1-8 特殊能力
兵士。
正式名称は、対魔物防衛隊。
国が設置した、対魔物専門の武装組織。
各自治体を囲う高い壁。
分断され、ほぼ国としての体裁を失ったこの日本において、
いまだ「国家機関」として機能している、数少ない存在だ。
彼らは、壁の内側を守り、外の魔物を殺戮する。
冒険者が“仕事”として魔物を殺すのに対し、
兵士は“義務”としてそれを行う。
だが――誰でもなれるわけじゃない。
兵士になる条件は、極端に厳しい。
体力、精神力、適性検査。
そして何より――
特殊能力。
魔物の出現と同時期に、まれに人間に発現する異能。
炎を操る者。
電撃を放つ者。
異常な身体能力を持つ者。
それがなければ、まず門前払いだ。
だから、兵士は強い。
その上兵士になってからも過酷な訓練や任務を行なっていく。
冒険者とは、根本的に違う。
グスタは――その“なり損ない”だ。
本来なら、兵士として前線に立ち、
命令に従い、壁を守る側だったはずの男。
だが、今は違う。
力だけを持ち、規律を捨てた存在。
その男が――
戦場の中央で、笑っていた。
⸻
「邪魔だ」
グスタが、ゴブリンソルジャーの頭を片手で掴む。
握力だけで、頭蓋が砕ける。
中身が零れ落ちる前に、放り捨てる。
別の一匹が槍を突き出すが、
グスタは半身でかわし、肘を叩き込んだ。
肋骨が、内側から突き破れる。
「遅ぇんだよ」
そのまま首を掴み、地面に叩きつける。
ぐちゃり、と嫌な音がして、動かなくなる。
周囲のゴブリンソルジャーたちが、明らかに怯んでいた。
それでも。
ホブゴブリンが、吠える。
「ギギィィッ!!」
命令だ。
――殺せ。
群れが、一斉にグスタへと向かう。
だが、横合いから。
「通すな!」
冒険者たちが割り込み、ゴブリンを斬り伏せる。
アズマも、その一人だった。
マチェットが走り、首が飛ぶ。
ククリで膝を断ち、倒れたところを止め。
効率的。
無駄がない。
グスタが、その動きを横目で見る。
「……やっぱり、動きがいい」
軽い口調。
評価というより、確認。
アズマは返さない。聞こえていない。
ただ、次を斬る。
戦いは、佳境に入っていた。
ゴブリンソルジャーの数は、目に見えて減っている。
残ったホブゴブリンは、自分を守るように、
通常個体を無理やり引き寄せ、盾にする。
知能はある。
だが――浅い。
グスタが、舌打ちした。
「はんっ。やっぱりホブになっても、バカはバカだな」
そう言って、振り返る。
「おい。お前ら」
低い声。
「巻き添えになりたくなきゃ、俺の周りから離れろ!!」
次の瞬間。
グスタの身体が、わずかに沈み込んだ。
空気が、歪む。
彼の胸元が、赤く輝いた。
――特殊能力。
グスタは、深く息を吸い込む。
そして。
吐き出した。
轟音と共に、炎が噴き出す。
一直線の火炎放射。
ゴブリンたちを包み込み、
瞬く間に火柱が立ち上がる。
悲鳴。
焼け焦げる音。
肉の弾ける臭い。
ホブゴブリンも、逃げられない。
知性を宿した目が、恐怖に歪み、
次の瞬間、炎に飲み込まれた。
数秒後。
そこに残ったのは、
黒く炭化した肉塊だけだった。
⸻
「……やった!!」
誰かが叫ぶ。
冒険者たちの間に、安堵と歓声が広がる。
終わった。
そう、誰もが思った。
――その時。
アズマは、見た。
瓦礫の影。
まだ一匹、動いている。
ゴブリンソルジャー。
ホブゴブリンの支配が消えたせいか、
目が血走り、理性が完全に飛んでいる。
標的は――
背を向けた冒険者たち。
「……っ」
考えるより先に、身体が動いた。
アズマは、走る。
距離を詰める。
間に合え。
ゴブリンソルジャーが、剣を構える。
振り向いた冒険者の背中が、無防備に晒されていた。
「――邪魔」
アズマが、低く呟く。
踏み込み。
マチェットを、全力で振る。
だが。
相手も、ソルジャー。
刃は弾かれ、火花が散る。
次の瞬間、
ゴブリンソルジャーの剣が、アズマに迫った。
――真正面。
アズマは、歯を食いしばる。
ここからだ。
アズマと、ゴブリンソルジャー。
最後の戦いが、始まった。




