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いろどりの追憶・外伝  作者: 裕邑月紫


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第八回 小聿さまの心を取り戻しちゃおうの会

注意)こちらは本編「いろどりの追憶」の外伝です。本編第五部「星律の瞬き」以降の話ですので、ご注意ください。

 第八回小聿(しょういつ)さまの心を取り戻しちゃおうの会はある男の謝罪から始まった。

  

「ほんっとうに、申し訳ない!!!うちのバカ息子が、小聿どのに無理をさせたせいでっ!!」


 一条源家本殿の大広間。

 首座に座る一条源家の当主・源彩芝(さいし)の真正面に座った歳の頃なら三十半ばの男は、謝罪の言葉と共にがばりと平伏した。


「あ……いや、どうか気にしないでほしい。面を上げなされ」


 その勢いに若干気圧されながら、彩芝は言う。

 しかし、男は平伏したまま激しく頭を振った。


「いや、本当にっ!あれほど、バカ息子には『お前や武官学校での友らと違って小聿どのは蒲柳の質で繊細な方でいらっしゃるから、無理をさせてはならない』と言っていたのにっ!」


 そう言って、男――南方副将軍・ほう伯朗はくろうはギリギリと歯を食いしばりる。 

 

「小聿どのが体調を崩されたと伺い何か心当たりはないかと尋ねたら、あの大馬鹿者は、雪が降る中での雪合戦に小聿どのを無理矢理参加させたと言うのではありませんかっ」


 彼の言葉に、一条源家の人々は苦笑いをする。


「先月も、寒い中何時間も外で剣の稽古に付き合わせ、その前は、雨の中嫌がる小聿どのを無理矢理ランニングに連れ出して……っ!」


 一同はその時のことを思い出して「あー……」と声を上げる。


「うちの若は押しに弱いから……」


 苦笑いしながら兪佳ゆかが言うと、そうなんだよなぁという顔を皆する。


「小聿どのにご無理をさせて、その後、体調を崩されたと聞くたびに、説教をするのですがね……。あいつの頭は鶏以下なのか、三歩歩くどころか立ち上がった時点で忘れおる!」


 伯朗による息子の評価に耐えきれなくなった芳崇ほうすうが吹き出す。すると彼に釣られて他の者もくすくす笑い出した。


「あははは……立ち上がった時点でって……」

「ふふふ……厳しいですね、伯朗さま」


 顔を見合わせ言い合う芳崇と靜子せいしに、笑い事じゃありませんよ……と伯朗は弱り顔をしてみせた。


「もういっそ、うちのバカを一条屋敷出禁にしていただいた方が良いかもしれません」


 それに首を振ったのは小聿の母・湘子しょうしであった。


「いや、わたしは感謝しておるのじゃ。倅はあまりに体が弱すぎる。大事にしすぎていつまで経ってもあのようでは困る。伯玞にそうして外に連れ出してもらうことで、体も鍛えられよう。今後も折りを見て遊んでやってほしい」

 

 そうですね、まぁ、ほどほどがいいと思いますが……と小聿の祖母・葵子は微笑みながら言う。

 もったいないお言葉です……と伯朗は小さくなって言う。


 ちょうどその時、失礼しますと言う声が歩廊からした。彩芝が入りなさいと言うと広間の戸が開き、中に三人の男が入ってくる。

 入ってきた男たちは、揃って揖礼をした。


尚仙しょうせん蕗隼ろじゅん汝秀じょしゅう、ご苦労様。小聿どののご様子はどうですか」

 

 真っ先に一条源家お抱えの医師と小聿の側近二人に葵子は問う。


「まだ熱がありますが、薬が効いてよく眠っておいでです。今は、紗凪さなえりんがお側におります」

「そう。眠れているならよかったわ」

 

 蕗隼の答えに一同ほっとしたような顔をする。

 三人は兪佳の隣に並んで座る。


「此度も若君は咳が酷うございましてな。咳のせいで眠りが浅いご様子でした。太医令たいいれい尚按しょうあんと相談をして、薬湯の配合を変えたところやっと咳が少し落ち着きまして眠れるようになりました」

「さようか。尚按にも妾から礼の文を認めるとしよう」


 湘子が言うと、お心遣いありがとうございますと尚仙は微笑んだ。

 尚按とは皇宮の聖医療館のトップ医官で、今上帝と皇子の専属医官である。小聿が一条源家に臣籍降下するまで病弱である彼を診ていた人物である。尚仙は尚按の従弟であり、小聿が一条に来てからは尚按に相談しながら診ているのだった。

  

「小さな子どもはよく風邪をひくものだけど、それにしたって小聿どのは多いのが心配です。一度寝込むと長引くし……」

小慎しょうしんや一条の家人衆の子どもたちと比べても随分多いものね」


 葵子きしと靜子が言うとそうじゃのぅと彩芝は眉を顰める。


「体を鍛えることも目的の一つに靭刃じんば流の道場に入れたが……なかなか簡単にはいかぬの」

「ご成長していくに従ってお強くはなると思いますが……」


 多くの家人衆の子どもたちをみてきた蕗迅が言うと、それに期待するしかあるまいのと彩芝は頷く。

 

「それにしても、私と尚按考案の薬湯がどうも若君はお嫌いなようでしてな」


 ため息混じりに尚仙は言う。彼の言う尚按とは、皇宮医官のトップである。小聿が皇宮にいた際大変世話になった人物で、今も源家の医師である尚仙と共に、小聿の健康管理に尽力してくれている。


「飲んでいただければ、必ず良くなる自信がありますので飲んでほしいのですが……お出しする度に嫌そうな顔をなされまして。あのような顔を見せられるのはつろうございます」

「あぁ、寸分違わぬことを尚按も申しておったわ」


 苦笑いをしながら湘子が言うと、尚仙は頷く。


「食事の好みは大人寄りなのに、薬湯は嫌がるのだね。そこは小慎と同じか。小聿どのの意外な一面だ」


 芳崇の言に皆くすりと笑う。


「小慎に薬を飲ませるときには、あの子が好きな氷菓と一緒に出しているじゃない?小聿どのにもそうしたらどうかしら?」


 靜子が言うと、あー……と蕗隼たちはなんとも言えない顔をする。


「若はただでさえ少食なのに、熱を出されると食べ物を一切受け付けなくなるのです」

「それでは良くなるものも良くならないと常々申し上げているのですが」


 ふむと声を出し、伯朗は首を傾げる。

 

「甘いものでもダメなのか。うちのバカ息子も滅多に風邪はひかんが、ひいた時には水菓子やらと一緒に出しているぞ」

「布団を頭から被って断固拒否の姿勢です」


 意外に激しいな……と伯朗が言うと、蕗隼たちはええ……と頷く。


「さっきも夕餉にご用意したうどんを食べていただくのに、布団を無理やりひっぺがしました」

 

 小聿と側近たちの攻防を思い浮かべて伯朗は笑う。


「どうしたものかの」

 

 脇息に身を預けながら彩芝が呟く。

 しばらくして、湘子があ!と声を上げる。

 

「小聿は飴玉が好きなのじゃ。東の院にいた頃から、綺麗な飴玉をやると喜んでのぅ。あれは喉の風邪から熱を出すことが多い。のど飴でも舐めさせたらどうじゃ。薬湯を飲んだら、飴玉をやると言うのじゃ」

「飴玉ぐらいなら、舐めてくれそう。口直しにもなるし」


 湘子の提案に靜子も頷く。

 でしたら……とそれを聞いていた家人衆の中から手が上がる。

 手を挙げたの一条源家の厨長。


「南翔の源家屋敷の梅園で取れる梅でのど飴を作るのはいかがでしょうか。夏に、その梅で漬けた梅シロップを炭酸水で割ったものをお出ししたら気に入ってくださっていたのです」

「お、いいじゃないか」

「尚仙どのにご助言いただければいいものができるかと思うのですが、いかがでしょう?」

 

 ぜひ作りましょう!と尚仙が身を乗り出す。厨長の後ろに座っていた他の厨衆もやる気に満ちた顔をしている。


「では、厨衆と尚仙で梅のど飴を作るってもらうとしよう」

「出来上がったら試食会をしましょ。楽しみだわ」


 彩芝と葵子の命に厨衆と尚仙は承知しましたと揖礼する。

 それを感心したように伯朗は眺める。


「すごいなぁ……一条源家。若君のためにみんな必死だなぁ」

「うちの若君はみんなに愛されておられますから」


 少し胸を張って蕗迅ろじんは言う。

 そうして、彼はぐるりと広間にいる人々の顔を見渡す。


「それでは、第八回 小聿さまの心を取り戻しちゃおうの会を終わります。各々引き続き頼むぞ」

「……取り戻しちゃおうの会……へぇ、そういう名前なんだ……」

『ははっ』


 伯朗の呟きは、一条源家の家人衆の綺麗に揃えられた声にかき消された。


 なお、この日の発案で作られた梅のど飴は小聿のお気に入りとなり、尚仙の薬湯とセットで出されるのがお決まりとなったのだった。

 

 

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