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1-4 明日は休み!

ジリリリリリリ――――。


と、起床ベルが鳴る、少し前。


カプセルベッドの中で、アズマは目を開けていた。


(……よし)


もぞり、と音を立てて這い出す。

いつもならベルが鳴ってから三分は無視するところだが、今日は違う。


顔を洗い、髪を軽く整える。

鏡に映る自分の表情は、いつもよりほんの少しだけ引き締まっていた。


だるそうな目つきでもない。

半分寝たままの顔でもない。

よだれあとも残っていない。



キリッとしている。



理由は一つだ。


――今日を生き延びれば。


明日は休みだから!!!


週に一度、義務付けられている貴重な休日。

冒険者にとっては、これほど大事な日はない。


しかも。


今日は給料日。


(……よし)


もう一度、心の中で確認する。

これは現実だ。夢じゃない。

指折り日程を数えたから間違ってない。給料日だ。



アズマはいつもより丁寧に準備を始めた。

支給された作業服をきちんと着て、靴紐を締め直す。

武器の刃を布で拭き、動きを確かめる。


珍しく、準備運動までした。

腕を回し、足を伸ばす。

開脚をするとぺたーっと床までつくところからもだいぶ身体が柔らかいのだろう。



待機部屋につく。


周囲を見ると、他の冒険者たちもどこか浮ついている。

雑談の声が少しだけ大きい。


「今日終われば休みだな」

「給料日だぞ」


そんな言葉が飛び交っていた。



アズマも珍しく早く仕事が始まらないかと思って待っていると、急に後ろから肩を抱かれた。


振り向くと下品な顔したおっさん。

誰だったっけ?


「アズマ、明日休みだから今日の夜どうよ?」


アズマはちょっと考える。


ちょっと考えてから


「今日は無理」


と答えた。


明日は休みなのだから、何もしたくないし。


おっさんは「ちぇっ!けち!」と言い放つとブツブツ言いながら離れて行った。





依然として浮ついた空気に、リーダーが頭を掻きながら言う。


「……おまえら。気持ちはわかるけどな、仕事は仕事だからな」


そして、ちらりとアズマを見る。


「アズマ。おまえもか」


「……うん」


否定はしない。

今日は、ちょっとだけやる気がある。


顔認証で扉が開き、外へ出る。


魔物は、今日もいた。


ゴブリン。

数は多いが、動きは鈍い。


アズマは駆け出す。

右手のマチェットが首を刎ね、左手のククリが腹を裂く。


さくさく。


血が飛ぶ。

骨が鳴る。


さくさく。


迷いはない。

躊躇もない。


今日は効率重視だ。


途中でオークが出てきた。

体格が良く、力もある厄介な相手だが――


さくさくいこう。


オークが振りかぶって伸ばしてきた手をさらりとかわすとそのまま下へ潜り込んで、脚を切り付ける。


体制が崩れたところで、ハサミの要領で左右のナイフ使い首ちょんぱ。


ごとん。

血の噴水と共に首が落ち、オークだった体が倒れる。


「……よし」


自分にだけ聞こえる声で、そう言った。


作業はいつも以上に早く終わった。


「よーし!今日はここまで!」


リーダーの声に、誰も文句を言わない。

今日ほどキビキビ動く冒険者達はいない。

今週の仕事は以上。






そして。




迎えた、休日。


アズマは自室――という名のカプセルで、しばらく悩んだ末、

自分なりの最大限のおしゃれをした。


汚れていない服。

少しだけ整えた髪。


外を歩ける、ギリギリのライン。


向かう先は決まっている。


食堂だ。


冒険者でも、顔をしかめられずに飯を出してくれる、ありがたい場所。


席に座り、注文する。


「オムライス。あと、プリン……十個」


店員が一瞬だけ目を瞬かせたが、何も言わずに通してくれた。


運ばれてきたオムライスを、ゆっくり食べる。

いつもの栄養食とは違う。卵とバターをふんだんに使った素材の味。

ケチャップで彩られた米。

どれもが宝物のような、たまにしか手に入らない、いや口に入らない、貴重な存在。

一口一口、噛みしめる。




そして、プリン。


私の人生はプリンに出会うためにあった。

アズマは本気でそう信じている。


一つ、また一つ。


黙々と。

真剣に。


まるで人生をかけているみたいに。


全部食べ終わる頃には、満足感と共にすこしの眠気。


「ごちそうさまでした」





次に向かうのは、近くの体育館。


自治体が無料で、昔の映画を流してくれる場所だ。

冒険者にとって、数少ない娯楽。


文字を読むのが苦手なアズマにとっては、

ここが唯一、時間を潰せる場所だった。


古い映画がスクリーンに映る。

内容はよくわからない。


でも、音と光が心地いい。


気づけば、うつらうつらしていた。


目を開けると、外はもう夕方だった。


「……終わった」


休日は、一瞬で終わる。


また明日から、地獄が始まる。


でも。


今日は、悪くなかった。


アズマは立ち上がり、ゆっくりと帰路についた。


――明日から、また仕事だ。


それだけだ。


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