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第二回 小聿さまの心を取り戻しちゃおうの会

注意)こちらは本編「いろどりの追憶」(https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/2709213/)の外伝です。本編第四部「はじまりの刻・源小聿として生きる(一)」以降のお話ですのでご注意ください。



「それでは、第二回 小聿しょういつさまの心を取り戻しちゃおうの会をはじめます」


 ――――あー…そのタイトルのままでいくんだ、祖父じいさん、押し切るんだ……


 首座近くに控えていた一条源家の家令・岳蕗迅がくろじんの声を聞きながら、会のタイトルに入っている幼子の側近である岳蕗隼(ろじゅん)はぼんやりと思った。


「押し切るのかー……このタイトルいくのかな……」

「しっ!汝秀じょしゅう兄、そんなこと言ったらまた雷落ちてくるよっ!」


 隣で蕗隼が思ったことを口にする親友の邦汝秀ほうじょしゅうとそれを注意する小聿の侍女である鹿納琳かのうりんのやりとりが聞こえる。


「今日は、小慎しょうしん若君さまの側近たちからの報告からじゃ」


 指名されて、蕗隼たちと反対側に座っている数名の若い家人たちが声を揃えて『はい』という。小慎とは小聿の従弟で、この一条源家のもう一人の若君である。


「少しずつ小聿若君も一条に慣れてきてくださったようで、先週も二度、今週は一昨日と今日と二度ほど西殿に渡っておいでになりました。小慎若君や靜子せいしさまと遊んだのです」

「ふふふ……孫たちが仲良く遊んでくれるのを望んでおりました。ねぇ、きみ


 その報告を聞いて、一条源家の女主人・源葵子(きし)は嬉しそうに夫の彩芝さいしに声をかける。彩芝もそうじゃのと頷いた。


「それでどのような様子だったかの?喧嘩などせなんだか?」


 心配そうに小聿の母である湘子しょうしが問うと、小慎の側付きたちはケンカはなさいませんでしたよと答えた。


「蕗隼や汝秀が言っていた通り、やはり小聿若君は大変成熟しておられました。小慎さまのわがままにも嫌な顔ひとつせず、常に微笑んで、遊んでくださいました」

「まさしく、一緒に遊ぶと言うより、小慎さまと遊んでくれると言う感じでした」


 あー……やっぱり……という顔を一同する。


「トランプやオセロやカルタは、小慎さまのために本当にお上手に手を抜いてくださり……小慎さまが勝って喜ぶと、すごいですね!お上手ですよと……」


 その様子を一同思い浮かべ、なんとも言えない顔をする。


「小慎は負けると悔しがって大泣きするからなぁ。それを見抜いていたのかもしれないねぇ」


 ため息混じりに小慎の父である芳崇ほうすうが言うと、我らもそう思いますと小慎の側近たちは言う。


「それで……手加減不要な遊びで双六をしてみたのです」

『あっ……!』


 双六と聞いて、蕗隼と汝秀は揃って声を上げる。その反応を見て話をしていた小慎の側近は顔を歪める。


「お前たち……!わかっていたなら重要な前情報として教えておいてくれよっ!」

『すみません!!!』


 蕗隼と汝秀は声を揃えて謝罪をする。


「どう言うことだ?何があった?」

 

 状況がわからない者たちを代表して、蕗隼の父親である蕗粛ろしゅくが尋ねる。彼は彩芝の側近である。


「双六は手加減も何もないではないですか。運で全てが決まりますでしょう?手加減して負けてばかりいる小聿若君が、そう言うのを無しに楽しめるものかと思いまして、ご用意したのです。そしたら……」

「そしたら?」


 小慎の側近たちは揃って泣きそうな顔をする。


「なぜか、すべての『悪いマス』に止まってしまうのです。落とし穴で一回休み、クマが出て3マス戻る、台風が来て振り出しへ戻るなどです」

「やっぱり……」


 それを聞いて蕗隼は呻く。


「やっぱりって、どう言うことだい?」

「若は、なぜか運が悪いのです。賽の出目がいつも絶妙に悪い。ああいう運ゲームは必ずと言っていいほど負けてしまわれます」

「小さな剣を樽に刺していって、中に入った人形を飛び出させた人が負けという玩具があるでしょう?あれも、初手でなぜか飛び出させてしまうので、東の院ではあっという間に封印されました」

 

 芳崇の問いに、蕗隼と汝秀が答えると一同何とも言えない顔をする。


「つまり……小聿に運要素の大きい遊びをさせると、必ず負けるというわけじゃな?」

「さようでございます、湘子さま」

「言ってくれよー!そしたら、双六なんてお出ししなかったのに!!」


 非難の声が小慎の側近たちから上がる。それに再び蕗隼たちは頭を下げる。


「私も一緒にやっていたのだけれど、小聿どのが悪いマスに止まる度に小慎は喜んでしまって……本当に申し訳なかったわ。喧嘩になりやしないかと思ったけど、小聿どのは困った顔をするばかりで。でも、帰る時ちょっとしょんぼりしてたから心配だったのだけど……」


 大丈夫だったかしら?と靜子が尋ねると、水鏡殿の家人衆は苦笑いをする。


「少し元気がなかったです。私は賽に嫌われているみたいだ……とこぼしておいででした。それはそういうことがあったからなのですね」

 

 小聿の侍女である紗凪さなえが答えると、ああ、申し訳ないことを……と再び小慎の側近たちは凹んでみせる。


「運の絡まぬ遊びで、小慎ではなく大人が相手になる方が良いやもしれんな」

「そうですね……。若殿、また将棋をぜひ」

「……うん、任せて」


 腕を組みならが彩芝が言うと、兪佳ゆかの父親である兪飛ゆひが頷き芳崇に言う。

 頼まれた芳崇は、一瞬の詰まった後、頷いた。


「あとは、お庭で鬼ごっことチャンバラをいたしました。こちらは、小慎さまがお相手だと絶妙に手を抜いてくださるのですが、大人である我らを相手にすると、それなりに一生懸命なさってくださいました。それに、少し楽しげになさっていたのでよかったです」


 その報告に一同は良かったと口々に言う。


「ですが、気になることがひとつ」

「それはなんです?」


 葵子が促すと、報告している家人は困ったような顔をする。


「体力があまりないようで……。つい先日まで、動かずにおいででしたし、食も細いですし、蒲柳の質でいらっしゃいます。足も速く身のこなしも軽やかでいらっしゃいましたが、疲れてすぐに捕まっておいででした」


 あー……と再び一同納得の声を上げる。


「こちらについては、武芸の稽古も再開なさいましたし、成長するに従って解決するかと」


 それに汝秀が答えるとそうだなと一同頷く。


「やはり食が細いのを改善しないと。厨衆くりやしゅうに工夫をするよう伝えてください」


 葵子が側近の汝杏じょあんに命じると、承知いたしましたと彼は揖礼ゆうれいした。


「では、今後も小聿と小慎がうまく遊べるよう工夫を重ねてほしい。せっかく、同じ屋敷でひとつ違いの男児なのだ。兄弟のように今後は育てて参りたいゆえ」


 彩芝の命に、小慎と小聿の側近たちは承知いたしましたと揖礼をする。

 そうして、残りも細々とした気づきを共有し会は終わりとなった。


「それでは、第二回小聿さまの心を取り戻しちゃおうの会を閉会します」


 家令の蕗迅の声で、一同各々の場所へと帰っていく。

 

 ――――ねぇ、突っ込まないの?この会の名前……このままいくのか?


 他の水鏡殿すいきょうでんの家人衆らと戻りながら蕗隼は思う。

 見上げた夜空には、幼い主の異名である月が今日も綺麗に輝いていた。

 

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