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1-3



ゴブリンの死体が、そこかしこに転がっていた。



木の根元、倒れた幹の周囲、枝の下。

首のないもの、頭が割れたもの、落下の衝撃で原型を留めていないものもある。

スプラッタ映画もびっくりのザ・惨殺現場だ。


「……どうすっかな」


これ……



アズマは木の下に立ち、腕を組んでそれを眺めていた。

回収は必要だ。放っておけば別の魔物を呼ぶし、評価も下がる。栄養食にも関わってくるから死活問題だ。


ただ——


「散らかしすぎた」


我ながら、と思う。

木の上でゴブリンを惨殺するのは楽だが、後始末が面倒になる。学習はしている。たぶん。





そのとき、草を踏み分ける音がした。


「アズマ!」


振り返ると、数人の冒険者がこちらに向かってくる。

その先頭にいたのは、少しくたびれたおっさんだった。


短くまとめた髪、使い込まれた装備。

ベテラン冒険者、プリル。


若手の相談役みたいな立ち位置で、現場をよく見ている人間だ。

アズマは特に相談したことはないが、なぜかよく声をかけられる。


「大丈夫か!……って」


プリルは死体の山を見回し、目を見開いた。


「……これ、全部お前がやったのか?」


「うん」


アズマはあっさり頷く。


「木に登って、上から切ってっただけ」


「切ってったって……」


プリルは言葉を詰まらせる。

木を見上げ、死体を見て、もう一度アズマを見る。


「そんな簡単にできる芸当じゃねぇだろ」


「まあいいじゃん、できたんだから」


アズマは肩をすくめた。

何を聞かれても斬った殺した以外の言葉がでてくるわけではない。

私に聞かれたって困るってもんだ。



そんなアズマの心を読んだのか、

プリルは小さく息を吐き、首を振った。


「……とりあえず、このままじゃ危険だ。回収して引き上げるぞ」


ベテランたちが動き出し、吸引機を準備する。

散らばった死体が音を立てて吸い込まれていく。


(ラッキー、片付け楽に終わりそう)

アズマは心の中で喜んだ。



少し遅れて、あの相方——コラットが戻ってきた。

気まずそうに目を逸らしながら、プリルの後ろに立つ。



アズマは何も言わなかった。

言うほどのことでもない。

それに、どうでも良い。



その日の作業は、それで終わった。


壁付近まで戻ると他のみんなもあらかた集まっていた。


「よーし!今日はこの辺で終了!」


リーダーの声が響く。


「アズマとコラットは、報告書書いとけよ!」


「うぇ……」


アズマは露骨に嫌そうな声を出した。

戦うより、報告書のほうがよっぽど面倒だ。


拠点に戻り、簡易デスクに座る。

端末の画面を前に、アズマはしばらく固まった。


「……何書けばいいんだっけ」


ゴブリン多数。殲滅。以上。

それでいいじゃないか、と毎回思う。


隣で、コラットが咳払いをした。


「なあ、その……」


「?」


「俺が、お前の分も書くよ」


アズマは顔を上げる。


「……いいの?」


「ああ。これくらいさせてくれ」


少し間を置いて、コラットは続けた。


「自分で自分が、許せねえからな」


アズマは一瞬考えてから、頷いた。


「じゃあ、お願い」


正直、助かる。


(いや、そこでドヤるなら逃げるなよ)


心の中でだけ、そう突っ込んだ。







冒険者という仕事は、底辺だ。


身寄りのない者、行き場のない者、落ちぶれた者が流れ着く。

常に死と隣り合わせで、それでも給料は安い。時給800円。


同じ日本人でも、差別される立場。

いなくなっても、この世界では代えがいくらでもある誰も困らない仕事。


アズマは、それを不満に思ったことはなかった。

比較する相手が、いなかったから。


夕食の栄養食を飲み干し、朝よりは少し長めにシャワーを浴びる。理由はない、身体が欲してるままに。

血と匂いを流し落とす。


そのあとは何もすることがなくなり、カプセルベッドに潜り込む。

することがないのはいつもの事だ。

アズマには目標も趣味もない、あるのは時給800を得るための仕事に武器にボロボロの服。

考えることも何もない、その日をそのまま過ごす。

そんな平日だ。


カプセルベッドの中は狭くて、静かで、そして安心できる場所。


誰も聞いていないのに、なぜかふと口を開いてみた。


「……おやすみなさい」



不思議な呪文を唱えた気分だが、

当然返事はない。



そして明日も、たぶん同じだ。


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