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影法師の博士と助手

作者: 塩味うすめ
掲載日:2025/12/26


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 テクテク歩くと着いてきて、トコトコ歩いても着いてくる。手を挙げれば真似をして、足を挙げても真似をする。何もしなくても伸びたり縮んだり、黒い姿でいつも傍にいる影法師。

 何年も何年もずっと見てきた人の世界、いつしか影法師達は人や人の作り出したものについて研究しだしたのです。


「博士、博士」

「なんじゃ、星の誕生秘話についてか?それには、まず宇宙について話さなくてはならんな。えーっとな、始めは無じゃった、時間も空間も存在しとらんかったのじゃ。そこに真空エネルギーが生まれ、すごい早さで膨らんだのが宇宙のはじまりじゃ」

「違いますよ、博士が賞を取った時の研究テーマの話ではありません。今年のテーマ『きらきら』するものの話です」

「なんじゃ、その事か」

「あっ!でも星の誕生秘話でも良いかもしれませんね。ほら、星ってきらきらしてるじゃないですか?」

「助手よ、嘘が上手くなったの」

「バレてしまいましたか?年に一度の発表会で前と同じ発表をするなんて無い話ですよ」


 人の世界を研究している影法師達は一年の終わりに集まって、研究の発表会を行います。毎年決まったテーマを設けて何の研究が面白かったかを決めたり、新しい発見だったかを決めたりします。研究者の影法師には毎年色んな賞が送られていますが、あんまりだった発表には残念賞が贈られました。

 

「きらきらするものはたくさんあります。星空はもちろんだし、夜景でしょ?それに太陽の光を反射する海に宝石の輝きだってきらきらしてます」   

「助手よ、そうあせるでない」

「ですが、もう猶予がありません。このままでは我々には残念賞が贈られてしまいます。大体何ですか?残念賞って?こっちは一所懸命なんだぞ!」


 過去に残念賞を贈られたことのある助手君は、残念賞が嫌でした。他の影法師に残念だったと決められた事に納得がいきませんでした。博士と出会う前の助手君の「さらさら」が研究テーマだった時の話です。

 その時の助手君の発表は「砂はさらさらしています。小さい人の間ではサラ砂と呼ばれたりしています。手に取っても指の間から零れていきます。砂は街の公園、砂浜、砂漠でみかけます。更に砂はさらさらとしているので風で飛びます」というものでした。


「あれは助手、皆が知っている事を述べただけじゃったし、緊張で声も裏返っていたじゃないか」

「博士まで、そんな事を言うのですか。もういいです、それより今年の研究です」

「残念賞も良いものじゃよ?」

「どこがですか!?私にとっては新発見だったんですよ...」


 助手君は伸びたり縮んだりしています。博士はそんな助手君をみて体を揺らしました。ひとりだった助手君を博士が誘ってからもう何年も経ちます。ふたりの目標はいつか博士がひとりで取った「星の誕生秘話」を越える賞を取ることです。


「助手よ。近頃の人の世界を見ていて何か思わんか?」


 博士に聞かれた助手君は伸びたり縮んだりするのを止めて、考えます。 


「博士、何だか僕たちを見て歩く人が増えたような気がします。下を向いて歩いているのです」

「そうじゃ、それなんじゃよ助手よ」

「博士?」


 人の世界を長く見てきた博士は、きらきらするものが多くなった近頃の人の世界に不満があるようです。今度は博士が長く長く伸びていきます。


「人はもっときらきらしていたと思うんじゃよ」

「人がきらきら?博士、人は光りませんよ。それに人には色々と事情があるのです」 

 

 伸びた博士が角度を変えて、くるりと回りました。助手君は地面から壁へと移動します。ふたりでダンスを踊っているみたいです。


「助手よ、楽しんどるかい?」

「ええ、とっても。こうやって博士と話すのは楽しいです。ああそうだ、聞いてください。昨日僕は雲の影と散歩していたのですが、空の雲の際が太陽に照らされてとても綺麗だったんです。僕もいつかあの子とふたりで...」

「おお、助手。好きな子ができたのかい?」

「!?」

  

 助手君がくるくる回り始め、輝いて見えました。どうやら図星のようです。恋の矢に刺さった助手君は博士にも的を射られてしまいました。助手君の姿に博士は鋭くなります。


「知られてしまいましたか。気がつけば、いえ気がつく暇もなくあの子の事を考えています」

「ほほほっ。それでわしをせっつくような真似をしとったんじゃな」

「くぅ」

「何を恥ずかしがる?良いことじゃないか。人を好きになる事なんてきっと指の数も出来ない経験じゃよ」

「まぁそう言われてみればそうですが、この想いが叶わなかったらとか、上手くいかなかったらと考えると...」

 

 輝いていた助手君がだんだんと雲って縮んできます。博士はまた一段と鋭くなりました。


「助手よ、楽しんどるかい?」

「いえ、さっきまでは楽しかったのに今はちっともです」

「助手よ、好きの話は楽しいもんじゃろ?なのに好きな子の話でどうして楽しくなくなるのじゃ?」

「それは...どうしてでしょうか?」

「わしに君のこころは分からんよ。ただ好きとは違うものを考えているからではないかの?」

「好きとは違う、ですか?」


 研究とは、その対象について分析や解析を行い、新しい知識を得ること。多くの実験を行い、その結果を見て新しい知識を作っていく。研究者のふたりは助手のこころの変化、博士から見て輝きが無くなった原因について調べ始めました。

   

「博士、こんな事を調べている場合ではありません。きらきらについて調べなくては」

「ほほ、今やっとるじゃろう」

「え?」

「何も光る物だけがきらきらしとるわけではない。人も好きな事の話をしとる時はきらきらと輝くものじゃよ」

「!!流石は博士、私が実験サンプルになるのは少し嫌ですが、これも研究の為ですね...」


 ふたりは助手君がどういう時にきらきらと輝いて、どういう場合に曇るのかを調べるのを続けます。少しずつ、少しずつ。仮説を立てては検証して、新たな知識の輪郭を作り出すのです。そうしている博士と助手君も輝いて見えます。

 どうして好きと思うのか、その好きは他の好きと違う所があるのか、どういった所が好きなのか、何を考えたときに曇るのか、どうして曇ってしまうのか。出来るだけ細かく調べます。博士の問いに答え続けた助手君は、自分の事を知っていく事になります。

  

「博士、僕は案外つまらない存在なのかもしれません」   

「ほほっ、その結論を出すにはまだまだ研究が足りんのぉ。わし達が何年もずっと研究しても分かってない事じゃよ」

「ふふっ、何ですかそれは。でもそれは研究のしがいがありそうです」  

「さて、そろそろ見えてきたものを描いてみようかの」


 ふたりは姿を変えて、くるくると回る黒い丸の中心に白い丸が重なった形を描き出しました。白い丸はきらきらと綺麗で、見ていると嬉しい気持ちになります。反対に黒い丸はドロドロと曇っていて、見ていると不安な気持ちになります。

 更にずっと見ていると白い丸が大きくなったり、小さくなったりしました。白い丸が大きくなると、その分黒い所は少なくなっています。それに始めはきらきらと見えていた白い丸も黒っぽい丸の所為で眩しく感じ、また黒い丸は白い丸の所為で更に暗く感じました。 


「本当はこの白い丸と黒い丸は別のものなんじゃ」


 博士がそう言うと、白い丸と黒い丸が別々に離れて描かれます。先程まで眩しく見えていた白い丸は落ち着いた輝きとなり、黒い丸も不安が薄れ、大事なもののように感じてきました。

 

「でも博士、白い丸だけでは進むことは出来ないですよ」

「それでもいいんじゃよ。白い丸は形を変える可能性を秘めておる」

「では黒い丸はどうなりますか?」

「黒い丸は回って進むことが出来るが、それだけではすり減って消えてしまうこともある」 

「人がきらきらしなくなったのは、白い丸と黒い丸が重なりあうからですか?」

「そうじゃの、一緒にしてしまうからじゃ。まぁ仕方ないとは言え、ただ白い丸が現れた事を楽しめば良いのにのぅ。なぁ助手よ、この星が誕生、さらに生命が生まれる確率はそれはもう途方もない確率なんじゃ」

「もう何度も聞きましたよ、奇跡ですよね」


 白い丸が生まれる事も博士は奇跡だと言います。指で数える程しかありませんから。


「博士これで僕たちの目標を達成できますか?」

「助手よ、目標は目指す先じゃ。まずは楽しもうじゃないか」 

  

 白い丸は好きという、ただそれだけの純粋なもの。黒い丸は欲望や打算的な思考、生活をする為に必要な色んなものを表しています。

 白い丸、黒い丸、2つとも大切なものです。


 互いに影響しあう2つの丸。どんな形が良いのでしょう?


 きっと見つけられます。


 影法師の形がそうであるように、たったひとつの形を。


「博士、『きらきら』してます」

「ああ、見つかったようじゃの」 


 上を見あげた博士と助手が、縮んだり伸びたりするのでした。



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 おしまい

   

 地球が生まれて生物が誕生する確率は10の4万乗分の1らしいですが、それが当たり前になった世界で生きている私には、だから何だ?って感じもします。どんな確率だってそれが実現したら1分の1と変わりはありませんからね。 

 でも、きっと特別なんです。そう思った方が何だか素敵な気がしますので。


 話は変わりますが、生きていると色んな多くの感情に出会います。喜怒哀楽が代表的ですが、傲慢や嫉妬に羨望、優越感に劣等感といった感情もあります。どうしてそんなに感情が生まれたのでしょうか?

 よく分かりませんが、きっと必要だったのでしょう。

 しかし、誰もがそんな感情と上手く付き合えるわけではないと思います。自分の感情を誰かに教えてもらうことは出来ませんから、上手く付き合うためには、ひとりで学んだり、慣れたりするしかありません。また生きていると、悪い感情に流されたり、悲しい気持ちや嫌な気持ちにさせられたりする事もあります。

 この童話はそんな色んな感情に対する私なりの対抗です。悪感情だってなんのそのです、どんな感情でも分析して解析して上手く付き合っていけますよと言いたいのです、そう言いたいのです。

 ですが、嫌な感情や悪い感情は出来るだけ抱きたくないとも思います。ごめんなさい。

 でもね、生きているからそんな感情も抱くことが出来るんだって、だから楽しもうじゃないかって思うのです。そうなったらいいなって願うのです。 

 


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