表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TRUE♰LIE  作者: れむ
30/34

宿る記憶

今日は、強盗未遂事件の被害聴取、その立ち合いに来ている。


本来はこういった場に同席する機会などないが、今回は特別に藍田さん直々の命で、後学の意味も兼ねて、葉月と共に立ち会うことになった。


普段は情報収集やパトロールがメインの俺たちにとって、事件の被害者とこうして対面するのは初めてだ。(捺やN.Tを除いては)


事前に読んだ資料によると、少女が一人で留守中に強盗に襲われたとのこと。


たまたま予定よりも早く両親が帰宅したために、強盗は何も盗らぬまま逃亡したらしい。


幸い命に別状はなかったものの、心の傷は計り知れないだろう。


現に、唯一犯人を見たであろう少女は口をつぐんだまま、虚ろな目で宙を捉えている。



「辛いことだとは思うけど、犯人を捕まえたいの」


 「どう?なにかおぼえている…?」


婦人警官も、付き添いの少女の母親も優しく声をかける。


しかし、どれも聞こえていないかのように、少女の表情はまるで変わらない。


唯一現場に残されていたのは、少女を脅迫する際に使われたナイフだけ。


ナイフからは、不思議なことに少女の指紋しか検出されなかったという。


(で。その凶器がこれ、か…)


真空パックされたままカゴに入れられた、ナイフに手を伸ばしたときだった。


 脳裏に断片的に映像が映し出される。


 それは、手をつなぎ仲睦まじく笑い合う兄妹の姿。


 そして、愛おしそうに名前を呼ぶ男の声。


『さち。かわいいおれの妹、うれしい』


 再びノイズが走り、映像が切り替わる。


 今度は真っ暗な視界の中で、同じ声が耳元でクリアに響いた。


『お前なんか(うち)にこなければ、ずっと幸せでいられたのに…!!!!』


 同じ人物とは思えないほど、憎しみに染まった声は激しくも、悲しくも聞こえた。


("妹"が家に"こなければ"ってことは、この事件の犯人は――…)


 静まり返った調書室に、つい口をついた思考の続きが響いた。

 

「……もしかして、義兄(おにい)さん?」


 その瞬間、少女の肩が大きく跳ねた。


 肩を震わせたまま、恐る恐る俺の方を振り向く。


 視線が重なった途端。


 せき止められたダムが決壊するように、少女はボロボロと涙を流しながら溢した。


 「私が…悪いの。私が、義兄(にい)さんのしあわせを壊したから…恨まれても、仕方ない…」


少女のこの発言が証拠となり、事態はすぐに動いた。


婦人警官の一報をきっかけに各所が慌ただしくなったところで、俺たちは退室するように促され、一足先に調書室を後にした。



 静かな廊下を歩く中、葉月は無邪気に問う。 


「すごいねゆず!なんでわかったの!?」


 「は、はは…ただの勘だよ」


  (そんなの、俺が聞きたい)


 目を見開いて感心する素直な葉月の視線が、地味に痛い。


 適当な嘘でかわしてみせたが、頭の中は混乱でいっぱいだった。

 

 断片的に見えた映像と声。


 あれは証拠品に宿った被害者(しょうじょ)の記憶だろうか。それとも、加害者(あに)の思念だろうか。


          ◇ ◇ ◇


 のちに聞いた話によると、犯人は予想通り義兄だった。


 動機は、両親の再婚による家庭内不和。


 兄妹は周囲にはずっと仲睦まじく見えていたものの、成長するたびに優秀になっていく妹。


 相反するように落ちこぼれていく兄。


 比較され義母から不当な扱いを受け続けた兄は家を出て、半グレとつるむようになったという。

 

そして、歪んだ憎しみの矛先は、かつては仲良かったはずの妹に向けられた。


しかし、少女は今でも優しくしてくれた義兄の面影を信じ、


家庭内での居場所を奪ってしまったという罪悪感と、


家族が犯人だなんて知ったところで誰も喜ばないと考えた彼女は、記憶を固く閉ざした。


ナイフから指紋が検出されなかったのも、彼をかばった少女がとっさにふき取ったらしい。



たったひとつボタンを掛け違えただけで、こんなにも歪な結果を生んでしまうとは、現実はひどく残酷だ。


          ◇ ◇ ◇


  その夜。


 目を閉じた途端、胸の奥がざわついた。


「ゆず……っ、ダメ……っ」


 誰かが、必死に名前を呼んでいる。


 声の主が誰だったのか。

 何を止めようとしていたのか。


 考えようとした瞬間、意識が遠のいた。







 

 答えのないまま。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ