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第三十三章 その二 イサグ・レンダース

 ディバートがミタルアム・ケスミーに近づき、

「その遺言状はどこで発見されたのですか?」

 するとミタルアムは苦笑いして、

「正確に言うと、発見された訳ではないんだよ。実はその遺言状は小さなカプセルに入れられていてね。二千四百八十三年の春、私がエスタルト総裁から預かったものなんだ。『私が死ぬとカプセルが開くようになっている。その時、中身をレーアに渡して欲しい』と頼まれていた。しかし、私はその事をすっかり忘れていて、カプセルをしまいなくしていたんだ。それで、実際にエスタルト総裁が亡くなって、それを思い出し、邸のあちこちを探して、金庫の奥で眠っているのを見つけたんだよ」

 ナスカートが立ち上がり、

「しかし、よくアイデアルからここまで来られましたね」

「アトランティックエクスプレスが完成したのよ」

 クラリアが言った。すると何故かナスカートが赤面した。

 アトランティックエクスプレスとは、大西洋の海底トンネルを走る超特急である。

「えっ? だって、アトランティックエクスプレスは、工事半ばで岩盤貫通作業ができなくなって計画中止になっていたはずでは?」

 レーアが涙を拭って言った。するとクラリアはウィンクして、

「それは表向きよ。アトランティックエクスプレスが軍事目的に利用される事を恐れたエスタルト総裁が、父と相談して秘密裏に工事を進めさせていたの」

 ナスカートはクラリアのウィンクにまた赤面した。

「フーン」

 レーアが感心して大きく頷いた。ナスカートはクラリアを眩しそうに見ながら、

「じゃ、じゃあ、俺達が北アメリカ大陸に乗り込むのも簡単て訳か」

と言うと、ミタルアムが、

「確かにそうだが、それは逆に帝国の本隊をヨーロッパに導きかねない。少人数で移動する以外、アトランティックエクスプレスは使用しないのが賢明だよ」

「そうですか」

 ナスカートは残念そうに頭を掻いて、何故かクラリアに愛想笑いをする。クラリアはキョトンとしたが、何となく微笑み返した。ミタルアムはレーアを見て、

「とにかく、すぐにリトアム・マーグソンと言う人に会いに行こう。戦争を少しでも早く終わらせるためにね」

「はい、おじ様」

 レーアは力強く頷いた。


 オーストラリア大陸。人類、いや(いにしえ)の西洋文明が浸透するのが最も遅かった大陸である。そのオーストラリア大陸の南東部にあるオセアニア州の州都キャンベルでは、パルチザン・共和主義者のゲリラ軍と、帝国軍の戦車部隊が市街戦を展開していた。

「奴らの髪の毛一本も残すな。全て焼き尽くせ!」

 戦車の一輛で通信機に怒鳴っているのは、オセアニア州元知事のメムール・ラルゴーである。知事時代は見事に猫を被っていて、帝国になった途端にその本性を現し、残虐非道なやり方でパルチザンを攻撃した。彼は市民が巻き添えになる事など一向に気にする事なく、ビルごと破壊させた。そのため、多くの市民達が巻き込まれて死に、キャンベルはゴーストタウンに後一歩まで来ていた。


「畜生、何て事だ!」

 対戦車砲を担いだままで叫んだ男がいた。彼の名はイサグ・レンダース。今は亡きリーム・レンダースの弟である。

「あいつら、一般人の巻き添えなんて、何とも思っていねえぞ」

 パルチザンの一人が言った。イサグは歯軋りして、

「全くだ。あれじゃあ、戦場跡には雑草も生えやしないぜ」

「わっ!」

 彼等は砲撃を受け、街の外へと逃げて行った。ラルゴーの常軌を逸した戦法には、ゲリラ戦も全く意味がないのだ。


「一人も逃すな!」

 ラルゴーは通信機に怒鳴り続けた。


「このヤロウ!」

 イサグの放った一撃が、戦車の一輛の右のキャタピラを破壊し、後続の戦車がそれに追突、隊列が乱れた。

「今だ!」

 パルチザンが一斉にライフルや対戦車砲、多弾頭手榴弾で反撃する。戦車の何輛かが直撃を受けて炎上し、爆発した。

「よォし、もう一発!」

 イサグは再び対戦車砲を放った。戦車は大半が大破し、動けなくなっていた。


 ラルゴーは戦況を見て、

「バカめ。浮かれるなよ、反乱軍」

と呟き、ニヤリとした。


 レーア、ディバート、ナスカートの三人は、ケスミー親子と共にボスポ海峡の海底にあるアトランティックエクスプレスの発車場へホバーカーで向かっていた。もちろん、地下を通って。

「ヨーロッパは大丈夫かな?」

 ナスカートが独り言のように言うと、ディバートが、

「俺達がいなくなったくらいで、戦力にそう影響はないだろう?」

「それはそうだけどさ。ただ、レーアがいないとわかれば、連中は核も使いかねないぜ」

 ナスカートの言葉にレーアはギクッとした。しかしミタルアムは、

「いや、帝国はまだ核を造り出してはいないよ。その点は、私が保証する」

 レーアはそれを聞いてホッとした。ミタルアムは更に、

「それより、ディバート君とナスカート君には、オーストラリア大陸に飛んでもらいたい。リーム君の弟のイサグ君が苦戦しているらしいのだ」

「はい」

 ディバートは快諾したが、ナスカートはチラッとクラリアを見てから、

「はい」

と返事した。レーアがそれに気づき、

「ナスカート」

 ナスカートはギョッとしてレーアを見る。

「な、何?」

 彼はミタルアムとディバートが話しているのを見てから、レーアを見た。

「貴方、クラリアにチョッカイ出さないでよね」

 レーアにあっさり下心を見抜かれたナスカートは、

「あれ、レーアちゃん、それってヤキモチ?」

 とんでもない事を言い出す。レーアはムッとして、

「な、何都合のいい解釈してるのよ、スケベ!」

 そんな二人のやり取りを離れた所で見ていたクラリアは、

「レーアはあの人と仲がいいのか。フーン」

と言いながら、父親と話すディバートに熱い眼差しを向けた。


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