表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/10

1-7 兵士くずれの商談

待機場所の中央で、リーダーが端末を操作しながら説明を始めた。


「状況は説明した通り。第4エリア奥、瓦礫帯の中心に巣がある。確認されたのはゴブリンソルジャー、おそらくホブゴブリンが率いてると思われる。通常個体は数不明だが大量にいる。」


グスタは葉巻をくわえたまま、面倒そうに頷く。


「要するに、頭を潰せば終わりって話だろ」


「……できるか?」


リーダーの問いに、グスタは鼻で笑った。


「じゃあ確認だ。俺がやるのはホブゴブリンの討伐と、それ以外の“強い個体”の処理でいいな?」


「ああ」


「ホブの周りに群がってる通常個体は、まぁ……サービスで間引いといてやる」


軽い口調。

まるで害虫駆除の話でもしているみたいだった。


「それ以外の通常個体は、テメェらでちゃんと排除しろよ。俺は忙しいんでな」


誰も反論しない。

反論できない。


力の差は、明らかだった。






グスタは煙を吐き、次に言った。


「じゃあ支払いだ」


空気が、一段冷える。


「一人、二万五千円。本来なら三万だが……今回は特別割引で五千円引いといてやる」


どこが特別なんだ。

誰もが同じことを思ったはずだ。


二万五千円。

冒険者の給料としては、あまりにも重い額。

これで、最低でも四日分はタダ働きが確定する。


だが、誰も文句を言わない。

言えない。


強いものが正しい。

強いものが、すべてだ。


グスタの前に、一列ができる。

冒険者たちが、無言で端末を操作し、支払いを済ませていく。


ピッ、ピッ、と乾いた電子音だけが響く。


アズマも列に並ぶ。

胸の奥が、わずかに軋んだ。


……高い。


そう思いながらも、端末を取り出す。

これを払わなければ、待ってるのは死……なのだろう。というかみんなが払ってるのに私だけ払わないはできないし。



アズマが端末を差し出した、その時だった。


「お」


グスタの声。


「アズマじゃねえか」


視線が、アズマを捉える。


「覚えてるぜ。お前。

このエリアで動きがいいやつ。

あと顔と体もいい」


それが褒め言葉なのかどうか、わからない。


グスタは、口の端を歪めた。


「お前ならよ。今日の夜、俺に“くれれば”それでチャラにしてやるが……どうする?」


一瞬、周囲の空気が凍った。


冒険者たちの視線が、ちらりとこちらに向く。

誰も何も言わない。

助ける気も、介入する気もない。


とても魅力的な提案だ。

金を払わずに済む。

四日分の仕事が、消える。


でも――


とても残念ながら。


「生理になっちゃったから」


アズマは、淡々と言った。


「金でいいっす」


一拍。


グスタは、目を丸くし、それから声を上げて笑った。


「ははっ! そりゃタイミング悪いな!」


面白い冗談でも聞いたみたいに。


「まぁいい。気が向いたら、また声かけてやるよ」


アズマは何も返さず、端末を操作する。

支払い完了の表示。


ピッ。


はい、四日分飛びました。



「じゃあ」


グスタが、葉巻を地面に捨て、靴で踏み消した。


「ちゃちゃっとやるか」


その一言で、全員が動き出す。


壁を越え、第4エリア。


ゴブリン共を排除しながらいつもよりちょっと奥の方へと進むと。


空気が、変わる。

腐臭と血の匂いが濃くなり、地面には無数の足跡。

ここが巣だと、嫌でもわかる。


瓦礫帯の中心。

崩れたビルの影から、唸り声が聞こえた。


最初に姿を現したのは、ゴブリンソルジャーだった。

粗末な鎧、歪んだ槍。


次いで――


大きい。


通常のゴブリンより、一回りも二回りもでかい影。


ホブゴブリン。


筋肉質の体躯。

知性を宿した濁った目。

手には、血の染みた大剣。


それが、こちらを見た瞬間。


「ギィ……!」


鋭い咆哮。


周囲のゴブリンたちが、一斉に動き出す。


「来るぞ!」


冒険者たちが散開する。


アズマも、いつものように前へ出る。

マチェットを構え、呼吸を整える。


その横を――


グスタが、悠然と歩いていった。


「……お前らは雑魚の相手でもしてな」


次の瞬間。


地面が、爆ぜた。


グスタが跳ぶ。

信じられない速度で距離を詰め、ゴブリンソルジャーの槍を素手で掴み、へし折る。


拳が、振り抜かれる。


頭部が潰れ、肉と骨が飛び散った。


「……」


アズマは、一瞬だけその光景を見て。


すぐに、自分の獲物へと向き直る。


戦いが、始まった。


ホブゴブリン達との死闘が、今、幕を開ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ