第三十三章 その三 オーストラリアへ
オセアニア州で戦う亡きリーム・レンダースの弟イサグ。彼等は戦車部隊が完全に停止してしまったのを知った。
「やったぜ! 勝った!」
パルチザンの一人が叫んだ時である。彼を含め、何人かの男女が、空からの機銃掃射で倒れた。イサグは仰天して上を見た。
「ああっ!」
上空には、合わせて十機の戦略爆撃機KCMー640と650がいた。KCMー640と650は、MCMー208と209より航続距離が長く、一周り小さい爆撃機である。機銃はそれほど変わりはないが、ステルス(レーダー無力化)機能がやや上回っている。
「い、いつの間に……」
イサグはレーダー係を見た。レーダー係は小型レーダーを覗き込んで、
「何も映らなかったぞ。誓ってもいい!」
イサグは再び空を見て、
「そうか、ステルス化された爆撃機だ」
KCMー640と650は再び機銃掃射を開始した。イサグ達は機銃の中を縫うようにして走った。
「とにかく、基地まで戻らない事には、奴らは落とせねえ」
イサグは走りながら呟いた。基地に向かう間にも、何人もの仲間が銃弾に倒れた。
「くそう!」
イサグ達は弾を避けながら走り続けた。
「オーストラリアには、どうやって行くんですか?」
ナスカートがアトランティックエクスプレスの中で尋ねた。ミタルアムは彼とディバートを見て、
「北アメリカ州も、ずっと何も起こらないでいた訳ではない。君達がヨーロッパで戦っている間に、小さなものだが、少しずつ反撃を開始してね。北アメリカ州の西岸の基地を占拠した」
「なるほど」
ナスカートは大きく頷いて言った。ディバートが、
「すると、そこに航空機があるんですね?」
「そういう事だ。MCMー208と209が一機ずつある。空中給油機もあるから、オーストラリアまで一気に飛べるよ」
「そうですか。間に合うといいが……」
ディバートが言うと、レーアがキッとして彼を睨み、
「間に合わせるの! 何を弱気な!」
と怒鳴った。ディバートは苦笑いして、
「そうだったな」
クラリアは二人の会話を見て、不安そうだ。
(男の人達はみんな、レーアに気があるのかな?)
五人はしばらくして、アイデアルの地下にある巨大な駅に到着した。
「アイデアルはまだ正午を少し回ったところだ。アトランティックエクスプレスは最初の計画通り、地球の自転と同じ速度で走っているからね」
時速にすると約千七百キロである。音速を超えるスピードが出せるのも、真空状態のパイプの中を走るからだ。
「そいつは凄いや」
ナスカートは感心して口笛を吹いた。
「そうとわかっていたら、もっと寝ておくんだったな」
するとレーアが、
「何言ってるのよ。ディバートの服にヨダレを垂らしてグーグー寝てたじゃないの」
とすかさず突っ込む。ナスカートは照れ笑いして、
「そ、そうだっけ?」
ディバートはナスカートを見て笑っている。そのディバートに、クラリアがまた熱い視線を送っていた。でもそれはレーアすら気づいていない。
「ここからホバーカーで地下道を通って、私の邸まで行く。そこに自家用のジェット機が二機あるから、それで西部地方区に向かう」
ミタルアムはプラットホームを歩きながら説明した。
イサグ達は、その数を三分の一程に減らして、ようやく基地に辿り着いた。しかし、すでに基地は瓦礫の山になっていた。
「ううっ……」
イサグは意を決して空を睨んだ。二種の戦略爆撃機は彼等の頭上でホバーリングしている。
「奴ら、どうして撃って来ないんだ?」
イサグは呟いた。
「皆殺しにはするな。たった今、南アメリカ州の帝国軍から連絡があった。パルチザンのバカ共が、潜水艦を二隻強奪してこちらに向かったと言う。奴らに手出しさせぬために、生き残った連中を人質にしろ」
オセアニア州の元知事にして、オセアニア州帝国軍の司令官であるメムール・ラルゴーは部下達に命じた。しかし、彼はもっと別の事を考えていた。
(これだけ派手な戦い方をすれば、敵のトップが必ず現れる。その中には、絶対にレーアがいるはずだ。大帝の愛娘のな)
ラルゴーはレーアを手に入れ、ザンバースに取り入る事を考えていた。
「レーアを手に入れたら、奴らは皆殺しだ」
ラルゴーの狂気の野望が、キャンベル一帯に妖気を漂わせていた。
レーア達は、ケスミー邸の地下格納庫に来ていた。ディバートとナスカートは、ジェット機を見上げていた。
「こいつは……。戦闘機並みの装甲だ」
ディバートがジェット機を触って言った。するとミタルアムが、
「そうだ。場合によっては、迎撃もできるように機銃が収納されている。何としても西部地方区へ行き、オセアニアに飛んでくれたまえ」
「はい」
ディバートとナスカートはミタルアムを見て応じた。ミタルアムはレーアとクラリアを見て、
「我々はホバーカーでケベック地方区に行く。リトアム・マーグソン師がそこにいる」
「はい」
レーアとクラリア頷いて応じた。ナスカートが不安そうに、
「大丈夫なんですか、こんなところから飛び立って?」
ミタルアムはフッと笑い、
「大丈夫だよ。対レーダー装置があるから、この辺一帯はレーダーは無力だよ」
「そうですか」
五人はそれぞれの目的のため、行動を開始した。