアはタイタスとイスターにも抱きついた。二人はレーアの膨らみを感じて、顔が真っ赤になった。レーアはそんな事には全く気づかず、クラリアを見ると、

「みんな、どうしてここに?」

「貴女がいない間に状況が一変したのよ。アイデアルもすっかり変わってしまったわ。十代、二十代の人達は、帝国軍に入るか、パルチザンになるかの二者択一を迫られたの。で、この四人はパルチザンを選んだ訳」

 クラリアが説明した。ステファミーが、

「レーアと敵になるなんて嫌だもん。ね、アーミー?」

 ステファミーが言った。アーミーはニッコリして、

「そうよ」

「ありがとう」

 レーアは涙ぐんだ。するとイスターは、

「タイタスなんか、地球中を敵に回しても、レーアと一緒に戦うって言ったんだぜ」

「バ、バカ、それをここで言うな!」

 タイタスは真っ赤になって慌てる。レーアはタイタスを見て、

「ありがとう、タイタス。大好きよ」

「お、おう……」

 タイタスはまともにレーアの顔が見られない程照れていた。


 朝日がすっかり高くなった頃、オセアニア州の州都キャンベルの港で、イサグ以下十人の男女が、ちょうど身長と同じくらいの高さの棒に縛り付けられていた。ラルゴーは葉巻をくわえて、海を睨んでいる。港にはパルチザンが乗っている潜水艦が二隻、停船していた。

「ゲリラのブタ共! よォく聞け! これから貴様らの仲間を一人ずつ銃殺する。それが嫌なら、潜水艦を放棄して、陸に上がれ」

 潜水艦の乗員は全員、甲板に姿を現した。ラルゴーは戦車隊に機銃を用意させ、戦車の後ろに回らせていた。

「いいか。連中が潜水艦から離れたら、まず(はりつけ)にした奴らを銃殺し、救援に来た連中を悔しがらせてから、機銃で撃ち殺す。いいな?」

「はっ」

 戦車隊の隊長はニヤリとして応じた。ラルゴーはフーッと煙を吐いた。

 南アメリカ州のパルチザン達は、ゴムボートに乗り込み、潜水艦を離れた。

「今だ! 磔にした連中を銃殺しろ!」

 ラルゴーが指示すると、マシンガンを携帯した歩兵達がダッとイサグ達の前に整列し、マシンガンを構えた。

「貴様ら!」

「やり方が汚いぞ!」

 ゴムボートのパルチザン達が叫ぶ。ラルゴーは葉巻を海に投げ捨て、

「バカめ。オレの言葉を信用するのか悪いんだよ」

と戦車に乗り込む。まさにイサグ達がマシンガンの餌食になろうとしたその瞬間、潜水艦の二隻から十人のパルチザンが飛び出し、歩兵達を撃った。歩兵達は慌てて身を伏せ、撃ち返したが、虚を突かれたため、たちまちやられてしまった。

「くっ!」

 ラルゴーは素早く戦車の陰に隠れた。

「まだネズミが隠れていたのか!」

 その隙を突き、ゴムボートは接岸した。パルチザン達はサッと陸に上がり、イサグ達を解放する。ラルゴー達は潜水艦上のパルチザン達によって、動きを封じられていた。

「あんたの汚いやり口は、知事時代から有名だったからな。引っかかったふりをしたのさ」

 潜水艦の上のパルチザンが言った。

「おのれ!」

 ラルゴーは歯軋りした。

「やったな!」

 イサグはようやく意識を回復し、救援部隊と握手を交わしていた。ラルゴーは他の部下達と共に縛り上げられて、逆に棒に括りつけられた。

「今度はお前が飢える番だ、クソヤロウ。そこで何日も日に当たっているがいいぜ」

 イサグはラルゴーの顔に唾を吐きかけ、クルリと背を向けると、帝国軍オセアニア師団の戦車に乗り込んだ。

「よォし、これで他の大陸方面軍の基地を叩くぞ」

 イサグ達は戦車を発進させた。

「甘いな、小僧共。この俺を殺さずに行くとは……。この借り、何倍にもして返してやるぞ」

 ラルゴーはニヤリとして言った。


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