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TRUE♰LIE  作者: れむ
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透明な傷痕

走るべきだと分かっているのに、足が一瞬、すくんだ。


濡れれば、透ける。

その想像だけで、身体が拒んだ。


「……行こう」


葉月の声で、ようやく我に返る。


私たちはバス停へ駆け込んだ。


息が落ち着くより先に、シャツが肌へ貼りつく気配がした。

肩口から冷たく染みこんでくる雨が、輪郭を浮かび上がらせていく。


私のシャツは雨に濡れ、肩口から肌の色が透けていた。


そのとき、葉月が静かに息をのむ。


その視線の先を追って、私は気づいた。


透けるシャツの下。

わずかに膨らんだ胸元に残る、大きな斜めの傷。


葉月は、そこから目を逸らさなかった。

けれど、決して“見よう”ともしなかった。


その態度で、すべてを悟ってしまう。


(……見られた)


胸が痛い。苦しい。隠したい。

思考だけが、身体の内側で暴れ出す。


それでも葉月は、何も言わずに上着を差し出した。


「……マコくん、寒くない?」


「あり、がと……」


差し出された上着を受け取りながら、ぽつりと答える。

ちらりと葉月を見るが、何事もなかったように、タオルで濡れた顔と髪を拭いていた。


どう思われているのかが怖くて。

つい、私のほうから踏み込んでしまった。


「……聞かないの?」


「なにが?」


「……今、傷を見たでしょう」


葉月は、一瞬だけ迷った。

それでも、嘘はつかなかった。


「……見えたよ。

でも、マコくんが言いたくないなら、言わなくていい」


“言わなくていい”。


その言葉が、かえって喉の奥を震わせた。


「……イヤだったのよ。

この身体で生まれたことが」


言葉を選びながら、息を吸う。


「女として見られるのが……気持ち悪くて」


震える指先が、胸元に触れる。


「だから……切り落としたくて。

この胸があるから、あんなことを……。

なかったら、私は……」


続きを、言葉にできなかった。


淑やかな雨音だけが、バス停の屋根を叩く。


葉月は、そっと真琴の隣に腰を下ろした。


「マコくん」


低く、静かな声。


「どんな身体でも、どんな過去でも。

私は、怖がらせるつもりはないよ」


少しだけ間を置いて、葉月は続きを優しく紡いだ。


「マコくんでも、マコちゃんでも。

味方でいたいな」


そう言って、葉月は私を抱き寄せ、優しく抱き締めた。


人に、こうして触れられるのは、数年ぶりだった。

 

それでも、あのときからずっと、私の身体は葉月を拒まなかった。


その優しさに、肩を震わせながら、私は葉月の肩に顔をうずめる。

 

嗚咽を、必死に殺しながら。


泣き止まない私の背中を、葉月はいつまでも、いつまでも撫でていた。





 

私はただ、葉月の腕の中で、雨音を遠くに聞いていた。

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